食材にはそれぞれ、いちばんおいしい旬があります。いい品を見つけたら、そのタイミングを逃さないように買いつけます。出来上がった保存食は消毒した清潔な瓶などに詰めておき、それぞれに適した場所に保管しておけば、いつでもスタンバイOK。家族で食べることもあれば、友人が来たときにおもてなしとして出したり、人に会うときの手土産にしたりと、大いに活躍してくれます。【解説】ダンノマリコ(フードスタイリスト)

解説者のプロフィール

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ダンノマリコ

フードスタイリスト。栄養士。フードコーディネーターのもとでアシスタントを6年間務めたのち独立。雑誌、書籍の料理制作とスタイリングを手がける。数年前より日本の魚介のすばらしさにひかれ、自宅で少人数制の「オサカナワークショップ」を主催している。近著に『野菜・果物・魚介・肉 365日おいしいびん詰め 保存食&食べ方テク』(朝日新聞出版)、『フライパンひとつで魚のごちそう』(青春出版社)がある。

誰かと分かち合うことで楽しさもおいしさも倍増

台所に立つのが好きな私の母は、思えば昔から、佃煮や梅酒などといった手作りの保存食をよく作っていました。

そんな母の影響でしょう、料理を作るのも食べるのも好きな私は、食物栄養を専攻。栄養士の資格を取り、フードスタイリストの仕事をしています。

フードスタイリストとは、雑誌や書籍などのメディアで取り上げられる料理を、それに合った食器に盛りつけ、見栄えよく整える仕事です。近年は食に関するさまざまな方面に興味が広がり、スタイリングにとどまらず、レシピ考案や調理も手がけるようになりました。

そんな私が、三度の食事作りとは別に、一年を通して楽しんでいるのが、季節の保存食を作ること。

食材にはそれぞれ、いちばんおいしい旬があります。いい品を見つけたら、そのタイミングを逃さないように買いつけます。出来上がった保存食は消毒した清潔な瓶などに詰めておき、それぞれに適した場所に保管しておけば、いつでもスタンバイOKです。

もちろん、家族で食べることもあれば、友人が来たときにおもてなしとして出したり、人に会うときの手土産にしたりと、大いに活躍してくれます。

瓶詰めは、私にとって、人とのコミュニケーションツールといえるでしょうか。誰かと分かち合うことで、作る楽しさや食べるおいしさは何倍にもなります。食を通して人と交流することは、心を元気に保つことにつながっているのです。

保存食作りが好きというと、なかには「ふだんの料理だけでも大変なのに、忙しくてとても無理」という人もいます。

確かに、まとまった時間はなかなか確保できません。そんなときは、一気に作ろうとせず、「今日のところは塩漬けまで」などといったように作業工程を小分けにし、何日かかけて仕込むようにしています。

どうしても時間が取れないときは、「今年はやめておこう」とあきらめることも。無理して作る必要はありません。

画像: ダンノさんの台所に並ぶ瓶詰めの数々

ダンノさんの台所に並ぶ瓶詰めの数々

次の季節は何を作ろう?年月が経つのも悪くない

保存食作りは、瓶詰めにしたあとだけでなく、作る過程もまた楽しいものです。

例えば、よく行くスーパーや小売店で売り場の人と仲よくなれば、旬の食材の入荷状況や、おいしい食べ方を教えてくれることもあります。店員さんとのおしゃべりは、仕事のうえでも勉強になります。

いい食材を手に入れたら、新鮮なうちに、すきま時間を見つけて準備を開始。食材に向き合いながら、例年と違う作り方を試したり、より長くおいしく食べる方法を考えたり。そんな工夫を重ねて、うまくいったときの達成感も、季節の保存食を作る醍醐味でしょう。

