解説者のプロフィール

小栗章弘(おぐり・あきひろ)
日本眼科学会認定眼科専門医。1991年、岐阜大学医学部を卒業後、岐阜大学医学部附属病院、清水厚生病院、医療法人白鳳会鷲見病院に勤務。99年、アメリカに渡り、緑内障の研究に携わる。2004年、滋賀県長浜市にて、おぐり眼科クリニック(現おぐりクリニック)を開院し、15年に愛知県名古屋市でおぐり近視眼科・内科クリニック(現栄眼科クリニック)を開院。幅広い目の疾患の診療にあたっている。
コンタクトレンズ使用者は40代から症状が出る!
近年、「眼瞼下垂」でお悩みのかたが増えています。
眼瞼下垂とは、まぶたが下がってきて、視界が狭くなってしまう症状のこと。下記のセルフチェック表をご覧ください。皆さんは、大丈夫でしょうか?
眼瞼下垂セルフチェック
以下の項目に、2つ以上当てはまる人は、眼瞼下垂の可能性がある。
□まぶたが重いと感じることがある
□日常的にコンタクトレンズを装用している
□おでこにシワが増えてきた
□上まぶたがくぼんでいるように見える
□目が小さくなった気がする
□眉毛と上まつ毛の間が広くなったような気がする
眼瞼下垂の目の特徴
まぶたが瞳孔の中心より下の位置にある。おでこにしわが寄っている場合も多い。

眼瞼下垂が起こる原因には、次のようなものがあります。
❶加齢
年を取ると、眼瞼挙筋など、まぶたを引き上げている筋肉が弱ってきます。そのためまぶたが十分に上がらなくなります。
私たちは、1日に万単位のまばたきをしています。まばたきをするということは、まぶたと眼球がこすれるということです。若いうちは、涙が潤沢に分泌されているため、まばたきの際の摩擦が小さく済みます。
しかし、年を取ると涙の分泌が減り、まばたきをするたび、まぶたは大きい摩擦を受けることになります。
仮に1日に1万回のまばたきをすると、1年で365万回。涙が少なくなると、摩擦も大きくなり、その摩擦に抗ってまばたきをしているうちに、まぶたを引き上げる筋肉が弱ってしまうのです。
❷コンタクトレンズ
コンタクトレンズをしていると、40代くらいから多数の人に眼瞼下垂が起こり始めます。コンタクトをしていると、まばたきの際の摩擦が、裸眼よりもさらに強くなるからです。
例えば、ソフトコンタクト使用者の場合、目薬をつけずに長時間装用していると、レンズがどんどん涙を吸ってしまいます。すると涙の量が減り、まばたきの際の摩擦が大きくなって、眼瞼挙筋に負荷がかかります。
また、ハードコンタクトの場合、かたいレンズを目とまぶたの間に挟むわけですから、それだけ負荷が大きくなり、眼瞼挙筋が弱りやすくなります。
❸花粉症などのアレルギー症状
花粉症などでアレルギー性の反応が目の結膜(まぶたの裏側や目の白目の部分)に起こると、結膜に充血が起こって、腫れたりします。
この状態でまばたきをすれば、腫れた状態でこすり合わせることになり、摩擦が強くなって、まぶたの負担となるのです。また、慢性のアレルギー性炎症のかたは、目に蓄えられている涙の量が減るので、ドライアイが起こります。するとまばたきしたときの負荷も大きくなります。
さらに、アレルギーで目にかゆみが生じて、目をこすることでも、眼瞼挙筋は傷みます。まばたきをすることだけでも負担がかかりますが、こすることで、まぶたを引き上げる筋肉がさらに傷つけられるのです。
➍メイク
化粧落としのときにゴシゴシこすることは、まぶたを傷める要因となります。また、二重まぶたを作るメイクや、まつ毛のきわにまで入れるメイクは、まぶたの負担となります。
高血圧や更年期障害、頭痛につながることも
眼瞼下垂になると、まぶたが上がらなくなる以外に、全身にさまざまな弊害が起こります。
眼瞼挙筋が弱り、まぶたが上がらないと、かわりに額の前頭筋(額にシワを寄せる筋肉)がまぶたを持ち上げようとします。すると、前頭筋が強くこわばります。
それが、内臓や血管などの働きを自動的に調整する交感神経の過緊張を引き起こし、血圧を上げたり、涙の分泌を減らしたりするなど、さまざまな不定愁訴が起こります。さらには、しつこい首や肩のコリ、更年期障害や、慢性的な頭痛なども生じるのです。
こうした眼瞼下垂の症状を予防するために、何をすればよいでしょうか。皆さんにお勧めしたいのが、生活のなかでできるちょっとした工夫です。
●目薬を使った保湿ケア
加齢によって涙の分泌が減ると、目が乾きやすくなります。目薬で涙を補えば、まぶたの開閉の際の摩擦が少なくなります。市販の目薬でもよいのですが、眼科医に相談し、涙を補完するような目薬を処方してもらうのがベストです。
●コンタクトレンズの使用を控える
できるだけメガネを使用するようにし、コンタクトの装用時間を少なくしてください。
●目をこすらない
不必要にまぶたを触らないようにしましょう。化粧落としの際は特に注意してください。
●まばたきを適度に行う
パソコンやスマホを凝視していると、まばたきの回数が減り、ドライアイになります。過剰なまばたきはまぶたを傷める原因になりますが、前述のように、ドライアイもまた、まぶたに大きな負担を与えます。パソコン作業が多いかたは、ドライアイの予防のため、適度にまばたきの回数を増やしましょう。
●適度に休憩する
まぶたが重いと感じたら、早めに休憩してください。目を閉じて、自分の手でまぶたを軽く覆うようにして、温めるのもお勧めです。
生活に支障が出てきたら手術の検討もお勧め
また、表情筋を使うようなセルフケアも効果的です。特に簡単でお勧めなのが、下で紹介する「あいうえお体操」です。
これは、こわばっている前頭筋をはじめ、顔全体を緩ませることを目的としています。いつでもできる体操ですので、ぜひ根気よく続けてください。
これらのセルフケアを続けると、眼瞼下垂を予防し、進行を止めるだけでなく、首や肩のコリが楽になるなどの効果が得られます。交感神経の過緊張がほぐれれば、更年期障害などの不定愁訴を改善することも期待できるでしょう。
それでも眼瞼下垂の症状が進み、まぶたが下がり、視界が狭められて生活に大きな支障が出てきたら、手術を検討することをお勧めします。
眼科で行う眼瞼下垂の手術は、基本的には健康保険が適用できます。皮膚を切開する方法と、切開しない方法があり、いずれも所要時間は片目で約30分ほど。入院も不要です。
ただし、「目を大きく見せたい」「こんな形の目に」といった要望があるかたは、美容形成外科への相談が必要です。
あいうえお体操のやり方
前頭筋をはじめとする顔の筋肉を使うことをイメージしながら、大げさなくらいに大きく「あー、いー、うー、えー、おー」と発声する。朝晩の1日2回行うのがお勧め。

顔を外側に伸ばすイメージで!

口をしっかり横に広げて!

唇をすぼめて突き出す。口の周りの筋肉を中央に寄せて!

口角(唇の両端)をめいっぱい引き上げて!

唇を縦に開いて!

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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