解説者のプロフィール

山田秀和(やまだ・ひでかず)
日本抗加齢医学会理事長、近畿大学アンチエイジングセンター客員教授、近畿大学医学部客員教授。近畿大学医学部卒業、同大学院修了。専門は皮膚科学(免疫・アレルギー疾患)、抗加齢医学。オーストリア政府給費生(ウィーン大学皮膚科)、近畿大学在外研究員(ウィーン大学)、近畿大学医学部奈良病院教授などを経て現職。
見た目が老けていると内臓も老いている!
世のなかには、実際の年齢より若く見える人もいれば、老けて見える人もいます。果たしてそれは、見た目だけの問題なのでしょうか。
アンチエイジングを研究している私から言わせていただくと、「老化は病」です。
皮膚のシワやたるみだけでなく、脳や内臓、心血管系の病気など、さまざまな疾患の上流に老化があります。体が老化することによって、見た目が老いるだけでなく、ある人は認知症になったり、ある人はがんになったり、ある人は心血管系の病気になったりするのです。
つまり、実年齢に関係なく、見た目が老けている人は、体の内部も劣化している可能性があるということ。実際、見た目と体の老化には相関関係があることを示す研究結果も報告されています。
ニュージーランドのダニーデンという村で、同じ年齢の住民1000人を1970年代から観察した研究です。
それによると、脳の老化が最も進んでいるとされた10人は、45歳の時点で、顔の見た目年齢が平均より4.32歳上でした。しかも、免疫や循環器、呼吸器、腎臓など19種類を総合した老化の進み具合も、外見的な顔の老化と相関関係があったそうです。
こうした研究に代表されるように、健康長寿を目指すうえでは、「暦年齢(実年齢)ではなく生物学的年齢(肉体年齢)を重視すべき」とする意見が、近年活発化しています。それに伴い、最近は血液検査によって生物学的年齢や、老化の加速度も測定できるようになりました。
老化のメカニズムもわかってきていて、対策を講じることで、いまや体の老化をコントロールすることが可能になってきているのです。
老化を遅らせるための4つのアプローチ
では、老化を進行させる要因とは何でしょうか。
デンマークの双子約1800人を対象とした研究によると、双子のうち年上に見える人のほうが、先に亡くなる傾向があることが明らかになっています。
この研究でも、見た目と心身の老化には相関関係があるということがわかります。しかも、遺伝情報がほぼ共通する一卵性双生児でもこのような差が出るということは、老化の要因は遺伝ではなく環境によるところが大きいと考えられます。
具体的には、遺伝的要因が2〜3割、生活習慣を含む環境要因が7〜8割といわれています。
そして、その環境要因としては、「運動、栄養、精神(睡眠・脳)、環境」という4つが関連するとわかっています。

老化を遅らせる4つのカギ
要するに、老化を遅らせるには、これら4つの要因にアプローチしていけばよいのです。
ただし、どれか1つを正せばよいというものではありません。アンチエイジングにおいては、すべてに総合的に取り組むことが重要です。
適度な運動をして、食事の内容や量に気をつけ、適切な睡眠を取ること。いつもポジティブでいること。そして、温度・紫外線・騒音などの環境にも配慮する必要があるということです。
皆さん、肌の老化を防ごうと思ったら、紫外線に気をつけたり、食事や睡眠に気をつけたりしますよね。ボディラインを若々しく保とうと思ったら、運動したり、太らないような食生活を心がけたりするのではないでしょうか。
けっきょく、老化の要因に多角的にアプローチすることは、見た目を若くすることにつながり、ひいては体の中まで若返らせ、健康長寿を実現することにつながるのです。
女性の場合、閉経すると骨粗鬆症が進み、頭蓋骨の骨が小さくなることで、余った皮膚がたるんだり、シワになったりもします。ですから、美容と健康のためには、骨粗鬆症を予防する食事や運動も心がける必要があるでしょう。
さらに、私たちは現在、「見た目を若くすることで、体の内的老化にアプローチすることはできないだろうか」という観点からも研究に取り組んでいます。
認知症の専門家である阿部康二先生の実験では、施設に入所しているお年寄りに化粧をしてもらうと、見た目年齢が若返ったことはもちろん、軽度認知症のスコアも改善したと報告されています。
「いつまでも若くいたい」と思う気持ちと行動が、健康寿命に影響することは多いにありえるのではないでしょうか。
皆さんも、運動、栄養、精神・睡眠、環境に総合的に取り組んで、見た目の美しさと体の健康の両方を手に入れてください。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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