レシピは、どんな保存食でもすでに、王道といわれるような作り方があります。それをヒントに調味料の量を加減すれば、自分好みの味に仕上がります。

品質を長く保つためには、塩漬けや砂糖漬けにするのが定番です。とはいえ、塩分や糖分を控えたいかたもいるでしょう。調味料を控えた場合は、瓶ごと冷凍するのもお勧めです。

急激な温度変化がなければ、食品用に作られた瓶は、そうそう割れません。中の食材が冷えてから冷凍庫に入れ、食べる前に冷蔵庫に移して解凍。こうしておけば、例えば秋に作ったいくらのしょうゆ漬けを、年が明けても楽しめるというわけです。

秋といえばもう1つ、毎年恒例なのが栗のペースト。いい栗が手に入ると、心が躍ります。皮ごと1時間近くゆでたら半分にカット。スプーンでくり抜くようにして中身を出し、網で裏ごしして、砂糖と合わせたら出来上がりです。ペースト状にしたほうが、栗そのもののおいしさが際立つように感じます。

トーストやお餅に塗って食べるほか、お客様がいらしたら、茶きん絞りにしてお出しすれば立派なおもてなしになります。

冬に向けての楽しみは、なんといってもユズでしょう。なかでも、皮の黄色い部分をすりおろして塩と合わせたユズ塩や、果汁を使って作るユズぽん酢が定番です。作っている間、さわやかな香りが台所中に広がり、疲れているときでも気分をリフレッシュできます。

仕込んでからの変化が楽しい保存食といえば、みそなどの発酵食品や、梅干し、梅酒など。食べごろまで待つ間も、「いい色になってきたな」と、まるでペットのように育てています。

手作り仲間と交換して、その年の出来を比べ合うのも一興。瓶に詰めて人にプレゼントしても喜ばれるでしょう。次の項では、秋にお勧めの瓶詰めを、2品ご紹介します。

季節が巡るたびに「次は何を作ろうか」とワクワクしているうちは、年月が経つのも悪くないと思えるのです。年を重ねても、気は若く保ちつつ、新たな食材との出合いを心待ちにしたいと思います。

イチジクのシロップ漬け

画像: イチジクのシロップ漬け

材料(出来上がり目安量=350g)
イチジク…5個(正味280g)
グラニュー糖…110g(イチジクの重量の40%が目安。好みで調整可)
赤ワイン…大さじ4
レモン汁…大さじ2

イチジクは皮がむけないようそっと洗い、先端の軸を切り落とす。縦2つ割りにしてから、さらに縦半分~3等分に切り、ボウルに入れる。
小鍋にグラニュー糖と赤ワインを入れ、焦がさないよう注意しながら、中火にかけて煮溶かす。
半量になるまで煮詰めたら、①に回しかける。
そのまま1~2時間おき、水分が出たら汁だけを鍋に戻し、もう1度③をくり返す。
④の粗熱が取れたらレモン汁を合わせて完成。

保存
密閉容器に移して保存。冷蔵で1週間ほど日もちする。冷凍なら1ヵ月は保存が可能。食べるときは冷蔵庫で自然解凍する。

エノキとマイタケのなめたけ

画像: エノキとマイタケのなめたけ

材料(出来上がり目安量=350g)
エノキダケ…150g(味が濃い茶色がお勧め。なければ白でも可)
マイタケ…150g
酒…100ml
しょうゆ、みりん…各50ml

エノキダケは、石突きを切り落としてから、3~4cm長さに切ってほぐす。マイタケは手でひと口大にほぐす。
①と調味料を鍋に入れ、中火にかける。
沸騰させ、アクが出たら取り除き、5分ほど煮る。粗熱が取れたら完成。

保存
密閉容器に移して保存。冷蔵で2週間ほど日もちする。
※長期保存したい場合は、熱々のなめたけを消毒した瓶に9分まで入れて、すぐにふたをする→冷めたらふたを緩めて中の空気を逃がす(プシュッと音がする)→すぐにふたを閉める。常温で3ヵ月、冷蔵庫で半年ほど保存が可能。

画像: この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。

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