解説者のプロフィール

SAM(サム)
1962年生まれ。ダンサー、ダンスクリエイター。自身も所属する、ダンス&ボーカルグループのTRFのコンサートの振りつけや構成、演出はもちろん、多くのアーティストの舞台も手がける。2016年、一般社団法人「ダレデモダンス」を設立し、代表理事に就任。誰もがダンスに親しみやすい環境を創出し、若者だけに留まらない幅広い年代へのダンスの普及活動を行っている。著書に、『いつまでも動ける。年をとることを科学するジェロントロジー』(クロスメディア・パブリッシング)など。
未経験でも大丈夫!できる範囲を広げよう
ダンスは中学校の授業にも取り入れられるなど、この十数年の間に、社会のなかで身近な存在になってきました。
ただやはり、ダンスの盛んな欧米と比べると、まだまだ浸透していない面があるのも事実です。僕は、もっと多くの人にダンスを楽しむようになってほしいと常に考えてきました。
それは若い人に限りません。むしろ、僕がダンスに親しんでほしいと願っているのは高齢者のかたです。なぜなら、ダンスは高齢者の健康維持のために、多くの効果をもたらしてくれると考えられるからです。
2012年、TRFが20周年を迎えた際、健康に特化したダンスのDVDを発売しました。こうした試みは初めてのことでしたが、想像以上の反響があり、このときから健康維持に役立つダンスが求められていることを実感したのです。
そのときのダンスは高齢者をターゲットとしていたわけではなかったので、今度は高齢者でもできるダンスを作ろうと動きだしました。ダンスのどういった動きが有効なのか、どういった動きが負担となるか、リスクはないのか……医師や理学療法士などの専門家を交えて検討しながらの作業です。
こうして、2016年に「ダレデモダンス」という社団法人を立ち上げ、本格的に活動を開始しました。
以来月1回、僕の地元埼玉県の岩槻市でワークショップを開催。コロナ前までは、地元の高齢者を中心に毎回約120人のかたにダンスを楽しんでもらっていました。ちなみに平均年齢は約75歳です。
参加なさった皆さんは、始める前はかなり不安そうでした。なにしろ、ダンスの経験はほとんどないのです。「私にダンスなんてできるのかしら?」と心配するのも当然でしょう。
僕は、「できる範囲で大丈夫ですよ」とフォローしながら、体を少しずつでも動かしてもらうように努めました。
そんな状態からスタートしたものの、いつの間にか多くのかたが笑顔になっていました。終わるころには不安の色が消え、「ほんとうに楽しかった」と笑顔でいってくれたのです。
このダレデモダンスをベースに、皆さんの健康維持に役立つダンスを紹介しましょう。具体的なやり方は下項をご確認ください。
このダンスは、運動強度でいうと、4メッツ程度で考えられています。メッツというのは、運動の強さを測る単位の一つで、4メッツというのは、ラジオ体操やボウリング、太極拳などと同じ程度です。
それほど強度の高い運動ではありませんから、これまで運動経験のないかたや、運動不足のかたでも気軽に始められます。
ダンスに限りませんが、特に高齢者は決して無理をしないことが重要です。あくまでも自分のできる範囲で行ってください。そして、できる範囲を少しずつ広げていくのが理想です。
昨今のコロナ禍で、私たちは体を動かす機会が少なくなりました。外出の機会が減ったかたも多いでしょう。体を動かさなくなってしまったことで、筋肉もしなやかさを失い、弱ってきています。
また、年を重ねることでも筋肉が弱り、「背中が丸い」とか、「お尻が垂れてきた」とか、「二の腕がたるんでいる」とか、体のラインが気になっているかたも多いのではないでしょうか。
こうした悩みの解消に向けた部位別のトレーニングも紹介しているので、ぜひ併せて取り組んでみてください。
ノルマや向上心は不要!軽い気持ちで1日1回
ダンスやトレーニングを始めたら、最も重要なのは、毎日続けること。やはり、三日坊主になってしまったら、健康効果はなかなか得られません。では、続けるには、どんなところに気をつければよいでしょうか。
第一として、最初からキッチリ正しくやろうとする必要はありません。
厳密に正しくやろうとすると、それが負担になってしまうことがよくあります。間違ってもいいので、とにかく体を動かしてみましょう。
第二に、向上することを意識しなくてかまいません。
より長く、激しく体を動かそうとは考えなくていいのです。まずは体を動かす機会を毎日作ることこそが大事。運動不足のかたは、たいてい体が固まってしまっています。ですから、体を動かし、その心地よさをあらためて感じてほしいのです。
第三に、数字を意識しないことです。
運動や体操が続かなくなる大きな理由の一つが、ノルマが負担になるというものです。「今日も30回やらなきゃいけないのか」と思うと、やるかやらないかの選択になり、気が重くなって、なかなか取りかかれないというかたが多いのです。
