解説者のプロフィール

川村明(かわむら・あきら)
かわむらクリニック院長。医学博士。徳島大学医学部卒業後、山口大学医学部大学院を終了。西洋医学と東洋医学の融合に加え、オリジナルの「AKヨガ」をクリニック併設の教室で指導。その効果がテレビで取り上げられ、大きな反響を呼ぶ。最新刊『10歳体が若返る!奇跡の寝たまま1分ストレッチ』(宝島社)ほか著書多数。
ひざ裏が伸びると確実に10歳は若返る
私のクリニックには、「足腰が痛くて歩けない」「まっすぐ立てない」という人が、たくさん訪れます。
実は私自身、長らく体調不良に悩んでいました。34歳のときに椎間板ヘルニアを患って手術を受け、外科医を続けることを断念しました。
36歳でクリニックを開業し、西洋医学と東洋医学を駆使した治療を行っていましたが、自分自身は腰痛やうつ病、アトピーのほか、くり返し発症する大腸ポリープと、満身創痍でした。
ところが、55歳で出合ったヨガで、これらの不調がみるみる消えたのです。この経験を生かし、クリニック併設の教室で患者さんにもヨガの指導を始めました。
すると、ひざや腰が曲がり、杖なしでは歩けなかった患者さんが柔軟性と筋力を取り戻し、スタスタ歩けるようになったのです。
また、指導を続けるなかで、特に「ひざ裏を伸ばす」ことが、全身のゆがみを正すことがわかってきました。ひざ裏の深部にある筋肉(膝窩筋)を伸ばすと骨盤が立ち、体幹に力が入り、胸が広がり、正しい姿勢が取れるようになります。
正しい姿勢を維持するだけで、関節への偏った負担を軽減し、必要な筋肉を強化することができます。ひざや腰、股関節の痛みが改善するのは、そのためです。
ひざ裏が伸びると、体の機能性が向上するだけでなく、背すじが伸びて足がまっすぐになるので、見た目まで若々しくなります。クリニックの患者さんを見ていると、確実に10歳は若返る印象です。
また、体の柔軟性や筋肉量が増すと血流がよくなるので、臓器や血管を調整する自律神経や脳の働きにも好影響を及ぼします。病気や老化を予防し、生活の質を向上することにもつながるのです。
ただ残念なことに、ストレッチの効果には持続性がありません。毎日のストレッチで心身共に若返った高齢の患者さんのなかには、中断したら元に戻ってしまったかたもいます。少しずつでも、毎日継続することが大事です。
数あるプログラムの中から今回ご紹介するのは、「寝たままストレッチ」です。
転倒の心配がないので、高齢者にも足腰に不安がある人にもお勧めできます。また、このストレッチは寝床で行えるので、忙しくて時間がないという人も続けやすいと思います。
寝る前に行うと良質の睡眠が得られる
ストレッチのやり方は、呼吸法も含め、下項で図解してあるので、活用してください。
ストレッチは、深い呼吸をしながら行うと効果的です。できれば、「逆腹式呼吸」がお勧めです。緊張と弛緩をくり返すことで、内臓をマッサージできる呼吸法です。
朝、目覚めたら寝床の中で「全身伸ばし」を行いましょう。
睡眠中はあまり動かないので、体が固まっています。朝起きたときに、腰やひざにこわばりを感じる人が多いのは、そのためです。目覚めたら、まずは「全身伸ばし」で体を活動モードに切り替えましょう。体中の関節を全て伸ばし切るつもりで行います。
夜は、寝る前に「ひざ裏伸ばし」を行いましょう。
日中、私たちは重力の影響を受けながら、立ったり座ったり歩いたりします。ですから、夜には筋肉がこわばったり、骨格がゆがんだりしていることが多いものです。特にひざの裏は、筋肉がかたく収縮しがちなので、一日の終わりにリセットする必要があります。
寝る前にひざの裏をじっくり伸ばすことで、体のゆがみが正されると共に、血流がよくなり、呼吸も深くなるので、良質の睡眠が得られます。
「足指伸ばし」もお勧めです。足の指をストレッチすることで、ひざ裏も伸びますし、太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)の強化にもなります。
また、足の指を伸ばすと、「第二の心臓」といわれるふくらはぎの筋肉も刺激され、全身の血流がよくなります。寝る前に行うと熟睡できるでしょう。
さらに、睡眠中にこむら返り(ふくらはぎをつること)が起こったときに、この足指伸ばしをすると治まります。覚えておきましょう。
「足指伸ばし」は、朝に行うのもお勧めです。足の指は、歩くときに地面をけったり、バランスを取ったりする役割を持つ重要な部位です。朝、足指をストレッチしておくと、つまずきやふらつきの予防になります。
いずれのストレッチも、「気持ちいい」くらいを目安にして、少しずつ伸ばしていきましょう。痛みを我慢して行っても、効果は期待できません。無理は禁物です。
炎症や痛みのある人は、必ず医師に相談してから行ってください。
寝たままストレッチのやり方
逆腹式呼吸
・一般的な腹式呼吸とは逆の呼吸法。
・鼻から思いきり息を吸うと同時におなかをへこませる。
・鼻から息を吐くときに、おなかを膨らませる。

全身伸ばし
・あおむけになり、息を吸いながら腕を頭の上に伸ばし、左右の手の甲を合わせる。
・つま先を顔の方に向けて足首を反らす。ひざ裏がグーッと伸びる。
・自然な呼吸で5秒キープ。
・息を吐きながら、ゆっくり腕を下ろし、全身の力を抜く。

ひざ裏伸ばし
・あおむけになり、片方の足の裏にタオルをかけて両端を手で持つ。

・タオルを手で引っぱり、息を吸いながら足を上げていく。無理のない範囲でひざ裏を伸ばす(曲がっていてもよい)。

・上げ切ったところで自然に呼吸しながら5秒キープ。息を吐きながらゆっくり足を下ろす。反対の足も同様に行う。
足指伸ばし
・あおむけになり、右足のかかとを左足の指にのせる。かかとの重みで、足の指を甲側にグーッと反らして5秒キープ。

・右足のかかとを左足の母趾(足の親指)と第二趾(足の人差し指)の間に入れ、指を開くようにグーッと押して5秒静止。

・反対の足も、①と②を同様に行う。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
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