文字を追い、想像し、感情がわき出て心若返る
皆さん、図書館はよく利用されていますか?
私は、東京都内の公立図書館に勤める司書です。この仕事に就いて、16年になります。ここでは、健康意識の高い読者の皆さんが本を通じてさらに健康に、心が若返るためのヒントを考えたいと思います。
私たちは本を読むことで、知らない世界に触れて知識を深めたり、物語の主人公と同じ気持ちでワクワクドキドキしたり、さまざまな体験を得ることができます。文字を追って想像し、感情がわき出る。読書そのものが、心や体の若返りに役立つことは間違いありません。
基本的には、興味のある本を読むのがいちばんです。けれども、なかには「退職して時間ができたので読書を趣味にしたいが、図書館は本が多くて、何から読めばいいかわからない」というかたもいるようです。
人気作家の最新作や文学賞の話題作を読めば間違いない、と思われるかもしれません。ただそうした本は、図書館に入っても、すぐに数十人の予約待ちになってしまいます。
ちなみに、例えば文学賞受賞作や話題作の新聞広告を見て来館されるのは、女性のほうが多い傾向にあります。女性は年齢を問わず、新しい話題や流行に関心がおありです。
一方、男性で話題作に興味を持たれるのは、比較的若い年代のかたです。中高年になると、新聞の書評欄を手に本を探すかたが多く見られます。
いずれにせよ、せっかく話題の最新作や評価の高い本を借りても興味がわかず、読み進められない可能性もあります。そうした経験を重ねるうちに好きな作家さんを見つけていくのも読書の楽しみといえるでしょう。
けれども、読書になじみのないかたは、まずどんな本から手に取るのがいいでしょうか。
まっ先に思いつくのは「趣味にまつわる本」です。
車が好きなら、カー雑誌から入るのもいいですね。庭いじりをするならガーデニングの本。旅行好きなら、旅行雑誌や名所の写真集も楽しめると思います。
次に手がかりとなるのは「これまでにしてきた仕事」。
例えば銀行勤めだったなら、元銀行マンである、池井戸潤さんなどの小説がお勧めです。物語の背景が理解しやすく、容易に感情移入できるはず。退職されたばかりなら、経済・ビジネス系の雑誌なども、興味深く読めるでしょう。
ちなみに、自分と同性の作家のほうが、作品に感情移入しやすいものです。本選びの参考にしてみてください。
シリーズものにハマれば楽しみも末長く続く!
「シリーズもの」を読んでみるのも、いい方法です。時代小説の名手なら、池波正太郎さんや佐伯泰英さん。警察ものなら大沢在昌さん、今野敏さん。
シリーズになるというのは、それだけおもしろい、読む人が多くいるというあかしです。
テレビドラマ化された作品であれば、さらにとっつきやすいでしょう。西村京太郎さんの「十津川警部シリーズ」、山村美紗さんの「狩矢父娘シリーズ」などが有名ですね。世界観にハマると、続きが読みたくなるので末長く楽しめます。
シリーズものといえば、那須正幹さんの「ズッコケ三人組シリーズ」はご存じでしょうか。児童文学のロングセラーで、主人公の男子三人組は、小学6年生です。シリーズは全50巻で完結しました。
その後、三人組が40代になった設定の大人向けの物語「中年三人組」が発刊されたところ、昔に親しんだ世代の間で人気が高まり、こちらもシリーズ化。「中年~」が10巻続いたあと、さらに「熟年三人組」が発刊され、全編完結しています。
「小さいころに夢中になった児童文学作品」から読み返してみるのも、懐かしい記憶がよみがえり、脳を活性化させるかもしれませんね。
そういえば、お孫さんへの読み聞かせのため、児童書を借りるかたもいらっしゃいます。読み聞かせは認知症予防に効果的といいますし、お孫さんにも喜ばれて、まさに一石二鳥です。
〝読書それ自体が若返りに貢献する〟と述べましたが、もっと直接的に、本で脳を鍛える方法もあります。「脳トレやクイズの本」の活用です。
もちろん、図書館の本なので書き込みはできませんが、司書に確認してから複写サービスを利用して、せっせと問題を解くかたもお見かけします。
健康に関連していうと、読書で禁煙に成功した利用者さんもいらっしゃいました。70歳くらいの常連の男性が、図書館にいる間、タバコを吸うために何度も離席していました。「禁煙の本はないかい?」と聞かれたので、禁煙メソッドの本をお勧めしたのです。
毎日のように「今日も吸わなかった!」と報告を受けていたのですが、しばらくして「おかげでタバコをやめられたよ」と喜んでいらっしゃいました。
お話ししてきたような手がかりをきっかけに、ぜひ本に親しみ、若返りや健康づくりに役立てていただければと思います。
それでも本選びに迷ったときは、図書館司書に、お気軽に声をかけてくださいね。
※立花あゆこさんは、以下のブログでお勧めの本などを紹介しています。
【現役図書館司書が選ぶ】読書ができない、本が苦手なあなたへ♪ 毎日なぜか本を読みたくなっちゃう習慣とオススメ本
「読みたい本」を見つけよう!
●趣味にまつわる本
●就いた職業にまつわる本
●シリーズものの小説
●昔に読んだ児童文学
●脳トレやクイズの本


この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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