それなら、目安の回数にこだわらず、「1日1回だけでもやればいい」そう考えるようにしてみましょう。すると、「1回ならいいか」と気軽に体を動かす気になるでしょう。
1日1回でいいという気楽さが、毎日続けることにつながっていくのです。続けていくうちに体が慣れていけば、より続けやすくなりますし、「体を動かさないと気持ち悪いな」というところまでいけば、それは運動習慣として定着してきたということになるでしょう。
狭心症などの再発が驚くほど減った!
ダレデモダンスの開発に当たって、医学的なフォローをしていただいた岩槻南病院病院長の丸山泰幸先生によれば、ダレデモダンスは、考えながら踊ることによって、認知脳のトレーニングにもなるといいます。
ちなみに、ダレデモダンスのワークショップには、丸山先生の患者さんにもご参加いただいて、健康面でのデータを取らせてもらいました。
丸山先生は循環器専門医であるため、その患者さんの多くは、心疾患などをお持ちでした。狭心症などの心疾患は非常に再発が多いことが大きな問題であるそうですが、ダレデモダンスに参加した患者さんたちは、心疾患の再発がびっくりするくらい少なくなったと報告してくれました。
そのほかにも、ダレデモダンスを始めたことによって、健康面で大きく変われたことを実感しているかたはたくさんいらっしゃいます。
長年にわたり人工透析を受けていた男性は、それまでは100mも歩くと、ゼェゼェと息を切らしていたそうです。それが、ダンスを続けるようになったところ、10kmくらいはごくごく普通に歩けるようになったというのです。
うつっぽくて、家から出たがらなかった女性もいました。ダンスを始めてからは、ワークショップも含めて、外出が気軽にできるようになったと喜んでいました。
ひどい冷え症に悩まされていた女性は、一年中手が真っ白で、血の気のない状態だったとのこと。ダンスを続けたところ、手がピンク色に染まるようになり、動きもよくなったと報告してくれました。
これらの体験は、皆さん70代以上のかたのお話です。始めるのに、決して遅いことはないのです。
このようにダンスには、多くの健康効果が期待できます。これまで運動してこなかったご高齢のかたも、ぜひ試していただければと思います。
ダレデモダンス[壮快オリジナルVer.]
●ダンスは曲に合わせて、リズムを取りながら行う。曲なしでもできますが、曲に合わせると楽しい!
●自分のできる範囲でOK。1回でもいいからやってみよう!
●転倒やケガには要注意!
![画像1: ダレデモダンス[壮快オリジナルVer.]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/10/31/781824f266b8c1a81a252018b97d186ffb374b33.jpg)
❶正面を向いてまっすぐ立つ。両腕でリズムを取りながら、その場で軽く屈伸を4回行う。
![画像2: ダレデモダンス[壮快オリジナルVer.]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/10/31/580a293b656e73288373c190f8f897d4c6d61cf4.jpg)
❷左真横に1歩進んで移動する。
![画像3: ダレデモダンス[壮快オリジナルVer.]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/10/31/a3c5b0551c380388cd77e986466bfcb6902db4cf.jpg)
❸その場で軽くジャンプしながら、手足を開く。
![画像4: ダレデモダンス[壮快オリジナルVer.]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/10/31/96eaf5fefd8c9b0bc3b076f75d05be0bb4b188ab.jpg)
❹元に戻る。その際、手をたたく。
※次は②で右に、次はまた左にと、くり返してダンスをしましょう。
部位別トレーニング
背中

両手を組んで、真上に向かって大きく伸ばす。余裕があれば、かかとの上げ下げしながら行うとなおよい。
二の腕

頭をシャンプーするイメージで、両腕を大きく前後に動かす。余裕があれば、リズムを取りながら左右に移動するとなおよい。
お尻

壁に両手を着き、右足を後ろに突き出して前後に動かす。終わったら、左足も同様に行う。余裕があれば、つま先を体の外側に開いて行うとなおよい。

この記事は『壮快』2022年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp