生活習慣病や肥満の予防のためにベジファーストを意識しているかたは少なくありません。しかし60代以降のかたには、「肉魚ファースト」をお勧めしたいと考えています。野菜でおなかがいっぱいになってしまうと、肉や魚が十分に食べられず、たんぱく質不足に陥ってしまうおそれがあるのです。【解説】森由香子(管理栄養士)

解説者のプロフィール

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森由香子(もり・ゆかこ)

管理栄養士、日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科卒業、大妻女子大学大学院修士課程修了。食事からのアンチエイジングを提唱している。著書に、『60歳から食事を変えなさい』(青春新書プレイブックス)など多数。

30歳ごろから年1%ずつ筋肉量が減っていく

「ベジファースト」という言葉をご存じのかたも多いでしょう。これはベジタブル・ファーストの略で、野菜から食べる食事法です。

野菜を最初に食べると、食物繊維の働きで糖質の吸収を遅らせたり、満腹中枢を刺激して過食を防いだりする効能があるとされています。実際に生活習慣病や肥満の予防のためにベジファーストを意識しているかたは少なくありません。

しかし私は、60代以降のかたには、「ベジファースト」よりも、「肉魚ファースト」をお勧めしたいと考えています。

なぜなら年を取ると、食欲が落ちるのが一般的だからです。

ベジファーストを実践すると、野菜を食べ終えた段階で、おなかがいっぱいになってしまうかたが多くいます。そうなってしまうと、肉や魚が十分に食べられません。こうした食事では、たんぱく質不足に陥ってしまうおそれがあります。

60代以降のかたにとって、たんぱく質が不足することは深刻な問題です。私たちの体は、30歳ごろから年1%ずつ筋肉量が減っていくとされています。こうした状況で、日々のたんぱく質の摂取量が落ちれば、筋肉量はさらに減りやすくなります。

特に糖質中心の偏った食事をしていると、たんぱく質だけではなく、脂質やビタミン、ミネラルなどの栄養素も足りなくなり、いわゆる「低栄養状態」に陥ります。

低栄養状態が続けば、サルコペニア(筋力や筋肉量が減り、身体機能が低下した状態)や、フレイル(心身の虚弱状態)に移行しやすくなります。そして、サルコペニアやフレイルは、要介護の状態や認知症へとつながっていくのです。

朝昼晩で均等にたんぱく質をとろう

年を取ってからも元気で健康に暮らすために、たんぱく質をしっかり補給し、いい栄養状態を保つことがたいせつです。では、このたんぱく質は、どのようにとるのがよいでしょうか。

1日に必要なたんぱく質摂取量は、性別や身長、体重、1日の活動量などによって差がありますが、目安としては1食20~30gをとることを目指すのがよいでしょう。

ここでたいせつなのが、毎食同じくらいのたんぱく質量を摂取することです。例えば朝と昼に10g、夕食に40gで計60gとるよりも、朝昼晩毎回20gずつ摂取したほうがいいのです。

たんぱく質から分解されたアミノ酸は、寝ている間も筋肉の材料となる以外に体のさまざまな機能を働かせるために使われています。しかし寝ている間は栄養の補給がされないので、特に朝はたんぱく質が足りなくなっているおそれがあります。

朝食は軽めに済ませるかたが多くいますが、1日の活動に備えてたんぱく質を補給しておくことが大事なのです。また、毎食均等にとったほうが、筋力の合成が高まるという研究データも実際にあります。

なるべくワンパターンにならないように、まんべんなく食べるとよいでしょう。肉は牛肉だけ、魚は白身の魚だけといったように限定してしまうのはよくありません。食品ごとに組成が違うため、できるだけ多彩な食品をとりましょう。

肉なら、鶏も豚も牛も食べる。魚なら、白身も赤身も青魚も食べたほうがいいでしょう。大豆ももちろん積極的にとってほしい食材です。豆腐や納豆など、さまざまな大豆製品が勧められます。

食品に含まれるたんぱく質量

卵(1個)6.1g
ソーセージ(1本)2.3g
ハム(2枚)7.4g
食パン(1枚:8枚切り)4.0g
牛乳(1杯:210㎖)6.9g
ヨーグルト(80g)2.9g
ピーナツバター(小さじ1)1.1g
ロールパン(1個)3.0g
6Pチーズ(1個)3.7g
納豆(1パック:50g)8.3g
焼きノリ(1パック)1.2g
ご飯(1杯:120g)3.0g
豆腐(100g)7.0g
※日本食品標準成分表2020年版(八訂)を基に作成

毎食20gの摂取を目指すうえで、肉や魚にどれだけのたんぱく質が含まれているか、知りたいというかたもいらっしゃるでしょう。私たちがよく食べる食品に含まれるたんぱく質量を上の表に記したので参考にしてください。

ちなみに、いわゆる肉や魚であれば、重量の約20%がたんぱく質量だと考えて差し支えありません。

たんぱく質摂取源としては、牛や豚なら赤身の部分、鶏肉なら皮をはずした胸肉やもも肉、ささ身が勧められます。

ひき肉やベーコンなどの加工肉は脂肪が多く含まれている場合が多いので、コレステロール値などが高めのかたは注意が必要です。

いきなり毎食20~30g食べるのは難しいかもしれません。難しいと感じたかたは、まずは無理のない範囲で始めてください。慣れてきたら、少しずつ摂取量を増やしていくとよいでしょう。

画像: この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。

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