解説者のプロフィール

菅沼加奈子(すがぬま・かなこ)
菅沼病院副院長。総合内科専門医、リハビリテーション科勤務。小学校3年生と6年生の2児の母。医学部時代に頭痛やめまい、胃痛、腰痛などの不定愁訴に悩まされたが、構造医学と出合い、薬なしでこれらを克服。内科医として働きながら構造医学も学び、現在は西洋医学で治りにくい不定愁訴の患者、けがに悩まされる子どもたちやスポーツ従事者、腰痛やひざ痛、頭痛に悩まされる患者の治療にあたっている。また、幼稚園や保育園、柔道整復師、助産師、各種企業に骨格の大切さを伝えるべく、講演会を行っている。
骨格を整えたら全ての不調が改善した
「足首パタパタ」は、足首を動かすだけの非常に手軽な体操です。しかし、効果は抜群。腰痛、股関節痛、ひざ痛、頭痛と、全身の痛みの解消に役立ちます。
まず、私の体験をお話しします。幼少期にバレエを習っていましたが、普通はできるようになるはずの開脚が、どうしてもできません。股関節が痛くなってしまうのです。
その後も、スポーツをするとねんざをしたり靭帯を損傷したりと、けがが多く、子どもの頃から腰痛持ちに。頭痛や肩こりにも悩まされる幼少期でした。
整形外科に行っても原因は不明で、これといった治療法は見つかりませんでした。
医学部時代も変わらず体調不良に悩みました。そんな中、私は「構造医学」に出合います。構造医学とは、吉田勧持先生(理学博士、医学博士)が提唱された、人間の体の構造を解析する学問のこと。物理学の知見を臨床に活用するのが特徴です。
私自身がこの考え方に基づいて骨格を整えたところ、なんと全ての不調が改善しました。それから私は構造医学を学び、治療に取り入れるようになったのです。
現在は、通常の内科診療の他に、腰やひざ、股関節、肩などに痛みがある患者さんのリハビリテーションを行っています。「内科医でありながら、骨格を治せるドクター」という立ち位置で、日々の診療にあたっているというわけです。
今回紹介する足首パタパタは、骨格を整える方法の一つです。
通常の整形外科の検査で原因不明とされてしまう体の痛みの多くは、「骨格のゆがみ」から生じています。
私たち人間は、重力を受けた状態で生活しています。骨格のバランスが悪くて、重力や体重がどこかに偏っていると、骨や関節に必要以上の負担がかかり、痛みの原因となります。
骨格に付随した神経や血管も本来の位置からずれることで、問題が生じます。神経が圧迫されたり、引っ張られたり、あるいは血流が滞ったりして、痛みが出やすくなるのです。
足を組む癖が骨盤をゆがめる
体の中心に位置し、骨格の土台となる重要な部位が骨盤です。骨盤は、中央にある仙骨と、その左右にある寛骨などで構成されています。
仙骨と寛骨のつなぎ目の関節を「仙腸関節」といいます。関節といっても、可動域はほんの1~2mm、動く角度もごくわずかですが、人間が二本足で歩くために必要不可欠な働きをしています。
仙腸関節は、ネジのようにゆるんだり、締まったりします。歩くときに、足を上げている側はゆるみ、地に足をつけて体を支えている側が締まる、という具合です。
仙腸関節のゆるみ、締まりには、適切な範囲があります。それを超えて仙腸関節がゆるみ過ぎると、下半身に体重をかけにくくなり、反対に締まり過ぎると、体重がかかり過ぎになります。
仙腸関節のゆるみや締まりが適切な範囲内であれば、骨盤は水平な状態を保つことができます。ところが、どちらかの仙腸関節がゆるみ過ぎたり、締まり過ぎたりすると、骨盤の左右のバランスがくずれてしまいます。
すると、股関節やひざ関節にも負荷がかかり、滑らかに動けなくなるのです。

骨盤が左右に傾いていると、その上に立つ背骨も左右にカーブしてゆがむことがあります(側弯症)。こうした背骨のゆがみは、足腰の痛みにつながります。
骨盤のゆがみを生み出す代表的な原因は、運動不足や姿勢の癖。
日常的にいすに座っている時間が長いと、寛骨が押されて骨盤が広がってしまいます。さらには、足を組んで座る癖があると、骨盤が左右にゆがみやすくなります。
足首の曲げ伸ばしで骨盤のバランスが整う
骨盤のバランスを正すのに大切なことは、なんといっても、歩くことです。そもそも人間は二足歩行で進化してきた動物ですから、よく歩くことが本来の姿であり、骨格や体の機能を保つ上でも重要です。
ただし、すでに骨格が大きくゆがんでいて、痛みが出ているような人は、痛む箇所をかばって歩き方に癖が生じていることがあります。そのまま無理をして歩くと、かえって症状を悪化させてしまいます。
そこで、取り組んでいただきたいのが「足首パタパタ」です。足首パタパタはあおむけに寝て行うため、重力による負担がかかりません。骨格のゆがみや足腰の痛みを悪化させることなく、骨盤の調整ができます。
足首をひざ側に曲げる動きでは、ふくらはぎの筋肉が伸びて寛骨が後ろに回り、仙腸関節が締まります。また、足首を伸ばす動作では、ふくらはぎの筋肉が縮み、寛骨が前に回り、仙腸関節がゆるみます。
2つの動きをくり返すことで、骨盤の左右のバランスが整い、本来の正常な位置に戻りますし、股関節のずれも解消します。その結果、さまざまな痛みが緩和されていくのです。
足首パタパタのやり方
❶あおむけになって、両手を骨盤の左右に置く。
❷3秒かけて、左の足首をゆっくり大きくひざ側に反らす。それと同時に、右の足首は反対側に伸ばす。

❸3秒かけて右の足首を反らし、左の足首を伸ばす。


※②と③を1度ずつ行って1回と数える。100回で1セット。1日1~3セットが目安。
※座りながら行っても構わない。

この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。
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