解説者のプロフィール

大久保愛(おおくぼ・あい)
薬剤師、国際中医師、国際中医美容師、漢方カウンセラー。昭和大学薬学部生薬学・植物薬品化学研究室卒業。北京中医薬大学で漢方・薬膳・東洋の美容などを学び、日本人で初めての国際中医美容師の資格を取得。新著に『朝と夜に飲めば効く からだと心を整える食薬スープ』(PHP研究所)がある。『心と体がバテない食薬手帳 2023 12月はじまり』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が9月23日発売予定。
血の巡りをよくして冷えやコリを改善
※シナモンの過剰摂取は、肝機能障害を引き起こす可能性があります。1日の摂取量は小さじ1弱程度までに収めるようにしてください。
「シナモン」というと、独特の甘い香りを思い浮かべるかたが多いでしょう。いろいろな料理に活用される身近なスパイスですが、実は、私たちの健康維持のためにも有用な食材です。
そもそもシナモンは、古来、香辛料や防腐剤として使われてきました。漢方でも、シナモンの枝や樹皮を桂枝(けいし)や桂皮(けいひ)と呼び、生薬(漢方薬の原料)として活用してきました。現在も、非常に多くの漢方薬に配合されています。
東洋医学の立場からみると、シナモンの効能としては、「活血作用」が挙げられます。
これは、血の巡りをよくする作用のこと。それにより、冷えやコリを改善します。東洋医学では、体の中で滞りがあるところには、痛みが出やすくなると考えます。血の巡りをよくし、滞りを解消することで、体各部の関節の痛みを和らげる効果も期待できます。
また、東洋医学では血の巡りの悪くなった状態を瘀血(おけつ)といいます。瘀血になると、冷えやコリが起こりやすくなるだけではなく、肌の状態も悪化します。シナモンはその活血作用で、瘀血を改善。若々しい肌を維持する手助けをしてくれます。
シナモンの香り成分の効能も見逃せません。芳香性健胃薬として働き、胃腸の調子をよくします。胃もたれ、胃痛、食欲不振などに有効です。
毛細血管を強化し若返らせる!
次に、西洋医学的な面から考えてみましょう。シナモンに含まれる有効成分のうち、まず注目したいのが、「シンナムアルデヒド」という成分です。これは、シナモンの香り成分の一つで、血管を丈夫にする働きがあります。
私たちの血管の9割以上を占める毛細血管は、壁細胞と内皮細胞の二層構造になっています。加齢により毛細血管が老化すると、この二層にすきまができて、血液成分がもれ出て、むくみの原因となります。
また、毛細血管の老化が進めば、全身に十分な血液が行き届かなくなります。すると酸素や栄養素も行き渡らなくなり、細胞も老化します。それにより、肌にくすみが生じたり、シミ、シワができやすくなったりするのです。
シンナムアルデヒドは、内皮細胞にあるTie2というたんぱく質を活性化して、すきまのできた壁細胞と内皮細胞を接着して修復。毛細血管を強化し、若返らせます。それにより、細胞の老化を防ぐのです。
また、シンナムアルデヒドには、血流を改善する作用もあります。これらの相乗効果で、肌のくすみを改善したり、シミをできにくくしたりして、若々しい肌を保つのを助けてくれるというわけです。
肌がくすんだり、シミ、シワができたりと肌の状態が悪くなるのは、東洋医学でいえば先ほど説明した瘀血の状態です。東洋医学では、シナモンは活血作用によって瘀血を改善すると考えますが、シンナムアルデヒドの働きは、その作用を西洋医学的に裏づける物だといえそうです。
シンナムアルデヒド以外にも、シナモンには複数の芳香成分があり、それらが強力な抗酸化作用をもたらします。
老化が進むと、体内の細胞内で発生する活性酸素が増え、それが病気を引き起こしたり、さまざな加齢現象をもたらしたりします。抗酸化作用は、活性酸素を消去し、細胞レベルで活性酸素の発生を抑え、細胞の老化を防ぎます。
こうして各細胞レベルで活性酸素の発生率が低下すれば、ひいては、肌や内臓などの若々しさにつながっていくでしょう。血管の若返りにも寄与することはいうまでもありません。
ちなみに、シンナムアルデヒドをはじめとする芳香成分は脂溶性です。このため、シナモンを油に加えると、その芳香成分が抽出されて、効能をより生かしやすくなります。
そこで今回は、その性質を活かした「シナモンオイル」をご紹介します(作り方は下項参照)。シナモンの香りを楽しみながら、ぜひご活用ください。
ただし、シナモンの過剰摂取は、肝機能障害を引き起こす可能性があります。1日の摂取量は、シナモンオイル、あるいは市販のシナモンパウダーの場合ともに、小さじ1弱程度までに収めるようにしてください。
大久保愛先生の
シナモンオイルの作り方
※肌に塗る際は、必ずパッチテストを行ってください。少量を塗ってしばらく時間をおき、様子を見て、赤みやかゆみなどの異常が現れたら、直ちに中止してください。

材料
シナモン(スティックタイプ)…10本
オリーブオイル…100〜150ml
❶清潔な保存瓶にシナモンを入れる。
❷①にオリーブオイルを注ぎ、密閉する。常温で2週間ほどおき、オイルにシナモンの香りを移す。
※シナモンスティックは折ると香りなど成分が抽出しやすい。
※飲み物に加えたり、果物にかけたり、マッサージオイルとして肌に塗ってもよい。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp