ヘバーデン結節では、指をできるだけ動かさずに安静を保ちましょう。変形を予防し、痛みを和らげることができます。とはいえ、痛みが消えるまで手指を使わずに暮らすことはできません。そこで、テーピングやマッサージ、食事や日常生活の注意点やコツを紹介します。【解説】池上亮介(池上整形外科院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

池上亮介(いけがみ・りょうすけ)

1984年広島大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属柏病院、国立東宇都宮病院、第三北品川病院などで整形外科専門医、リウマチ医、手外科専門医として年間500症例の手術を経験。湘南記念病院にて整形外科医長、副院長を経て、2012年池上整形外科を開院。ひじ~手指の骨折、脱臼などの外傷、腱鞘炎、テニスひじなどの腱の障害、へバーデン結節などの変形性関節症を治療する手外科医。現在も年間500症例の手術を行っている。

[別記事:手指の痛み・しびれ・変形を起こす4つの病気の特徴や見分け方をチェック→

痛みを緩和&変形を予防
ぐるぐる巻きテーピング

ヘバーデン結節では、指をできるだけ動かさずに安静を保ちましょう。変形を予防し、痛みを和らげることができます。

ただ、日常生活で指を動かさずに過ごすのは困難です。治療の現場では、ヘバーデンリングという器具や、添え木などで指を固定することもあります。しかし、これらは指先の違和感が大きいのが難点。そのため、指をある程度動かせるテーピングが行われます。

私がお勧めするテーピング法は「ぐるぐる巻き」。症状のある関節に、テープを約20cm使って3周ほどぐるぐるとゆるく巻き、仕上げに軽く押さえて形を整えるだけという、簡単な巻き方です。

テープは紙製のサージカルテープがお勧め。伸縮性の高いテープだと指を締め付け過ぎる場合があるからです。他にも、関節保護専用のテープやサポーターが市販されています。

画像: 痛みを緩和&変形を予防 ぐるぐる巻きテーピング

眠れないほど痛い場合はこれ!
寝る前に、指に消炎鎮痛剤をぬる

ヘバーデン結節の痛みの程度は個人差があり、中には、夜眠れないほどの強い痛みがある人もいます。そんな人には消炎鎮痛剤が処方されます。

消炎鎮痛剤には飲み薬とぬり薬があります。私が処方するのはぬり薬で、その多くは痛みや炎症を鎮める効果のある成分が配合されています。また、バンテリンなどの市販薬を使ってもOKです。

飲み薬は、長期服用による内臓への負担が不安なため、私はあまりお勧めしていません。

ぬり薬は、関節の両サイドと甲側に念入りにぬります。指の腹側は脂肪組織が厚く、関節からも遠いため、そもそもあまり痛みを感じないはずです。

ヘバーデン結節は、朝の起床直後に一番強く痛むという人が多いです。そのため、夜寝る前にマッサージを兼ねてぬるのがお勧め。これで翌朝の痛みがかなり軽くなります。

画像: 眠れないほど痛い場合はこれ! 寝る前に、指に消炎鎮痛剤をぬる

腱や靭帯を健やかに保つ食事
大豆食品をとってエクオールを増やす

女性ホルモンのエストロゲンには、腱や靭帯を健やかに保つ働きがあります。女性ホルモンが減少する更年期以降の女性にヘバーデン結節の患者さんが多いのは、このためでしょう。

大豆に含まれるイソフラボンは、腸内細菌によってエクオールという成分に変換されます。エクオールは、エストロゲンと似た働きがあることが知られています。

ただ、エクオールを作る腸内細菌は日本人の約半数にしかありません。腸内細菌がいるかどうかは尿検査でわかります。検査キットの「ソイチェック」は婦人科や調剤薬局、大手ネットショップで入手可能です。

エクオールはサプリメントが市販されています。私も患者さんに勧めて、40~50代の女性の約4割に効果がありました。ただ、60歳以上ではさほど効果がないこともあります。即効性はないため、3ヵ月はとり続けてください。

画像: 腱や靭帯を健やかに保つ食事 大豆食品をとってエクオールを増やす

手の冷えを取り、重症化を防ぐ
42℃の温浴で手指を温め血行改善

ヘバーデン結節の患者さんは、血の巡りの悪さや冷えを訴える人が少なくありません。また、そんな人ほど重症化しやすい傾向があります。中には、氷の入ったグラスを持つだけで指がジンジンと痛むという患者さんもいました。

