解説者のプロフィール

南直秀(みなみ・なおひで)
1992年、北海道大学獣医学部医学科卒業。ペンヒップ認定獣医師。医院では内科、外科、再生医療及び腫瘍免疫療法を担当。動物の体のケアだけでなく、心のケアの両立を目指し、飼い主の選択肢を多くできるよう努める。監修著書に、『愛犬の看取りマニュアル』(秀和システム)がある。
犬猫も輸血は必要!ただし血液バンクはない
皆さんは、ご自身が飼われているペットの血液型をご存じでしょうか。
動物も手術やケガをしたときに、輸血が必要になることがあります。輸血では、同じ型の血液を使用します。異なる血液型を輸血してしまうと、重い副反応が出て、命が危険にさらされることもあります。
血液型を知っていれば、もしものときに速やかに輸血できます。不慮の事態が起こる前に、動物病院で判定してもらっておくことをお勧めします。
血液型は、赤血球の表面についている物質の違いによって決まります。人間の血液型はA型、B型、O型、AB型の4種類ですが、猫はA型、B型の2種類です。AB型も存在しますが非常に稀です。日本では、猫全体の70〜80%がA型といわれています。
一方、犬の血液型は数字で表します。犬の赤血球についている物質は人間よりも種類が多いので、血液型は8〜13種類もあるといわれています。そのなかで、国際的に認められているのは1.1型〜8型までの8種類です。また、人間の血液型は一人につき1種類ですが、犬は1.1型に複数の血液型が組み合わさっています。
1.1型には陽性(+)と陰性(-)があり、輸血の際は、まずこれが同じかどうかをみます。さらに第2段階として、「クロスマッチ試験」というものを行い、拒絶反応が起こらないかどうかを確認します。これら2つの検査で問題がなければ、そこで初めて輸血が可能とわかります。
しかし、動物の輸血には大きな問題があります。人間のように血液バンクがなく、また血液の長期保存ができないので、常に血液が足りない状況だということです。
献血時に健康状態を検査できるメリットも
私が勤務する東京動物医療センターでも、「献血プログラム」としてドナー登録を呼びかけています。
ドナーの条件は病院によりますが、私の病院の場合、まず年齢は犬も猫も1〜6歳の範囲で、体重が犬は10kg以上(理想は25kg以上)、猫は4kg以上。またワクチン接種は必須で、猫の場合は完全室内飼育に限ります。
この基準をクリアしたうえで、血液検査や感染症の検査を行い、栄養状態と健康状態がよければドナー登録できます。
献血用の採血は、一般的に犬が体重(kg)×20ml程度、猫は体重(kg)×10ml程度です。
採血にかかる時間は10〜20分くらいですが、採血用の針を刺している最中に動くと危険なため、この間、診察台に横になってもらいます。おとなしく横になるまでの時間を含めると、全体で30〜60分くらいと考えていただければよいと思います。
暴れてしまう子は軽く麻酔をしたり、タオルにくるんで抱いたりして採血をします。また、咬んでしまう子は、エリザベスカラーや口輪を使ったりすることもあります。
いずれにしても、診察台に拘束するようなことはありません。縛りつけると恐怖心をあおることになって、かえって逆効果ですし、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」となってしまうこともあるからです。
ただ毛が多い子やかたい子は、針を固定するテープが毛で浮いて、針が動いてしまうことがあるので、針を刺す部分だけ毛を剃ることはあります。

愛犬・愛猫の健康チェックにも有用
ドナー登録をお願いするといっても、それぞれの動物病院で患者さんにお願いするしかないのが現状です。特に小さな動物病院では、ほんとうに困っています。
最近では輸血が必要になったときに、飼い主さん自身がSNS等を使って募るケースもあります。それが功を奏する場合も少なくありませんが、どうしても近隣に限られます。つまり、人が少ない地域ほど問題は深刻なのです。
ちなみに、血液検査をすることで愛犬・愛猫の健康状態をチェックすることができます。ここで病気が発覚するケースもあるので、そういったメリットも踏まえて検討していただきたいと思います。
愛犬・愛猫に対する思いはどなたも同じです。なにかあったときの「お互いさま」というお気持ちで、かかりつけの動物病院などを確認し、ドナー登録にご協力ください。よろしくお願いいたします。

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。
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