解説者のプロフィール

永井竜児(ながい・りょうじ)
1999年3月、熊本大学大学院医学研究科修了・博士(医学)。専門分野は、食品機能学、生化学。熊本大学大学院医学薬学研究部病態生化学講座助教、東海大学農学部准教授などを経て、2017年4月同教授。著書に『間違いだらけの栄養学』(辰巳出版)がある。
トマトには動脈硬化を防ぐ作用がいくつもある
体中に張り巡らされた血管が老化していくと、細胞への栄養や酸素の供給が不十分になるとともに、二酸化炭素が排出されにくくなります。その結果、組織や臓器がしだいに弱まり、体全体が老化してしまうのです。
血管の老化を遅らせるのに有効な成分として、近年新たに発見されたのが、トマトに含まれる「エスクレオサイドA」です。この成分は、現在トマト以外には確認されていません。
血管の老化というと、まず思い浮かぶのが動脈硬化でしょう。一般的に、動脈硬化は血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が増え過ぎることで起こります。
本来、コレステロール自体は、血管をしなやかに保ち、私たちの細胞やホルモン合成の材料にもなる、欠かせない物質です。悪玉とされているLDLコレステロールも例外ではありません。
問題となるのは、飽食や運動不足によって、LDLコレステロールが過剰になった状態です。余ったLDLコレステロールは酸化して、やがて免疫細胞「マクロファージ」に異物と見なされて食べられます。それが血管の内側にたまり、こぶ(プラーク)となることで、動脈硬化が進行するのです。
しかしながら、動脈硬化には自覚症状がありません。知らぬ間に進行し、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を起こすことにもなってしまうのです。
本来必要であるはずのLDLコレステロールが悪玉とされてしまう原因は、現代人の食生活にあります。その食生活において、LDLコレステロールが過剰になるのを防いでくれるのがエスクレオサイドAです。
トマトに含まれるエスクレオサイドAには、この動脈硬化を防ぐ作用がいくつもあることがわかっています。
コレステロールの70%は、肝臓で作られて、全身に運ばれます。しかし、コレステロールは脂なので、そのままだと血管を流れることはできません。そこで、体中に運ぶための運搬用の船に乗せて運んでいるとイメージしてください。
コレステロールが、この船に乗るときに働くのが「ACAT(エイキャット)」と呼ばれる酵素です。エスクレオサイドAは、この酵素の活性を抑えて、コレステロールが船に乗るのを妨ぐことができるのです。
またACATは、食事からとったコレステロールが腸管で吸収される際にも働きます。このときにも、エスクレオサイドAが活性を抑えてくれます。
これらの働きで、動脈硬化の進行が抑えられるのです。動脈硬化になりやすいモデルマウスを使った実験でも、エスクレオサイドAを投与すると、血中のコレステロール値が下がることが確かめられました。
また、LDLコレステロールの吸収が抑えられることは、脂質異常症などの生活習慣病の予防にも役立ちます。
さらには、トマトを食べることで、リコピンをはじめとした、ほかの有効成分も摂取することができ、その健康効果を享受できます。
リコピンは、優れた抗酸化作用を有しています。老化と病気の原因物質である活性酸素を消去することで、アンチエイジングや、生活習慣病の予防に役立つとされています。
トマトにはさらに、美肌効果が期待できるビタミンC、老化予防に役立つビタミンE、塩分の排出を助けるカリウムなども含まれています。
ミニトマトを加熱せずに食べるのが最適

大玉トマトよりミニトマトの方が有効成分が多い
私たちの実験では、エスクレオサイドAは、成熟したミニトマトに非常に多く含まれていることがわかりました。大玉トマトと比べて、ミニトマトにはエスクレオサイドAが約21倍、リコピンも約9倍多く含まれています。
トマトの健康効果を得るためには、1日に大量にトマトを食べるよりも、継続的に食べることがお勧めです。毎日2〜3粒食べれば、十分にその効果を享受できるでしょう。
ちなみに、エスクレオサイドAは熱に弱く、例えば100度で30分加熱すると半分に減ってしまいます。ですから、長時間煮込む料理やオーブン料理などでは、エスクレオサイドAの効果はあまり期待できません。スープや鍋の具材として使う際には、食べる直前に投入するのがお勧めです。
若々しい血管を末永く保つことは、健康を維持するためにとても重要なことです。十分な睡眠と適度な運動、そして多くの健康効果が秘められたトマトを、ぜひ毎日の生活に取り入れてください。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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