解説者のプロフィール

宮澤大助(みやざわ・だいすけ)
柔道整復師。東京大田区池上で「みやざわ整骨院」を開業。牧野裕、芹澤大介といったプロゴルファーから、プロ野球選手、マラソン選手、相撲力士まで、様々なプロスポーツ選手のトレーニングと体をケアしている。骨盤と胸郭のバランスに着目した「THP理論」に基づいたバランス整体治療には、全国からプロ選手達が訪れる。
座禅を組むだけで体をストレッチできる
みなさんは「座禅」を組んだことがありますか?
座禅は、精神統一の手段として知られていますが、スポーツトレーナーの立場から見ても、座禅を習慣づけることにはメリットがいっぱい。姿勢がよくなったり、けがをしにくい体になったりと、健康面でいいことがたくさんあります。
1日に何十分も座禅を組む必要はありません。ほんの1~2分、座禅を組むだけでも効果が得られます。
座禅というと作法が難しいと思うかもしれませんが、ここでいう座禅は「骨盤の真上に胸郭を乗せた姿勢をつくること」と考えてください。
胸郭とは、胸をぐるりと囲む骨格のことです。座禅を組むときは、骨盤を立てて、その真上に胸郭が乗るようなイメージで座ります。この姿勢がポイントです(※)。
※ 宮澤先生は骨盤と胸郭のバランスを改善する方法を「THPソリューション理論」としてまとめている。
あぐらがつらい人は、いすに浅く腰かけ、骨盤を立てましょう。背すじを伸ばし、骨盤の真上に胸郭が乗るようにしてください。このように座るだけでも十分です。
座禅のポイント

❶骨盤を立てる
❷骨盤の真上に胸郭が乗るように背すじを伸ばす

あぐらが組めなければ、骨盤を立てていすに座り、骨盤の真上に胸郭が乗るように背すじを伸ばす。この姿勢で座るだけでも、十分にストレッチ効果が得られる。
私が座禅を勧める理由は、この姿勢をキープすることで、胸郭を柔軟にできるからです。
胸郭には、100個以上の関節があります。座禅を組み、骨盤の真上に胸郭が乗るような姿勢をつくると、自然と胸が広がります。
その際、100を超える胸郭の関節が一斉にストレッチされます。ストレッチ効果によって、しだいに胸郭が柔軟になっていくのです。
人間の関節は、ひざもひじも指も気づけば曲がっていますよね。胸郭の関節も同じです。
曲がった関節を、ずっと伸ばさずにいると、そのまま固まってしまいます。意識して関節を伸ばす機会が必要なのです。

胸を囲む「胸郭」
胸郭は胸を囲む骨格のことで、肋骨、胸骨、胸椎から成る。座禅を組むと、自然と胸が広がり、胸郭のたくさんの関節を一斉にストレッチできる。
座禅のメリット①
呼吸が深くなって自律神経が安定
胸郭が柔軟になると、酸素を取り入れる量が自然と多くなります。ゆったりとした深い呼吸は、自律神経の安定や血行促進に役立ち、心身にいい影響をもたらします。
胸郭が硬いと、酸素を取り入れる量が減ります。そこで体は首や肩の筋肉を動員して、呼吸を助けます。これを努力呼吸と言います。
しかし「肩で息をしている」という言葉から連想されるように、努力呼吸は疲れやすいのです。普段から疲れやすい人は、胸郭が硬くなり、努力呼吸をしている可能性があります。
座禅のメリット②
体の柔軟性が増して骨折しにくい体に
胸郭の柔軟性は、けがの予防にも大きく関係します。
スポーツの世界では、けがは選手生命を左右するため、予防が極めて重要です。私はスポーツトレーナーとして、ゴルファーや野球選手などの体をケアする中で、胸郭が、けが予防の鍵を握ると実感しました。
柔軟な胸郭は、打ったり投げたりという動作をパワーアップさせると同時に、腕や肩の負担を減らし、けが予防に大いに役立つのです。
日頃からアスリートのような動作をしている人は少ないでしょうが、柔軟な胸郭は、日常のけが予防にも有効です。
柔らかい胸郭は、体の中でスプリングの役割を果たしてくれます。走ったり転んだりしたときの衝撃を、バネのように胸郭が吸収してくれるのです。
これが、石のようにガチガチの胸郭だったらどうでしょう。衝撃を吸収しきれないので、骨折のリスクが高まります。
転倒時の骨折も怖いですが、やっかいなのは脊椎圧迫骨折です。
歩いたり座ったりした時の衝撃が原因で、背骨が上下から圧迫されて押しつぶされる脊椎圧迫骨折は、「いつの間にか骨折」と言われ、メディアでも話題になっています。
胸郭の柔軟性を保つことで、「いつの間にか骨折」を回避できる確率は、ずいぶんアップします。
座禅のメリット③
姿勢がよくなりひざや腰への負担が減る
骨盤と胸郭のバランスがいい人とそうでない人とでは、足腰への負担にも違いが出ます。
姿勢が悪いと、歩くときに腰やひざに余計な負担がかかり、関節や軟骨に必要以上のダメージが加わります。体のパーツは全て消耗品です。関節や軟骨の消耗を減らして、いかに長持ちさせるかが大切なのです。
最近は「1日数千歩」といったウォーキングが推奨されているようです。しかし、姿勢が悪いと、歩けば歩くほど関節や軟骨にダメージが加わり、腰やひざを痛めてしまいます。
歳をとったとき、内臓は健康でも、足腰が弱くて寝たきりというのは、なかなかつらいものです。
姿勢を改善することは、関節や軟骨の消耗を抑え、健康寿命を延ばすことにつながります。座禅を習慣づけることで、骨盤と胸郭のバランスがよくなりますから、姿勢を改善できるのです。
整骨院に来る年配の方に、このような話をすると、「私は体が柔らかいから大丈夫」といって、前屈して床に両手をピタッとくっつける人がいます。
そういう方に「両手でバンザイをしてみて」というと、腕がピンと伸びないケースがほとんど。これは胸郭がガチガチになっている証拠です。
下半身の柔軟性も大切ですが、ぜひ上半身にも注意を向けてください。胸郭が柔らかくなれば、心身によいことがたくさんあります。
その助けとなるのが1日1~2分の座禅です。骨盤を立て、その真上に胸郭を乗せる。この姿勢を心がけ、皆で柔軟な胸郭を目指しましょう。

座禅で得られる3つの効果
呼吸が深くなる
▶︎自律神経に好影響
▶︎血行を促進
柔軟性が増す
▶︎けがをしにくい
▶︎圧迫骨折を回避
姿勢がよくなる
▶︎足腰への負担が減る
▶︎健康寿命を延ばす

この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。
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