マスク生活による口内環境の悪化として代表的なものが、口の中の乾燥(ドライマウス)です。ものが食べにくくなり、口臭がキツくなる、口の中がベタベタするといった不快症状が現れます。また、食事中にほおの粘膜や、舌をかんでしまうことが増えてはいませんか?それもマスク生活が関係している可能性があります。【解説】笹野高嗣(東北大学名誉教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

笹野高嗣(ささの・たかし)

東北大学名誉教授。東北大学歯学部附属病院長、東北大学歯学部長、東北大学大学院歯学研究科長、日本口腔診断学会理事長などを歴任。長年の研究に基づいた治療技術はテレビや新聞などに数多く報道されている。現在、医療法人明徳会理事長。

マスクを着けると口内が乾燥しやすい

新型コロナウイルス感染症がまん延し、マスクを着けて生活するようになって約2年半がたちます。最近は、マスク生活の弊害を指摘する声も、よく聞くようになりました。

特に、マスク生活がもたらす口内環境の悪化は、全身の健康に影響します。

実は、口の機能と体の機能は密接に連動しています。口の機能が低下すると体の機能も低下し、健康を損なうリスクが高くなるのです。体の健康を保つ上でも、口のケアは大切といえるでしょう。

マスク生活による口内環境の悪化として代表的なものが、口の中の乾燥(ドライマウス)です。

マスクをすると口の中が潤うと思いがちですが、マスクを着けているときは、鼻呼吸ではなく口呼吸になりやすいのです。そのために口の中が乾きやすくなります。

口や目は粘膜です。粘膜が乾くと、体にとっていいことはありません。わかりやすいところでは、口が乾くと、カステラのようなパサパサしたものが食べにくくなります。

ほかにも、口臭がキツくなる、口の中がベタベタする、舌がヒリヒリして痛い、口が乾いて夜中に目が覚める、味がわからない、話しにくいといった不快症状が現れます。

口が乾くということは、唾液の分泌量が減っているということです。唾液には、細菌の繁殖を抑える物質が含まれています。そのため唾液が減ると、口の中に歯周病菌が増殖。歯周病が進行します。

さらに、歯周病菌が体の中に入ると、免疫力(病気に対する抵抗力)が低下した人の場合、カゼやインフルエンザに感染しやすくなります。

高齢者は感染性心内膜炎といった重篤な病気や誤嚥性肺炎を起こす危険もあります。近年では、歯周病は糖尿病などと関連があることもわかっています。

マスク以外に、降圧薬(血圧を下げる薬)や糖尿病の改善薬、睡眠薬、抗アレルギー薬などの副作用でも、唾液は出にくくなります。

更年期の女性も、ホルモンの分泌量の変化による自律神経の乱れから、ドライマウスが起こりやすくなります。日本人の4人に1人はドライマウスだという報告もあります。

画像1: 【口臭が気になる人へ】あなたのお口は大丈夫?ドライマウス、食いしばり…。マスクの下で口内トラブル増加中!

マスク生活をしていると起こりがちなこと①

口呼吸のせいでドライマウスになる
口臭が気になる
食べたものが飲み込みにくい
口がネバネバ、ベタベタする
舌の表面が苔のように白くなる
歯周病になりやすい

「舌をかむ」は口周りが衰えたサイン

マスク生活による口内環境への悪影響は、ドライマウスだけではありません。

最近、食事中にほおの粘膜や、舌をかんでしまうことが増えてはいませんか? それもマスク生活が関係している可能性があります。

加齢による心身の機能の衰えを「フレイル」といいます。これと同じく、口の機能の衰えを「オーラルフレイル」と呼びます。

オーラルフレイルの主な原因は、口周りの筋力の低下や、虫歯や歯周病による歯の本数の減少です。

高齢者は、口周りの筋肉やあごの筋肉が弱くなっています。加えて、コロナ禍の影響で人と話す機会が減ったり、マスクの着用で口を大きく動かすことが減ったりすることでも、口周りの筋力が落ち、オーラルフレイルに陥る危険性が高まっているのです。

オーラルフレイルでは、かむ力、味を感じる力、唾液を出す力に衰えがみられます。その結果、食べこぼしをする、食事中にむせやすい、硬い物が食べにくい、味を感じにくい、口内が乾燥しやすい、滑舌が悪くなるといった現象が起こります。

口の中をかんでしまうのも、唾液が減ったり、筋力が低下して口を大きく開けられずに、もぐもぐと食べたりしていることが原因なのです。

口の機能が低下すると、食事の楽しみが減少し、食事量が低下します。それが高齢者の低栄養を引き起こし、体の衰弱へとつながります。

そうならないためには、オーラルフレイルを予防することが肝心。オーラルフレイルの予防には、下項で紹介している「開口訓練」が有効です。ぜひ日頃から取り組んでみてください。

画像2: 【口臭が気になる人へ】あなたのお口は大丈夫?ドライマウス、食いしばり…。マスクの下で口内トラブル増加中!

