解説者のプロフィール

井上浩義(いのうえ・ひろよし)
慶応義塾大学医学部教授。1961年生まれ。九州大学大学院理学研究科博士課程修了。久留米大学医学部教授などを経て現職。医学博士。理学博士。ナッツ類やピーナッツ、エゴマ油など、良質な油の有用性を研究し続ける第一人者。ナッツ博士として、テレビなどのメディアにも多数出演している。『ハーバード大の研究でわかった ピーナッツで長生き!』(文藝春秋)、『「老けない」「太らない」アーモンドミルクできれいに生きる』(主婦の友社)など多数。
ナッツは多角的に動脈硬化を予防&改善
※ナッツ類にアレルギーを持っている人は、摂取を避けてください。
近年、ナッツの健康効果が脚光を浴びています。以前は、ナッツは脂肪が多いので太るとか、吹き出物ができるといって敬遠する人が少なくありませんでした。
しかし事実はその逆で、ナッツ類を適度に食べているほうが、肥満になりにくく、肌にもよい効果をもたらすことがわかっています。
そればかりか、ナッツの有効成分は血液と血管の状態を改善し、血管の若さを保って心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の予防にもつながると考えられるのです。
その理由の1つに、ナッツにはポリフェノールやビタミンE、オレイン酸が豊富に含まれていることが挙げられます。
活性酸素とLDLコレステロール、マクロファージの3つの要素がそろうと、血管は動脈硬化が引き起こされて、かたくなり、血管内皮に余分なコレステロールが沈着します。その結果、血圧が上がったり、血管が詰まったりして心血管疾患のリスクが高まってしまうのです。
そこで活躍するのが、ナッツに含まれるポリフェノールとビタミンEです。これらが活性酸素を抑制してくれるのです。
またナッツは、いわゆる体にいい脂を含んでいます。特にオレイン酸という脂肪酸は、血液中のLDLコレステロールや中性脂肪を減らし、血管や心臓の筋肉をしなやかにして血流を促進する作用があります。
このようにナッツに含まれる成分が複合的に作用することで、動脈硬化を抑制・改善する効果が期待できるのです。
なお動脈硬化の3要素のうちのマクロファージは免疫細胞ですので、減少すると免疫力を下げることになってしまいます。ほかの2要素を抑制すれば、マクロファージが動脈硬化の原因となることはありません。
ちなみに、ナッツを覆う茶色の薄皮は、取り除かずに食べてください。この薄皮は、レスベラトロールというポリフェノールの宝庫だからです。
こうした情報が広まってきたからか、最近では、アーモンドとピーナッツ以外にも薄皮つきで売られているナッツが増えてきました。
なおピーナッツは、分類上は豆ですが、成分はナッツに近いので、こちらもお勧めです。
アーモンドやマカデミアはペーストもお勧め!

素焼きや素煎りと書かれたナッツを選ぼう
体の中の若さを測るバロメーターが血管なら、外見の若さがわかるのが「髪」と「肌」でしょう。この2つに関しても、前述のナッツのポリフェノールとビタミンEが大いに役立ちます。
なにより、血管が若返って血流がよくなることで、体の隅々、つまり皮膚の細胞や毛根にまで栄養と新鮮な酸素が届くようになります。
同時に、皮膚の細胞に残された老廃物や二酸化炭素の排出が促されます。老廃物の1つである過酸化脂質は、周辺の細胞を一気に老化させます。ナッツを日常的に食べるようになったら、乾燥肌や肌荒れが改善してきたというのも、皮膚の細胞が若返ってくるからなのです。
また、健康な髪にはたんぱく質が必要です。アーモンドとピスタチオのたんぱく質含有率は約20%です。「畑の肉」と呼ばれ、たんぱく質が多いことで有名な大豆でも28%ですから、かなり多いことがおわかりいただけると思います。
これまで髪と肌の質は、遺伝的要素や体質が大きいと考えられていましたが、現在では、運動や食生活がより大きな影響を及ぼすことが明らかになっています。
ここで挙げた栄養素は、毎日の食生活で不足しやすい物ばかり。その足りない物を簡単に補えるのがナッツなのです。
ナッツ類はお好みの物を、1日10~30粒を目安に食べるといいでしょう。ただし、クルミとピーナッツは、湿疹などのアレルギー反応が出る可能性がほかのナッツ類よりもやや高いので、注意してください。
なお、ナッツを選ぶときには、油や塩、砂糖などで味つけされている物は避けてください。素焼きや素煎りと表記されている物を選びましょう。
ナッツを噛み砕くのが大変というかたは、スーパーなどのお菓子作りコーナーにあるスライスアーモンドやダイスアーモンドをお勧めします。
あるいは、ペーストにするのもよいでしょう。脂肪分の多いアーモンドやマカデミア、ヘーゼル、ピスタチオなどのナッツとオリーブオイル少々を、フードプロセッサーなどですりつぶすだけでできます。食べ方としては、みそ汁に入れるのがお勧めです。おいしく無理なく毎日とることができます。
私自身も、ナッツを毎日食べているからか、何年も血液検査で引っかかったことがなく、健康上のトラブルとも無縁です。ぜひ皆さんも、ナッツを生活に取り入れてください。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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