解説者のプロフィール

柴田重信(しばた・しげのぶ)
薬学博士。1981年、九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。早稲田大学人間科学部教授などを経て2003年より現職。日本時間栄養学会会長も務める。『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社α新書)、『食べる時間を変えるだけ! 知って得する時間栄養学』(宝島社・監修書)など、著書・監修書多数。
3つの成分を一緒にとるのが秘訣
朝、栄養の代謝はピークを迎えます。この時間帯に何を食べるかで、その日の体調やパフォーマンスが変わってきます。
では、何を食べたらいいのでしょうか。最強の組み合わせは、「糖質+食物繊維+たんぱく質」です。
朝の糖質はエネルギーとして使われやすく、血糖値もそれほど上がりません。一緒に水溶性食物繊維をとれば、血糖値の上昇はさらに抑えられ、その効果は昼食や夕食まで続きます。
また、朝はたんばく質の代謝もよく、朝にたんぱく質をとると、筋肉量が増え、夜の睡眠を改善します。
さらに、この3つをとることで、体内時計がリセットされやすくなります。
体内時計は、睡眠と覚醒、血圧変化、糖・脂質代謝などの体の働きをコントロールする重要な機能です。
その体内時計の周期は、24時間より15~30分ほど長いので、毎日そのずれをリセットする必要があるのです。
食事をとると血糖値が上がり、インスリンが分泌されます。このインスリンが、体内時計をリセットするカギを握っています。
分泌されたインスリンは、時計遺伝子(体内時計を働かせる遺伝子)に信号を送り、体内時計をリセットします。
ところが、糖質だけをとるより、水溶性食物繊維やたんぱく質を一緒にとった方が、より強く体内時計に働きかけられるのです。
水溶性食物繊維が腸で分解されてつくられる短鎖脂肪酸には、GLP‐1というホルモンを増やす働きがあります。これが膵臓のβ細胞に結合すると、インスリンの分泌が促され、体内時計がリセットされるのです。
体内時計をリセットする成分は他にもあります。その1つが魚の油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)です。
しかしこれも、単独では体内時計をリセットできません。糖質をとってインスリンが分泌されやすい状態になって初めて、効果を発揮します。ですから、朝食に糖質と一緒にとることが大事なのです。
朝は、食物繊維の多い穀類を主食にし、おかずに魚をつけると理想的です。また、基本の食事に、ゴマや緑茶、トマト、ゴボウなどをプラスすると、より効果的です(詳細は下項参照)。
起きて2時間までが食べるタイミング
朝ごはんでとりたい成分はこれ!

朝食は、目覚めてから1時間以内、遅くとも2時間以内に食べるようにしましょう。こうすることで、体内時計の主時計と末梢時計の時間が揃います。
ちなみに、朝に食べているから「朝食」だとは限りません。朝食とは、1日のうち一番長い絶食時間後に初めて食べる食事のことを指します。長時間の絶食の後に食事をとることで、体内時計が「朝だ」と認識し、リセットされます。
夕食を早めに済ませ、その後は食事をとらないようにすることも、体内時計を狂わせないためには重要です。
朝ごはんで食べたいお勧め食材6

緑茶
体内時計を調節
緑茶カテキンの一種、エピガロカテキンガレートには、体内時計の1日のリズムを制御するサーチュイン遺伝子を介して、体内時計を調節する働きがあります。

ゴマ
脂質代謝異常を改善
ゴマに含まれるセサミンには、脂質代謝異常(コレステロールや中性脂肪が高過ぎたり低過ぎたりする状態)を改善する効果があります。朝の摂取で、脂質代謝異常のラットの総コレステロール値が低下しました。

ゴボウ
高血糖や便秘を防ぐ
水溶性食物繊維のイヌリンを多く含み、朝とると、高血糖予防、便通や腸内環境の改善効果が期待できます。

トマト
体の酸化を防ぐ
トマトの赤い色素リコピンには、強い抗酸化作用があります。リコピンは朝吸収されやすく、朝食後の血中濃度が最も高くなるので、日中に増加する酸化ストレスを低減してくれます。

食物繊維の多い穀物
血糖値の上昇をゆるやかにする
朝とると、食後の血糖値の上昇がゆるやかになり、大腸での醗酵分解の過程で産生される短鎖脂肪酸が、体内時計の調節に役立ちます。

ベリー類
体内時計を調節
ベリー類に含まれるプロアントシアニジンというポリフェノールは、肝臓や腸の時計遺伝子に作用して、体内時計を調節します。

この記事は『安心』2022年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp▼朝食に関する記事をもっと読む