解説者のプロフィール

松岡博子(まつおか・ひろこ)
アピア均整院代表。身体均整師会常任理事、副会長。身体均整法学院で身体均整法を学び、東京・高田馬場にサロンを開設。骨盤や背骨に着目した施術を行い、高い成果を上げている。『ゆがみをリセット! 骨盤ほぐし体操』(成美堂出版)など、著書・監修書多数。
誰でもゆがみはある!放置しないことが重要
普段、あまり意識されていないものの、縁の下の力持ちのように私たちの健康を支えている部分。それが「骨盤」です。骨盤の主な働きは次の3つです。
①上半身と下半身をつなぎ、全身のバランスを取る
動物にも骨盤はありますが、人間の場合は、直立二足歩行をするようになったため、骨盤がより重要になりました。単に上半身と下半身をつなぐだけではなく、骨盤で全身のバランスを取る必要が出てきたのです。
②腹部の内臓を守る
骨盤を上から見ると、底に穴があいた洗面器のような形をしており、腹部の臓器を下から支えています。それらを守るのも骨盤の役目です。
③背骨の土台として働く
骨盤を構成している骨の一つに、背骨の一番下にある仙骨という平たい骨があり、背骨の土台となっています。ですから、骨盤は、背骨全体のバランスとも深く関係するのです。

骨盤は、以下の3つのパーツで構成されている。
①仙骨、②尾骨、③寛骨(腸骨+恥骨+座骨)
骨盤というと、「腰にある1つの大きな骨」のようにイメージしている人も多いかもしれませんが、実際はいくつかの骨の組み合わせでできています。
仙骨の左右にあるのが寛骨(腸骨+恥骨+座骨)です。ウエストの下で左右に触れる骨の出っ張り(俗に腰骨と呼ばれるところ)は、寛骨の上部の腸骨です。
仙骨と腸骨の間は、仙腸関節と呼ばれる関節で、通常の関節のように大きくは動きませんが、微妙に動いて骨盤の開き具合を調整しています。腸骨は下の方で座骨、前の方で恥骨につながっています。
骨盤の前面には、左右の恥骨が結合した、恥骨結合という部分があります。女性の出産時には、赤ちゃんが通りやすくするため、この結合部分がゆるんで引き延ばされます。
骨盤は、このように骨が組み合わさっているので、骨と骨の間(特に仙腸関節)にゆがみやズレが起こりやすく、それが、骨盤全体の傾きやねじれにつながっていきます。これがいわゆる「骨盤のゆがみ」です。
骨盤のゆがみは、心身のさまざまな不調や病気を招く大きな原因になります。
どんな人でも、毎日の生活の中で、多少なりとも骨盤がゆがみますが、重要なのはそれを固定化させないこと。夜寝ている間に、骨盤のゆがみをリセットできる体をつくることです。
それには、自分の骨盤の健康度と、ゆがみ方のタイプを知ることが重要です。次項から、その方法を紹介します。
コロナ禍で男女問わずゆがみが出やすい
骨盤は、上半身と下半身をつなぐ、全身の中心部分です。その上、背骨の土台であり、重要な臓器を守っています。
多くの働きをしているだけに、骨盤がゆがむと、いろいろな問題が起こってきます。
①首・肩こり、腰痛、ひざ痛
骨盤がゆがむと、背骨にもゆがみが生じ、首や腰のこり・痛みが起こりやすくなります。それらにつながる肩のこりや、足の痛みなども起こってきます。
②気分の落ち込み、うつ、不眠
背骨の中には、脳とつながる中枢神経の束である脊髄が通っています。また、背骨の周囲には、心身の状態を調整する自律神経も走っています。そのため、骨盤のゆがみから背骨のゆがみが生じると、各種の精神症状も生じやすくなるのです。
③便秘、下痢、消化力の低下、泌尿器や生殖器のトラブル
骨盤内にある臓器が圧迫され、腸をはじめとする消化器の不調や、女性なら子宮・卵巣、男性なら前立腺などの不調が起こりやすくなります。
④太りやすい、下腹が出る
体の中心にある骨盤がゆがむと、血液やリンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)の流れの滞りや、各種の臓器の不調から、代謝が衰えて太りやすくなります。特に、下腹がポッコリ出る例が多くみられます。
⑤免疫力の低下
血液やリンパの流れが悪くなるとともに、各種臓器の働きが低下することから、免疫力も低下しやすくなります。
男女を比べると、一般的に骨盤は女性の方がゆがみやすいものです。これは、骨盤を支える筋肉が、男性より少ないためです。
もっとも、男性でも骨盤のゆがみは起こります。特に最近は、コロナ禍の影響で、運動不足や筋力の低下などが広く起こっているため、男女を問わず、骨盤が不安定になってゆがみやすいという傾向がみられます。
骨盤がどのくらいゆがんでいるかは、次項のチェックリストでわかります。さっそくチェックしてみてください。
骨盤の健康度チェックリスト
普段何気なく行っている姿勢や動作などで、骨盤の健康度がわかります。当てはまる項目にチェックを入れて、いくつあったか数えましょう。
□ いすに浅く腰かけ、背もたれに寄りかかる癖がある
□ 同じ側を上にして、足を組んで座ることが多い
□ 寝転がり、ひじ枕をしてテレビを見ることが多い
□ 横座りをよくする
□ よくあぐらをかいて座る
□ 歩くとき、ネコ背になってしまう
□ ガニ股、内股で歩く傾向がある
□ 人と一緒に歩くとき、同じ側に立つことが多い
□ 同じ側でかばんを持つ、肩にかける
□ 腰を下ろさずに、布団や物を持ち上げる
□ 座りっ放しや立ちっ放しなど、長時間同じ姿勢でいる
□ 長時間スマートフォンを見ている
□ 湯船につからず、シャワーで済ませることが多い
□ 運動不足気味だ
□ 日常的にストレスを感じることが多い
□ 疲れているのに、なかなか寝つけない
□ 朝起きたとき、背中や腰が疲れていることがある
□ 眠りが浅く、夜中に何度か目覚める
□ 横向きやうつぶせで眠ることが多い
□ 昼間に眠くなってしまうことがある
□ 過食したり、食べ過ぎたり、食事量が不安定
□ 食事中、同じ側の歯でかむことが多い
□ テレビを横目で見ながら食事をする
□ スナック菓子、ファストフードが好き
□ 夜遅い時間に食事をとることが多い
チェックが20個以上
▶︎危険度80%以上◀︎
かなり骨盤がゆがんでいる可能性があります。
骨盤のゆがみが、現在のさまざまな不調の元になっている可能性が高く、今の生活習慣や動作・姿勢の癖を続けると、さらに悪化したり、新たな不調を招いたりしそうです。チェックが入った項目のうち、改善できるものは改善しつつ、自分の骨盤タイプに合わせた「骨盤ほぐし体操」(別記事参照)を始めましょう。
チェックが10~19個
▶︎危険度60%以上◀︎
じわじわゆがみが加速中かも?
まだ大きなゆがみまでは生じていないものの、徐々にゆがみがひどくなっている可能性があります。特に、チェック項目に挙げたような偏った動作や姿勢を続けていると、ゆがみが加速しやすくなります。それを食い止めるため、当てはまる項目を1つでも減らすとともに、「骨盤ほぐし体操」を取り入れてみてください。
チェックが9個以下
▶︎危険度20%以下◀︎
今のところ大丈夫です。今後も気をつけて!
現在のところ、骨盤がゆがんでいる可能性は大きくないようです。もし、ゆがみが生じたとしても、すぐにリセットできる生活といえるでしょう。これからも骨盤のゆがみを招く生活習慣に気をつけていきましょう。ゆがみ予防のために、「骨盤ほぐし体操」も取り入れれば、万全です。
首を動かして6タイプの骨盤のゆがみをチェック!
ひとくちに「骨盤のゆがみ」といっても、その傾向は6タイプ(下記参照)に分かれます。ご自分の骨盤がどのタイプかを知ることで、効果的な対策を取りやすくなります。
骨盤のタイプは、首の簡単な動作をしてみるだけでわかります。骨盤と背骨はつながっているので、骨盤のゆがみや癖は、首の動きに現れるのです。
骨盤タイプを見分けるには、下に挙げた首の6つの動作を、1つずつやってみましょう。静かにゆっくりと行うのがポイントです。スムーズに動かせるか、こわばりや引っかかりなどを感じて動かしにくいか、意識しながらやってください。
6つの動作のうち、一番らくにできた動作により、あなたの骨盤タイプがわかります。
❶首を前に倒す

