解説者のプロフィール

杉本錬堂(すぎもと・れんどう)
天城流湯治法の創始者。錬堂塾主宰。一般社団法人天城流湯治法協会代表理事。医師・治療家・セラピスト・格闘家・ダンサー・ミュージシャン・ヨギーなど、多岐にわたる分野で、世界中に1600名以上の指導者を育成している。
痛みを引き起こす真の原因を発見
ここで紹介するのは、手指の痛みやしびれ解消に役立つ「天城流湯治法」のセルフケア“筋肉はがし”です。
天城流湯治法は、私が自身や知人の病気やけがを克服する過程で編み出した健康法です。瞑想、呼吸、食事法、手技など多くの健康術を有しています。
独自の考え方に基づいているので、現代医学とは全く違うアプローチを行うこともあります。しかし、医師や鍼灸師がお手上げの難症例をいとも簡単に改善したり、何をやってもよくならない痛みをその場で取り除いたりと、奇跡とも言われるような効果を生んでいます。
そのことから、天城流湯治法の考えや健康術に共鳴した医師も数多く、天城流湯治法を治療に取り入れている医師は、現在30名を超えています。
そんな天城流湯治法の手技には、筋肉や筋膜などを独特なやり方で刺激するという特徴があります。
具体的には、こわばった筋肉や筋膜を「爪先ではがす」「切るようにほぐす」といった方法です。それによって、骨は骨、筋肉は筋肉、腱は腱と、それぞれが本来の動きをできるようにします。
すると、血液やリンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)や気(東洋医学でいう一種の生命エネルギー)の流れがよくなり、症状が解消していくのです。
天城流湯治法では、外傷や骨折のように明らかな原因のある場合を除いて、痛みの原因は痛みを感じている部分ではなく、全く違う遠く離れたところにあると考えます。
痛い部分から遠いところの筋肉や腱、筋膜が過度に縮んだり(硬縮)、骨にくっついて可動範囲が狭まったりすることで、連動する部分に痛みが引き起こされるのです。
手指の痛みについて、体のどこに真の原因があるかは、各指の各関節ごとに異なります(下図を参照)。
今回は、私の経験上、特に悩んでいる方が多い、「薬指の第1関節」「薬指の第2関節」「中指の第2関節」の3ヵ所を取り上げます。私の体感では、手指の痛みに悩む方の半数が、この3ヵ所に症状が出ています。
痛みの原因になっている筋肉を指先ではがすことで、痛みは改善していきます。
▼大まかな位置

痛みがある指 | 原因になっている筋肉や骨 |
---|---|
薬指の 第1関節 | 肩の下にある三角筋が上腕骨にくっついている【図A】 |
薬指の 第2関節 | 親指の付け根にある長母指外転筋が、前腕の橈骨にくっついて引っ張っている【図B】 |
中指の 第2関節 | 親指と人さし指の間の第1背側骨間筋がくっついている【図C】 |
しびれがある指 | 原因になっている筋肉や骨 |
親指・ 人さし指・ 中指の内側 | 大胸筋の外側が硬縮している【図D】 |
中指の外側・ 薬指・ 小指 | 小円筋が肩甲骨にくっついている【図E】 |
人さし指・ 中指・ 薬指 | 上腕三頭筋が上腕骨にくっついている【図F】 |
しびれの原因は血液やリンパの滞り
次に、手指のしびれに関しては、指先に向かう血液やリンパの流れが、筋肉の硬縮によって体のどこかで滞っていることが原因です。
どこで滞っているかによって、症状が現れる指が異なります。滞りの原因になっている筋肉を指先で切るようにほぐすことで、指先の血流が改善し、次第にしびれも取れてきます。
なお、指によっては、しびれの原因になっている筋肉が、複数にまたがる場合もあります。その場合は、全ての原因に対して筋肉はがしを行います。
具体的な改善例を挙げましょう。50代の女性Aさんは、中指や人さし指の複数の関節が腫れ、指が曲がり、とても痛むとのことでした。病院に行っていなかったので診断名はわかりませんが、「へバーデン結節」「ブシャール結節」だと思います。いずれも一般に、鎮痛薬やテーピングといった対症療法以外に有効な改善策がありません。
Aさんに筋肉はがしを行ったところ、その場で腫れが引き、「指の曲げ伸ばしに痛みを感じなくなった」と、とても驚いていました。そしてセルフケアを続けたところ、腫れは完全に引き、変形していた指も元に戻りました。これはほんの一例で、多くの方に効果が出ています。
手指の痛みを和らげる筋肉はがしのやり方
各セルフケアは痛みが生じている方だけ行う。左右に症状があれば、両側で行う。
薬指第1関節

肩の最も高い部分に、反対の親指の先を押し込むように強く当てる。そのまま肩をつかみながら、親指の先を内側に回す。筋肉(三角筋)を骨(上腕骨)からはがすイメージで行う。肩の最も高い部分から、二の腕の真ん中までまんべんなく刺激。
薬指第2関節

親指の下で、かつ手と手首の境界のシワの位置に反対の親指の先を当てて手首を握る。手首を握りながら、親指の先を内側に回す。親指の先で筋肉(長母指外転筋)を骨(橈骨)からはがすイメージで行う。3回くり返す。
中指第2関節

人さし指と親指の骨が交差するところに、反対の親指の先を当てる。親指の先で人さし指の骨(第2中手骨)の下部から上部までをまんべんなく刺激する。筋肉(第1背側骨間筋)の間に親指を割り込ませてはがすイメージで行う。
手指のしびれを和らげる筋肉はがしのやり方
各セルフケアはしびれが生じている方だけ行う。左右に症状があれば、両側で行う。
親指・人さし指・中指の内側

胸の筋肉(大胸筋)の外側に、反対の親指の先を当てて、筋肉を指先で切るように上下に動かす。肋骨から筋肉をはがすイメージで行う。3往復くり返す。
中指の外側・薬指・小指

肩甲骨下側に、反対の人さし指と中指の先を当てる。そのまま肩甲骨下側をまんべんなく刺激する。肩甲骨下側と筋肉(小円筋)の間に人さし指と中指を割り込ませて、上方向にはがすイメージで行う。
人さし指・中指・薬指

ひじから肩側に5cm寄ったところに、反対の親指の先を当てる。筋肉(上腕三頭筋)を骨(上腕骨)からはがすイメージで、筋肉を切るように左右に動かす。3往復くり返す。

この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。
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