「首倒し体操」は、ストレートネックのかた、肩のひどいコリ、首の激痛に悩まされているかたにお勧めです。とても簡単で、特別な道具も使いません。首倒し体操は、今痛みに悩んでる人だけでなく、予防にも有効です。【解説】高平尚伸(北里大学大学院医療系研究科整形外科学教授・北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科教授)

解説者のプロフィール

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高平尚伸(たかひら・なおのぶ)

北里大学医学部を卒業後、同大学医学部整形外科講師、同大学整形外科医局長、同大学大学院医療系研究科講師などを経て、現職。専門は股関節外科学。運動器全般の新しい運動療法や姿勢についても造詣が深く、痛み治療のトップランナーとしても全国的に知られている。東京2020オリンピックには世界各国の選手対応ドクターとして参加。日本整形外科学会専門医。日本人工関節学会認定医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

[別記事:ストレートネックは首こりだけでなく頭痛、めまい、ぽっこり腹の重大原因→

絵に描いたようなストレートネックだった

実は私も、ストレートネックの経験者です。

およそ10年前、40代のころのことです。当時の私は、ひどい首のコリ、そして激痛に悩まされていました。

当時の私は、公私ともに忙しさのピークでした。論文を書き上げるために、毎日長時間イスに座って過ごす日々。食べるとき、寝ているとき以外は、ほとんど机に向かい、下を向いた状態で論文の執筆にいそしんでいたのです。

そのような生活を毎日続けていたのですから、無理もありません。あまりの首の痛みに耐えかね、首のレントゲンを撮ってみましたが、骨そのものに異常はありませんでした。

しかし、レントゲンに写った私の首は、絵に描いたようなストレートネックでした。

通常はあるはずの頚椎の弯曲がほとんどありません。それはまさにストレートネックで、自分でも背骨を「一本の棒」のように感じるほどでした。

整形外科医の私は、しかたなく自分で湿布を処方し、患者さんへの外来診療のときも、論文執筆のときも、痛み止めを飲み、湿布を貼ってやり過ごすだけでした。

そんなある日、病院のレントゲン技師から、興味深い話を聞いたのです。

そのレントゲン技師は、交通事故によるムチ打ち症の患者を多く見ていたそうです。ムチ打ち症の患者は、事故の衝撃で頚椎のカーブがくずれ、ストレートネックになっている人が多いのですが、運動療法を行うと、ストレートネックが改善して症状が治まる人が少なくないというのです。

この会話は、私にとって、運動療法の重要性に気づくきっかけとなりました。私と同じような症状を運動療法で治した人がいると聞き、その後、さまざまな文献を調べました。そして、ストレートネックに有効な体操を見つけたのです。

そもそも、背骨は、椎骨という骨が積木のように積み重なってできています。一つひとつの椎骨には動かせる「ゆとり」があり、これによって頚椎も自由に動く仕組みです。

しかし、私の頚椎は連日の無理がたたり、椎骨がこわばり、固まってしまった状態でした。そこで、その椎骨ひとつひとつをほぐすようにする体操が有効ではないかと考え、「首倒し体操」としてアレンジし、みずから実践することにしたのです。

3週間で痛みが消えた!

この「首倒し体操」を1日に3回ずつ続けていると、少しずつ痛みが和らぎ、痛み止めの薬も不要になりました。そして、3週間が経過するころには痛みが完全に消え、薬どころか湿布さえも必要なくなったのです。

試しに、上を向いてみました。それまでは、首の痛みがひど過ぎて、首を後ろに倒して自分の「真上」を見ることができなかったのですが、真上どころか、自分の後ろにある壁までが視界に入るように。これには驚きました。

あらためてレントゲンを撮ってみたところ、私の頚椎に、本来あるべき自然な弯曲が戻っていたのです。

画像: 痛みで首を反らせることができなかったが、「真上」が見えるように!

痛みで首を反らせることができなかったが、「真上」が見えるように!

画像: 左はストレートネックだったころ。 右は改善後

左はストレートネックだったころ。 右は改善後

それだけではありません。「老け姿勢」で、さまざまな不調の原因ともいわれる「巻き肩」も改善されていました。胸が開くようになり、正しい位置に肩が戻っていたのです。

以来、今日に至るまで、首の痛みに悩まされることはなく、湿布を使うこともありません。私は、あれほど悩んでいた首の激痛から開放されました。

皆さんのなかにも、ひどいコリや耐え難い痛みで整形外科へ行っても「骨に異常はない」、「年だからしかたない」といわれ、痛み止めや湿布を処方されただけという人は多いのではないでしょうか。

整形外科医のなかには、運動療法を専門外だとして、重視しない傾向が今でも存在します。

しかし、私自身もそうだったように、運動療法でも、効果的なセルフケアを地道に続ければ、治る可能性があるのです。

この体験から、私は運動療法を積極的にお勧めしています。ご紹介した運動療法で、つらい痛みが少しでも改善したなら、こんなにうれしいことはありません。ぜひ、無理のない範囲で取り入れてみてください。

私がストレートネックを克服した「首倒し体操」のやり方は下で紹介しています。痛みに悩んでいるかたは、ぜひやってみてください。

首倒し体操のやり方

この「首倒し体操」は、ストレートネックのかた、肩のひどいコリ、首の激痛に悩まされているかたにお勧めです。とても簡単で、特別な道具も使いません。首倒し体操は、今痛みに悩んでる人だけでなく、予防にも有効です。

首倒し体操を始める前に、まずは準備運動をしてください。首の後ろと横の筋肉がほぐれて、首倒し体操がしやすくなります。

準備運動①「首の前屈ストレッチ」

画像: 準備運動①「首の前屈ストレッチ」

①前を見て、頭の後ろで両手を組む。
②少しずつ下を見るように、ゆっくり首を前に倒していく。
③できるだけ前に倒したら、その位置で20秒キープ。ゆっくりと元に戻す。
※①~③を2回行って1セット(約1分)。

準備運動②「首の側屈ストレッチ」

画像: 準備運動②「首の側屈ストレッチ」

①左手を伸ばし、頭の右側頭部に当てる。
②左手で頭を左に倒していく。このとき、やや左後ろへ引っ張りながら倒すように意識する。
③できるだけ倒したら、20秒キープ。その後、ゆっくり元に戻す。
④反対側も同じように行う。
※左右2回ずつ行って1セット(約1分)。

準備運動①②をしたら、いよいよ「首倒し体操」です。早速行ってみましょう。

【首倒し体操】

画像: 【首倒し体操】

①イスに浅く座って背すじを伸ばし、あごを引く。
②首をゆっくり後ろに倒し、少しずつ上を向く。全部で7個ある首の椎骨を、下から順番にひとつずつ倒していくイメージで行う。
③できるところまで上を向いたら、10~20秒キープする。ゆっくり戻す。
※①~③を2回行って1セット(約1分)。

首倒し体操は、1日に朝昼晩の3セット行い、2週間を目標に継続してみましょう。
3週間継続しても変化のない人、痛みやしびれを感じる人は、中止するか、痛みやしびれの出ない無理のない範囲で少しずつ動かしてください。

画像: この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。

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