さらに、朝起きぬけの痛みやこわばりがつらいと訴える人も少なくありません。この場合、朝の手の温浴がお勧めです。冷たい水で洗顔をする前に、深めの洗面器にお湯をたっぷりと張って、両手を温めてやりましょう。

お湯の温度は42℃で。また、お湯の中で両手をゆっくりとグー、パーとくり返して動かせば、血行改善効果がより高まります。

冷えで痛みが増すという人は、日中も冷えを避ける工夫をしてください。エアコンの冷風や冷たい水仕事、体が冷える薄着などは、できるだけ避けましょう。

画像: 手の冷えを取り、重症化を防ぐ 42℃の温浴で手指を温め血行改善

心地よさで痛みが隠れる
優しくなでるようにもむ関節マッサージ

子どもが転んでけがをしたときに、お母さんが「痛いの痛いの飛んでいけ~」と唱えながら患部をさする。実はこれ、医学的には理にかなっています。

皮膚をなでられたときの感覚(触圧覚)は、痛みを感じる痛覚よりも太い神経を通って脳に伝わります。そのため、なでられたときの心地よさが痛みを覆い隠してくれるのです。

ヘバーデン結節の痛みにも、マッサージはある程度の効果があります。やり方や時間に決まりはありませんが、5分程度が目安です。気持ちいいと感じるようにマッサージしましょう。

その際、消炎鎮痛効果のあるぬり薬や、ビタミンE配合などの血行を改善する作用のあるハンドクリームを使えば、高い効果が期待できます。

症状のない指も、マッサージすれば、痛みやコブ、違和感といったヘバーデン結節の初期症状が見つかるかもしれません。

画像: 心地よさで痛みが隠れる 優しくなでるようにもむ関節マッサージ

ヘバーデン結節に多い血行不良を改善!
ビタミンEやスパイスで体を温める

ヘバーデン結節の患者さんは冷え症や血行不良の人が多いです。

そのため、体を温める作用のあるビタミンEが処方されることがあります。ビタミンEはナッツ類やカボチャ、ホウレンソウ、アボカド、ブロッコリーなどにも含まれます。

ショウガ、ニンニク、タマネギや、トウガラシ、サンショウ、コショウなども体を温めます。特にショウガは漢方薬に用いられるほど作用の強い食品です。

トマトやキュウリ、レタスなどの夏野菜は体を冷やすため、ご注意ください。

体がむくんでいても、血の巡りは妨げられます。むくみのあるときは、利水作用のあるトウガンなどの瓜類、ワカメ、トウモロコシ、ソラマメ、アズキ、シュンギク、マイタケを食べましょう。

私がむくみ対策として患者さんに勧めているのは、ハトムギ茶です。冷やさずにホットで飲むとよいでしょう。

画像: ヘバーデン結節に多い血行不良を改善! ビタミンEやスパイスで体を温める

適度な有酸素運動が血流をよくする!
週2回、歩幅を大きくしてウォーキング

血流改善には運動もお勧め。適度な有酸素運動は、血管の内側にある内皮細胞から、血管を広げて血流をよくするNO(一酸化窒素)の分泌を促します。

手軽な有酸素運動といえば、ウォーキング。ただし、歩き方にはコツがあります。散歩のようになんとなく歩くのではなく、一定のリズムで腕を振りながら歩きましょう。

ポイントは、できるだけ歩幅を大きくすること。1回30分程度、週に2~3回を目安に続けてみてください。慣れてきたら、歩く時間や回数を増やしましょう。

痛みで体が緊張していると、自律神経のうち、心拍数や血圧を上げる交感神経が優位になります。そうすると血管が収縮して血流が悪くなるため、痛みがひどくなります。

適度な運動は、心身をリラックスさせる副交感神経の働きを優位にして、血流をよくする効果も期待できます。

画像: 適度な有酸素運動が血流をよくする! 週2回、歩幅を大きくしてウォーキング

リラックスタイムが痛みを和らげる
38℃程度のぬるめのお湯に15分つかる

ヘバーデン結節の痛みを和らげるには、毎日お風呂に入って心身をリラックスさせるのもよいでしょう。

副交感神経の働きを優位にするには、38℃くらいのぬるめのお湯にゆっくりとつかるのがお勧め。熱過ぎるお湯だと、かえって交感神経を刺激してしまします。

湯船では、15分を目安に、汗が流れるまでよく温まってください。痛みのある関節をなでたり、手をグー、パーとゆっくりと動かしたりして、手指を優しくほぐしてやりましょう。湯船の中での水圧と浮力にも、心地よいマッサージ効果があります。