❷首を後ろに倒す

❸首を左に倒す

❹首を右に倒す

❺首を右にねじる

❻首を左にねじる

一番らくにできた動作はどれ?
❶→骨盤前傾タイプ
❷→骨盤後傾タイプ
❸→骨盤左下がりタイプ
❹→骨盤右下がりタイプ
❺→上体右ねじれタイプ
❻→上体左ねじれタイプ
同じくらい動かしやすい動作があって迷うときは、その動作を、前後や左右のペアになっている動作(①‐②、③‐④、⑤‐⑥)とともに、くり返してみましょう。前後差や左右差が、より大きく感じるペアのうち、動かしやすい方を採用します。
それでも迷う場合や、ペアの動作の両方が同じくらいやりやすいと感じる場合は、続きの記事で各タイプの特徴を読み、当てはまるものを見分けてもよいでしょう。
ご自分の骨盤タイプがわかったら、各タイプに効果的な「骨盤ほぐし体操」を続きの記事で、それぞれの特徴や注意点とともに紹介していますので、該当するページをお読みください。
骨盤のゆがみは性格にも影響を及ぼす
骨盤タイプは、現在のゆがみの他、ゆがみやすい傾向も示しています。今、ゆがみがない人にとっては、骨盤ほぐし体操がゆがみの予防に役立ちます。
続きの記事で紹介してある骨盤タイプの説明には、性格の傾向も含まれています。
【骨盤ほぐし体操①】首を前に倒しやすい「骨盤前傾タイプ」の人にお勧めのやり方
【骨盤ほぐし体操②】首を後ろに倒しやすい「骨盤後傾タイプ」の人にお勧めのやり方
【骨盤ほぐし体操③】首を左に倒しやすい「骨盤左下がりタイプ」の人にお勧めのやり方
【骨盤ほぐし体操④】首を右に倒しやすい「骨盤右下がりタイプ」の人にお勧めのやり方
【骨盤ほぐし体操⑤】首を右にねじりやすい「上体右ねじれタイプ」の人にお勧めのやり方
【骨盤ほぐし体操⑥】首を左にねじりやすい「上体左ねじれタイプ」の人にお勧めのやり方
骨盤は、神経と深く関わる背骨や、重要な臓器と密接に関係しています。こうした神経や臓器の状態が性格形成にも影響するため、骨盤タイプで、ある程度、性格傾向も決まってくるのです。
なお、骨盤タイプは変化することもあります。特に、骨盤ほぐし体操を始めて1週間ほどは変わることがよくあります。
その後はほぼ固定されますが、大きな生活の変化などで変わることもあるので、ときどきチェックし直してみましょう。
■イラスト/石山綾子

この記事は『安心』2022年10月号に掲載されています。
www.makino-g.jp