マスク生活をしていると起こりがちなこと②

口を動かす機会が減って口周りの筋肉が衰える
食事中にむせやすい
硬い物が食べにくい
味を感じにくい
滑舌が悪くなっている
口の中や舌をかんでしまう

マスク生活が顎関節症を起こすことも

マスクの下で歯を食いしばってしまうことも多々あります。

歯を食いしばるとあごの筋肉(咬筋)やこめかみの筋肉(側頭筋)が疲労し、あごの関節に障害が及びます。すると、口が開けにくい、口を開けるとあごが痛くて音がするといった「顎関節症」を招きます。

実は、マスク生活が始まってから、顎関節症の症状を訴える患者さんが増えています。

歯を食いしばることで咬筋がギュッと縮んで、側頭筋がこると、頭痛があるように感じる人もいます。だからといってひんぱんに頭痛薬を飲んでいると、薬の副作用で唾液が出にくくなるという悪循環に陥ります。

心配になって脳神経外科を受診したら、実は食いしばりによって側頭筋がこっていただけ、という例も珍しくありません。

マスクを着けていると、自然に口元に力が入ってしまうものです。

あまり知られていませんが、奥歯と奥歯が触れ合っているだけでも、食いしばっている状態になり、咬筋や側頭筋が疲労します。また、舌先が下の前歯の裏に付いているときも、食いしばりが起こっています。

本来、奥歯と奥歯の間には隙間があり、舌先は上あごの粘膜に付いているのが正しい状態です。マスクの下の自分の口がどういう状態になっているか、ぜひ一度確認してみてください。

顎関節症の予防としては、口の中がどのような状態になっているか意識して、極力歯を食いしばらないようにすることが一番です。また、下で紹介している「開口訓練」は、顎関節症の予防にも有効です。ただし、あごに痛みがある場合は、行わないでください

このように、マスク生活が口内環境にもたらす弊害はさまざまですが、中でも一番の問題は、口臭の原因であり、健康面にも悪影響を及ぼす唾液不足です。

次の項では、マスク生活が長引いている今こそ実践していただきたい、唾液の分泌を促進する方法について解説します。

画像3: 【口臭が気になる人へ】あなたのお口は大丈夫?ドライマウス、食いしばり…。マスクの下で口内トラブル増加中!

マスク生活をしていると起こりがちなこと③

歯を食いしばりやすくあごの痛みや頭痛を招く
あごが痛い
口を開けるとき音がする
口を開けにくい
こめかみやほおのあたりが痛む

オーラルフレイルを予防する「開口訓練」

①②を1セットとして、朝と夕方に2セットずつ行う。
口を開くときには無理をせず、痛みが出ない程度にすること。

ゆっくり大きく口を開け、その状態を10秒間保つ。

画像1: オーラルフレイルを予防する「開口訓練」

しっかり口を閉じ、その状態を10秒間保つ。

画像2: オーラルフレイルを予防する「開口訓練」

口臭の改善には「コンブ水」が有効!

唾液不足による口臭や歯周病を改善するために、私がお勧めしているのが「コンブ水」を口に含むことです。

これは治療法ではなく、あくまでもトレーニング。脚力の落ちた人が歩いてトレーニングすることが大事なように、ドライマウスの人は唾液を出すトレーニングが大切なのです。

毎日、コンブ水を口に含むことによって、体が唾液を出すことに慣れていきます。このように、唾液を出すリズムを整えることが目的です。

個人差はありますが、2週間ほどで唾液が出ることを実感できるようになるでしょう。半年も続ければ、ドライマウスも改善してくるはずです。

では、コンブ水を口に含むと、なぜ唾液が出るようになるのでしょうか?

口に含むことで唾液の分泌量が増える

もともと唾液は常に出ているもので、必要に応じて分泌量が増えたり減ったりします。唾液の分泌量が増えるのは、口を動かしたり食事をしたりするときです。コンブ水を口に含むことで、口の動きとコンブのうま味によって唾液の分泌が促されます。

うま味が唾液の分泌を促す(味覚-唾液反射)

唾液は「唾液腺」という組織から分泌されます。ドライマウスの人は、口の中のあらゆるところに分布している唾液腺(小唾液腺)からの分泌量が低下していることがわかっています。

私たちは実験を行い、酸味、うま味、塩味、甘味、苦味のうち、小唾液腺の分泌量を高める味は何かを調べました。すると、うま味は、口に含んだ直後の唾液の分泌量が、酸味に次いで多かったのです。

しかも、その後の唾液の分泌は、うま味のほうが長続きすることが明らかになりました。

画像: 味覚刺激に対する下唇小唾液腺分泌量の変化:Sasano T,et al.Curr Pharm Des.2014;20:2750-2754

味覚刺激に対する下唇小唾液腺分泌量の変化:Sasano T,et al.Curr Pharm Des.2014;20:2750-2754

コンブ水なら、酸味や塩味のように、乾いた口に染みて痛むこともありません。また、うま味が口に入ると、気持ちもゆったりして副交感神経が優位になり、リラックス効果で唾液はさらに出やすくなります。

詳しいコンブ水トレーニングのやり方は、下項を参照してください。

コンブ水はだしコンブと水で簡単に作れる

用意するもの
だしコンブ……約30g
水…500ml

画像1: コンブ水はだしコンブと水で簡単に作れる

作り方
コンブは、キッチンばさみなどで細かく切れ目を入れる。

画像2: コンブ水はだしコンブと水で簡単に作れる

①と水を容器に入れ、一晩置いておく。

画像3: コンブ水はだしコンブと水で簡単に作れる

②をペットボトルなどに入れ、冷蔵庫で保管する。
※2日以内に使い切ること。

画像4: コンブ水はだしコンブと水で簡単に作れる

コンブ水トレーニングのやり方
口の乾きを感じたときなどに、コンブ水を口に30秒間含む。コンブ水は、そのまま飲んでも、はき出してもよい(甲状腺の病気のある人は飲まずにはき出す)。1日に10回ほど行う。

画像5: コンブ水はだしコンブと水で簡単に作れる

なるべく長く口に含み、コンブ水のうま味を味わい、唾液が出るのを確認するのがポイント。
最初は唾液があまり出ないかもしれないが、このトレーニングを毎日くり返すことにより、唾液が多く出るようになってくる。

画像: この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。

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