ラベンダーやカモミールなどの鎮静効果のあるバスオイルをお湯に垂らすのもおすすめ。もちろん、お気に入りの入浴剤でも構いません。炭酸入りの入浴剤なら、血行がよくなり、冷えの改善も期待できます。

画像: リラックスタイムが痛みを和らげる 38℃程度のぬるめのお湯に15分つかる

痛みを軽減!
手指に負担をかけない日常生活のコツ

ヘバーデン結節の痛みや変形は、指の酷使で悪化します。発症したら、痛みが引くまで手指の安静を保ってください。

とはいえ、痛みが消えるまで手指を使わずに暮らすことはできません。そこで、手指に負担をかけない日常生活のコツを紹介します。

例えば、瓶のふたを開ける動作。このような手指のねじれ動作は、ヘバーデン結節や母指CM関節症の場合、悪化の原因になります。私は、患者さんには市販のオープナーの使用をお勧めしています。

ちなみにある患者さんは、ゴム手袋をはめると、オープナーを使わなくても瓶のふたをらくに開けられると教えてくれました。実際に試すと、確かに手指に余計な力が入りません。これはうれしい発見でした。

オープナーの他にも、手指が自由に使えない人向けのサポートグッズは数多く販売されています。握りやすい形状の包丁、カップ、フォーク、筆記用具や、小さな力で開けられる洗濯ばさみなどもあります。最近は服のボタンを留めるお助けグッズもあるようです。

入浴時には長い柄のついたボディブラシが役立ちます。また、両端に持ち手のあるタオルを使えば、背中が洗いやすくなります。さらに、そういうものを買わなくても、手持ちのタオルに布などで持ち手を縫い付けるのも一つの方法です。

ちょっとした動作の工夫でも手指の負担は減らせます。重い鍋は、両手にミトン(手袋)をはめて、手のひら全体を使って持ち上げましょう。食材を混ぜる木べらなどは、親指が上になるようにして握り込んで使うとらくです。

ご自分なりの「手指に負担をかけない生活術」を工夫してみてください。

画像1: 【ヘバーデン結節の痛みを和らげる】手外科の名医が勧める8つのセルフケア

瓶のふたを開けるときはゴム手袋をする

大きめの瓶などのふたを開けるのは強い力が必要で、手指が痛い人にはつらい作業。市販のオープナーを使うか、ゴム手袋をはめるとらくに開けられる。

画像2: 【ヘバーデン結節の痛みを和らげる】手外科の名医が勧める8つのセルフケア

菜ばしの代わりにトングを使う

指先を自由に動かせないなら、菜ばしの代わりにトングを使うといい。大きさの異なるトングをいくつか用意すれば、鍋から料理を取り出すのも、お皿に盛りつけるのも自在にできる。

画像3: 【ヘバーデン結節の痛みを和らげる】手外科の名医が勧める8つのセルフケア

歯磨きは電動歯ブラシで行う

歯ブラシを小刻みに動かすのは、指が痛いときには難しい。電動歯ブラシなら、歯に軽く押し当てるだけなので手で動かさなくて済み、手指の負担を軽減できる。

画像4: 【ヘバーデン結節の痛みを和らげる】手外科の名医が勧める8つのセルフケア

重い物はレジ袋でなくカートで運ぶ

スーパーの手提げのレジ袋が重い場合、手で持つと指に食い込んで痛い。買い物カートを入手して活用しよう。後ろ手で引っ張るタイプより、手押し車タイプがおすすめ。

画像5: 【ヘバーデン結節の痛みを和らげる】手外科の名医が勧める8つのセルフケア

洗い物をするときはお湯を使う

冷たい水は、ヘバーデン結節の痛みと腫れの大敵。洗い物は、必ずお湯で行う。痛みがひどいなら、食器洗い機の導入を検討しよう。

■イラスト/恒松尚次

画像: この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。

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