解説者のプロフィール

内藤裕二(ないとう・ゆうじ)
京都府立医科大学消化器内科学教室准教授などを経て、2021年より現職。日本消化器内視鏡学会専門医。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、消化管学、酸化ストレスと消化管炎症、生活習慣病。長年、腸内細菌を研究し続けている腸のスペシャリスト。著書に『酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる 』(あさ出版)などがある。
胃や食道と無関係そうな症状が現れることも
逆流性食道炎は名前のとおり、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流することで、食道の粘膜がただれる病気です。
私たちが口にした飲食物は、食道を通って胃に運ばれます。胃では食べ物を消化するための、強い酸である胃酸が分泌されています。
胃には胃の壁を保護する粘液が分泌されているため、胃酸でダメージを受けることはありません。しかし、食道には胃のような酸から守るしくみはないため、胃酸が逆流すると、ダメージを受けるのです。
胃酸が逆流する原因としては、胃の入り口を開け閉めする弁の働きをしている下部食道括約筋が緩んで締まりが悪くなったり、胃酸の分泌量が多くなったりすることが考えられます。

逆流性食道炎と関係している臓器
逆流性食道炎の主な症状として、以下が挙げられます。
●胸やけ・呑酸(酸っぱい物がこみ上げてくる)
●ゲップが増える
●胃が痛む、もたれる
●胸がチリチリする、ムカムカする、気持ちが悪い
ときには、胃や食道と関係なさそうに思われる症状が現れることもあります。例えば、のどの違和感や声がれ、しつこいセキやぜんそく症状、胸や背中の痛み、肩こり、不眠などです。
こうした症状が現れたとき、胃酸の分泌を抑えるタイプの胃薬を飲んで症状が改善されたら、逆流性食道炎が原因の可能性があります。
特に、耳鼻咽喉科や呼吸器科で治療してもなかなかよくならないセキや気管支炎などは、逆流した胃酸による刺激が原因のことがあるので、要注意です。
逆流を防ぐ薬はない!生活習慣の改善が重要
逆流性食道炎は一種の生活習慣病といえ、胃酸の過剰な分泌や逆流を招くような生活習慣などが発症にかかわります。その要因を解説しましょう。
●喫煙
タバコは胃酸の分泌量を増やし、下部食道括約筋の締まりを緩める作用があります。
●肥満
腹部に脂肪が多いと、胃が押されて逆流を招きます。
●食事
食べ過ぎや脂肪分の多い食事は、下部食道括約筋を緩める原因となります。また、寝る直前の食事は、逆流を招きやすくなります。
●姿勢
前かがみの姿勢が多いと、胃が圧迫されて胃酸が逆流しやすくなります。
●筋肉量
最近の研究によると、筋肉量が減少したサルコペニアの人は、逆流性食道炎のリスクが高まるという報告があります。全身の筋肉量が減ると姿勢が悪くなり、食道と胃の角度が変わるため、逆流性食道炎を招くと考えられます。
●胃の形
食道裂孔ヘルニアなど、胃の形の影響で逆流が起こりやすくなることがあります。
●持病の影響
骨粗鬆症などで背骨が変形して背中が丸くなると胃が圧迫されて胃酸が逆流しやすくなります。糖尿病や膠原病の影響でも、発症しやすくなることがあります。
●薬の影響
高血圧などの治療に用いられるカルシウム拮抗薬や、気管支拡張薬のβ刺激薬、テオフィリンなどの薬は、逆流性食道炎の症状に影響を与える可能性があります。
逆流性食道炎は命にかかわる病気ではなく、軽症であれば自然治癒することが多いものです。しかし、不快症状が長引けば、日常生活に支障が出ることがあります。
また、重症化すると食道潰瘍になったり、可能性は低いですが、食道がんにつながったりするおそれもあります。高齢者の場合、逆流した胃酸を誤嚥すると、誤嚥性肺炎になるリスクもあります。
そのため、逆流性食道炎が疑われるときは、放置せずに内科や消化器内科を受診し、診断を受けることをお勧めします。
逆流性食道炎と診断されたら、薬による治療と生活の改善を行います。投薬治療では「プロトンポンプ阻害薬(PPI製剤)」など胃酸の分泌を抑える薬が主に用いられます。薬の服用で、逆流性食道炎の約8割の人に症状の改善が見られます。
胃酸の逆流そのものを防ぐ薬は今のところありません。治療効果を高めるには、投薬に加え、逆流を招きやすい生活習慣を改めることが欠かせません。
逆流性食道炎の診療ガイドラインにも、生活習慣の指導として「禁煙」「就寝3時間前までに食事を終える」「肥満予防や減量」「睡眠時の頭位を高くする」が挙げられており、こうした生活習慣の改善は重要です。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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