解説者のプロフィール

石阪京子(いしざか・きょうこ)
片づけアドバイザー。宅地建物取引士。JADPメンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラー。夫と不動産会社を起業したのを機に、女性目線での設計と家の片づけを提案。独自メソッドで成功した人は1,000人に上る。『一回やれば、一生散らからない!「3日片づけ」プログラム これが最後の片づけ!』(ダイヤモンド社)ほか著書多数。
物の収納はパズル!認知症の予防にも役立つ
片づけや収納が苦手なお宅に伺って、アドバイスをするのが私の仕事です。今はコロナ禍でオンラインが中心ですが、それまでは全国各地で、セミナーやレッスンを開催していました。
高齢になるほど体が動かず、片づけがおっくうになるものです。
私は「50代なら、今すぐやる。60代は体力のある最後の年代なのでとっととやる。そうすれば70~80代は、ちょこっとリセットするだけできれいな家を保てる」とお伝えしています。
とはいえ、「私はもう70代だから無理」ということはありません。片づけはいつからでも、十分間に合うのです。
そして、家を片づけると、メンタル面に変化が現れます。
例えば、家にいることが好きになり、心に余裕が生まれる。友人を家に招けるので、人と交わるのが楽しくなる。家の雰囲気が明るくなり、家族仲がよくなる……といったぐあいです。
キッチンが清潔になれば、自炊への意欲がわき、健康度が高まります。寝室の環境が整えば睡眠の質も向上します。そもそも、物の収納はパズルのようなもの。日ごろから意識すれば、認知症の予防にも役立ちます。
片づけは、心も体も若々しく保つことにつながるのです。
今回は、特に高齢のかたに向けて、今日から始められる片づけのポイントをまとめました。実は最近、私自身が実家の片づけに奮闘しました。そのときの状況を振り返りながら見ていきましょう。
万年床をベッドに替えて収納スペースを増やす!
肝心なのは、「なぜ片づけたいのか」。片づけてどうしたいのか、ゴールを明確に設定しないと、方向性がぶれて、優先順位を決められなくなります。
私の場合、先日から入院していた母を実家で在宅介護することになり、それが、片づけを必要とした理由でした。ゴールは「1階のリビングに、母の介護ベッドを、その横に父のベッドを置くこと」です。
ゴールを決めれば、必要なことがおのずと見えてきます。リビングにあったソファーや座卓は置く場所がないので、処分するほかありません。我が家の場合でなくても、大きな家具から捨てるのは有効な手立てです。
父は「このソファーは高かったから捨てたくない。2階に置こう」と主張しましたが、「どうやって運ぶの?」と話すと、無理だとわかってくれました。
こうしてリビングにスペースを作り、無事にベッドを搬入。実は、寝床を布団からベッドに替えるのは、片づけの最重要ポイントといっても過言ではありません。
というのも、私の経験上、片づかない家の大半は「布団派」だからです。実際、片づけレッスンに来られる生徒さんの9割は、布団派です。
高齢になると、布団を干すのは至難の業。万年床になりがちで、カビが生えやすいうえ、仮に畳んでも床掃除が行き届きません。清潔とは、ほど遠い寝室環境です。布団を畳むときのために押入れを常に空けておくのも、スペースがもったいない。
ベッドを置いて、ベッド下に物を収納すれば、これらの問題はすべて解決します。
下の写真は、実際にレッスンをさせていただいた70代女性の、片づけ前と後の、部屋の様子です。布団は干さなくても、布団乾燥機を使えば、いつもサラサラで清潔を保てます。

左:【片づけ前】布団の周りに物が散らかったまま、雑然としている。
右:【片づけ後】ベッドにしてスッキリ変身! 掃除もしやすく清潔。
協力しない家族の空間は「隣人の部屋」と割り切る
不要になり処分が決まった物は、自治体の粗大ゴミの日に、こまめに出しましょう。粗大ゴミの日を把握して「その日までに、ここを片づける」と決めるのも、1つの方法です。
高齢のかたは特に、「まだ使えるからもったいない」と、なかなか物を捨てられないものです。陶器セットや引き出物のタオルなどは、リサイクルショップに売ったり、人に譲ったりしましょう。お金になるか、誰かが有効活用してくれると思えば心おきなく手放せるはずです。
子や孫がいるなら、「これ、もらってくれない?」と積極的に声がけすると、なお片づけがはかどります。肝心なのは、物の行方を詮索しないこと。売っても処分しても、相手の自由です。「使ってくれたらラッキー」くらいの気持ちで譲ると、双方あとくされがなくて済みます。
片づけを始めると、あそこもここも……と、つい欲張ってしまいがち。けれども高齢のかたの場合、無理は禁物です。「1日に1時間」などと決め、少しずつ進めてください。
大きな荷物の運び出しに、若い世代の協力が得られないのであれば、運送業者や引っ越し業者の「家具移動サービス」などを利用するのがお勧めです。多少の料金はかかりますが、腰を痛める心配はありません。
注意すべきは、悪質な引き取り業者。法外な価格を請求するなどの被害が出ています。高齢者は狙われやすいので、知らない業者に頼むときは、必ず誰かに立ち会ってもらいましょう。
せっかく片づける気になっても、よくあるのが「なだめてもすかしても、夫が協力してくれない」というケースです。実は片づけレッスンの依頼者は、ほぼ女性。男性は、基本的に現状維持を好む傾向があります。
そんなときは「捨てなくてもいいから」といいつつ、共用スペースに置かれた夫の物を淡々と夫の部屋に移動。そこは片づかなくても、相手の場所として割り切ることです。
「マンションの隣人の部屋」くらいのつもりで、気長に構えましょう。きれいな空間に出入りするうちに、夫も片づけたくなってくること請け合いです。
家が片づくと動線が整理され足運びがスムーズになります。心も体も軽くなり、イキイキと若返る家の片づけ。早速、今日から始めてみませんか。
高齢でも始められる!片づけのポイント

◎ゴールを設定する
なぜ片づけたいのか、何を優先すべきかを認識してから始める
◎大きい物から捨てる
ソファーや座卓から捨てれば大きな空間ができ、やる気も増す
◎布団をやめてベッドにする
万年床になりがちで不衛生。ベッド下を収納に活用できる
◎粗大ゴミの日を活用してこまめに出す
取っておくほど処分料がかさむ。自治体サービスを極力活用
◎売れもしないが捨てられない物は人に譲る
「もったいない」なら、誰かに使ってもらえればよしとする
◎高齢者は無理せず少しずつ
重い物の移動は腰などを痛めないよう子や孫に頼むか、業者を利用する
◎人に片づけを強制しない
協力しない家族の物はその人の部屋に押し込み、「隣の家」と思って割り切る

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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