解説者のプロフィール

鶴見隆史(つるみ・たかふみ)
医療法人社団森愛会鶴見クリニック理事長。1948年、石川県生まれ。金沢医科大学卒業後、浜松医科大学で研修勤務。2001年より現職。西洋医学のみならず、東洋医学(中医学)、鍼灸、筋診断法、食事療法などを追究する。西洋医学と東洋医学を統合した、患者優位の「病気治し医療」に取り組む。アメリカ・ヒューストンで酵素医療を実践するディッキー・ヒューラー博士と1990年代後半から交流し、日本の酵素栄養学の第一人者として活躍中。近著『最新版 朝だけ断食で9割の不調が消える!』(学研プラス)が好評発売中。
有効成分を多くとれる賢い食べ方
大根は、1年中購入できる身近な食材の代表格です。この野菜には、健康維持に役立つ成分が豊富に含まれています。
代表的なのが、酵素です。酵素は、消化・吸収・代謝といった、生命活動に必要な化学反応を助ける働きを持っています。
酵素は体内でも作られますが、作り出せる量には限度があります。また、加齢とともに酵素の生産量は減少します。そのため、食事からの摂取も必要になってきます。
消化酵素を食事で補えれば、体内で作られた酵素を脂肪や糖の代謝に多く回せるようになります。これにより、肥満の改善や血圧・血糖値の安定などが期待できるのです。
大根には、糖質を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するプロテアーゼ、脂質を分解するリパーゼなど、消化を助ける酵素が含まれています。
こうした酵素は、加熱調理によって活性が失われますが、生で食べられる大根おろしなら、その心配が不要。無理なく、おいしく、酵素を摂取できます。
大根をおろすことで得られる効果は、この他にもあります。
①体内の菌やウイルスを殺す
人気がない役者を指す「大根役者」という言葉があります。一説によると、この言葉の由来は、大根を食べるとおなかを壊さない(あたらない)ことから来ているといわれています。
大根の強い殺菌力は、辛味成分・イソチオシアネートによるものです。イソチオシアネートは、細胞が壊れて酵素と反応することで作られます。
大根をすりおろして細胞を粉砕する大根おろしは、この成分を多くとれる、賢い食べ方と言えるでしょう。
②便通を整える
大根は、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルも豊富です。マグネシウムには、腸の動きをよくしてお通じを改善する働きがあります。
その他、整腸作用がある不溶性・水溶性の食物繊維や、腸を潤し便通を整えるのに必要な水分も豊富です。大根おろしを汁ごと食べれば、これらの成分も無駄なく摂取できます。
③体の酸化を防ぐ
大根に含まれるビタミンCには、体の酸化を防ぐ作用があります。イソチオシアネートも同じ作用を持つので、ダブルの効果で体の酸化を防ぎ、老化や生活習慣病を予防・改善します。
なお、ビタミンCは水溶性なので、やはり大根おろしを汁ごと食べるのがお勧めです。
糖尿病の予防や改善につながる
大根おろしの効果を高めるために、一緒にとりたい調味料が「酢」です。
酢の主成分である酢酸は、「短鎖脂肪酸」と呼ばれる物質の一種です。短鎖脂肪酸は、糖・脂肪の代謝を改善したり、免疫(病気に抵抗する働き)の暴走を抑えて炎症を抑制したりする働きを持っています。
また、短鎖脂肪酸の97%は、大腸で吸収されて全身に行き渡り、臓器や細胞を保護する粘液になると考えられています。
ところで、この短鎖脂肪酸は腸内細菌が食物繊維を発酵・分解したときにも作られます。
そのため、酢酸を摂取できる酢と、食物繊維が豊富な大根おろしはとてもいい組み合わせ。短鎖脂肪酸が不足することで起こる胃炎、胃潰瘍、緑内障、心・腎疾患、糖尿病などの予防・改善につながります。
他にも、酢の血液サラサラ効果と大根の殺菌力によって、加齢臭や便臭などの臭いトラブルの解消も期待できます。
大根おろしも酢も、しっかりとれば医者いらずになる健康食材。元気で若々しい体づくりのために、ぜひ生活に取り入れてみてください。
大根おろしの〝コツ〟
●根っこに近い方を皮ごとすりおろす

酵素は、大根の皮や根っこに近い先端部分に多く含まれます。根元の方を皮ごとすりおろせば、より強い効果が期待できます。
●30分以内に食べる

大根は、すりおろした直後から酸化が進みます。イソチオシアネートも蒸発しやすい性質を持つため、すりおろしたら30分以内に食べましょう。
●おろし金は銅がベスト!なければ金属製のものを

銅製のおろし金は殺菌作用が強く、すりおろしたものが酸化しづらいといわれています。値段は高めですが、高品質なものも多いので、気になる人は買ってみるとよいでしょう。
銅製のおろし金を手に入れるのが難しい人には、細胞が細かく粉砕できる、目立てがしっかりとがった金属製のおろし金がお勧めです。
鶴見先生のお勧めは黒酢と梅酢
●冷えの解消に!黒酢+大根おろし
黒酢は、他のお酢よりも体を温める作用が高いのが特徴です。
ある実験では、黒酢と穀物酢を摂取してから30分後の体温の変化をサーモグラフィーで観測したところ、穀物酢ではあまり変化が見られなかったのに対し、黒酢は体温が大きく上昇したという結果が出ました。
昔の黒酢を飲んだことがある人にとっては、「癖が強くてあまりおいしくない」というイメージが強いかと思います。しかし、今の黒酢はとてもマイルドな味わいでおいしいので、大根おろしとあわせても違和感がありません。
また、全国のスーパーでも広く販売されているため、手に入れやすいという利点もあります。

●感染症対策にお勧め!梅酢+大根おろし
私が最近、感染症対策にお勧めしているのが梅酢です。梅干しにはクエン酸などが含まれており、通常の酢よりも殺菌効果が高いという特徴があります。
さらに大根おろしにも、強い殺菌効果を持つ成分・イソチオシアネートが豊富です。この2つをダブルでとれば、ウイルスや病原菌などを撃退するのに役立ちます。
梅酢の難点は、時期によっては入手するのが難しいこと。しかし、自然食品店や高級スーパーなどでは、通年で取り扱っているところも多いようです。心配な人は、梅干しの時期である6月頃に買い置きしたり、自家製の梅酢を作ったりしておくとよいでしょう。

[別記事:「お酢がけ大根おろし」作り方のコツ&活用術→]

この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。
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