解説者のプロフィール

高平尚伸(たかひら・なおのぶ)
北里大学医学部を卒業後、同大学医学部整形外科講師、同大学整形外科医局長、同大学大学院医療系研究科講師などを経て、現職。専門は股関節外科学。運動器全般の新しい運動療法や姿勢についても造詣が深く、痛み治療のトップランナーとしても全国的に知られている。東京2020オリンピックには世界各国の選手対応ドクターとして参加。日本整形外科学会専門医。日本人工関節学会認定医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
スマホ姿勢はストレートネックに直結
いまや、生活に欠かせなくなったスマホ。私たちがスマホを見るときは、画面の小さな字を読もうと首を突き出し、前かがみになり、顔は常に下に向いた状態になっています。同時に、両肩も前に出ます。背中が丸くなり、首、肩、背中すべてに負荷がかかるのです。
このような状態は「スマホ首」とも呼ばれ、最近よく聞く「ストレートネック」の原因になっています。
そもそも、私たちの体は背骨によって姿勢が保たれています。背骨は、24個の椎骨と、お尻にある仙骨と尾骨で構成されています。それぞれの骨が積み木のように積み重なり、S字カーブを描いて負荷を分散しながら体を支えています。
もう少し詳しく説明しましょう。椎骨は首、胸、腰の3つのブロックに分けられます。上から7個が首ブロックの「頚椎」、その下の12個が胸ブロックの「胸椎」、さらにその下の5個が腰ブロックの「腰椎」です。

この24個の椎骨は、一番下のブロックである腰椎部分が大きく、首の方へいくにつれて小さくなります。
頚椎は本来、緩やかな前弯カーブを描いていて、その上に乗る「頭」を支えています。
しかし、首を前に出し、背中を丸めた「スマホ首」を続けていると、頚椎の前弯カーブが失われ、まっすぐになってしまいます。これが「ストレートネック」と呼ばれる状態であり、さまざまな不調を招く原因ともいわれています。
一般に、頭の重さは体重の10%といわれ、体重50kgの人なら約5kgの重さがあります。
こんなに重い頭を支えているのですから、首の骨には大きな負荷がかかっています。この負荷を分散させるために、頚椎は自然に前弯し、カーブを描いているのです。
ところが、ストレートネックの状態になると、分散されるはずの頭の重さを直接、頚椎が受け止めることになり、首の筋肉に大きな負荷がかかります。
また、ストレートネックは、肩が不自然に前に出る「巻き肩」を伴うことが多く、それも体にさまざまな不調を引き起こす原因となっています。
ストレートネックの症状として代表的なものが、首こりや肩こりです。頭痛やめまいが起こることもあります。さらに頚椎、あるいはその周辺になんらかの器質的な異常が起こることで症状が進み、手指のしびれ、麻痺に悩まされる人もいます。
セルフチェックでもすぐわかる

ストレートネックは、レントゲン撮影をすれば、たいていわかります。しかし、レントゲンを撮らずとも、生活習慣からストレートネックになっているかどうか、なりやすいかどうかを見極めることができます。
・スマホ操作が1日3時間以上
・首や肩が異常にこる
・上を向くことが難しい
・運動の習慣がない
以上の項目に当てはまる人、特に、上を向くことが難しいという人は要注意です。
さらに、姿勢からチェックする方法もあります。
壁を背にして立ち、かかと、お尻、肩甲骨、後頭部を壁に着けてみましょう。
後頭部が壁に着かない、もしくはがんばればどうにか壁に着く、という人はストレートネックの可能性があります。
ストレートネックはネコ背の一種ですが、くずれた姿勢は「老けて見える」だけでなく、実際の体にも悪影響を与えます。姿勢が悪いと体幹が弱くなり、おなかを引き締める力が働きません。その結果、内臓が下がり、ぽっこり腹になってしまうのです。
ストレートネックの状態が続くことで、内臓の機能やホルモンの分泌を調整する自律神経の働きに悪影響があることも知られています。「疲れが取れない」「眠れない」などという症状は、自律神経の乱れが影響している可能性があります。
「姿勢がちょっと悪いだけ」と軽視せず、自分の体としっかり向き合って、不調の改善を目指してみましょう。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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