解説者のプロフィール

平松育子(ひらまつ・いくこ)
ふくふく動物病院院長。京都府生まれ。山口大学農学部獣医学科卒業。複数の動物病院の勤務を経て、2006年に山口市にてふくふく動物病院を開院。獣医がん学会、獣医皮膚科学会所属。飼い主とペットがいつまでも笑顔で過ごせることを目指し、最良の統合医療の提供するかたわら、専門学校の講師やメディアでの執筆や監修など幅広く活躍している。
犬猫はわずか3日で歯石ができてしまう!
家で飼っている犬や猫の歯が全体的に茶色くなっている、あるいは一部茶色になっているところが見られたら、それは歯石です。
皆さんも、歯磨きをする前に歯の表面が粘ついているという経験があると思います。このネバネバは歯垢(プラーク)です。歯磨きがきちんとできていないと、歯に残った歯垢が、およそ2週間ほどで石灰化して歯石となります。
歯垢が歯石になるのは、犬や猫も同じです。ところが犬や猫の場合は、歯石になるまでの期間が人間よりも圧倒的に短く、わずか3日で歯石となってしまいます。
歯石は細菌の巣窟ですから、ほうっておくと歯周病になってしまいます。そうなると、口の中が痛くて食事ができなくなったり、血管に入った細菌が血液とともに流れて、心臓や腎臓などの内臓系の病気の要因となったりすることもあります。
ひどくなると、歯根と鼻腔の間にトンネルができて、つながってしまいます。その結果、慢性的な鼻炎となって、くしゃみや鼻水が止まらなくなり、鼻が詰まって苦しむ子もいます。犬や猫にとって、嗅覚は人間以上に重要ですし、呼吸の観点からも大きな問題です。
つまり、歯が汚れていると、口の中にとどまらず、全身に悪影響を及ぼすことになるのです。ですから、犬や猫にも歯磨きが必要というわけです。
歯磨きの頻度は、2〜3日に1回でかまいません。3日以内であれば、歯の汚れが歯石になる前に除去できるからです。もちろん、毎日行えるのであれば、それにこしたことはありません。

犬・猫も歯磨きをしよう!
かた過ぎるおもちゃは歯が欠けるのでNG!
歯磨きの方法には、歯ブラシでのブラッシング、歯磨き専用のシートやガーゼでぬぐう、デンタルケア効果のあるおもちゃで遊ばせるなど、いくつかあります。
最も効果があるのは、人間と同じく歯ブラシによるブラッシングです。しかし、最もハードルが高い方法でもあります。
ほとんどの犬や猫は、歯ブラシを口に入れると嫌がります。犬や猫にしてみれば「嫌なのになぜ?」となりますし、飼い主も「嫌がるのにかわいそう」と思ってしまいがちです。
ですから、ブラッシングは、時間をかけて慣らしていく必要があります。最初から完璧を目指すのではなく、最終的にやらせてくれるようになればOKといった感覚で根気よく続けましょう。
ブラッシングは嫌がるけれど、歯に触らせてくれる子もいます。その場合はウェットティッシュタイプの専用シートを飼い主が指に巻きつけて、歯をぬぐってあげるだけでも、歯の汚れ方がだいぶ違います。
ただ、やはりペットとの関係性がまだ築けていないなどで難しいかたもいるかと思います。そういった場合は、おもちゃを使うのも選択肢の1つです。
歯磨きガムや歯磨きロープなど、歯に食い込むおもちゃを与えることで、歯の汚れが取れやすくなります。
与えるときの注意点としては、いつまでも与えておかないということです。ただし、無理に取り上げることはやめましょう。10分もすれば飽きて自分から放すことが多いので、そのタイミングで片づけます。いつまでも抱えているときには、別のおもちゃを見せて興味をそらせるとよいでしょう。
鹿の角や牛のひづめも、ペットのデンタルケアグッズとして売られていますが、犬や猫の歯は決して強いわけではないので、これらはお勧めできません。ペットに与えたら歯が欠けた、ひびが入った、折れた、といった事例もあります。
咬み砕いた角やひづめのかけらを飲みこんで、のどや消化器を傷つけることにもなります。飼い主が取り上げようとすると、取られまいと急いで飲みこんでしまうこともあるので、そもそも与えないことが賢明でしょう。
また最近では、歯垢をとる酵素が含まれたペットフードやおやつもあるので、こうした物を利用するのも一つの手です。
おもちゃだけでは、歯の汚れが、歯と歯のすきまや歯と歯ぐきの間にある溝(歯周ポケット)に入り込んでしまうこともあります。心配なかたは、動物病院での定期的なデンタルケアをお勧めします。
私はよく飼い主さんに「ペットが嫌がること、飼い主さんが自信のないことは他人任せでもいいですよ」とお話ししています。無理をしてペットとの信頼関係がくずれるよりも、難しいことは専門家に任せて、自身はしっかり愛情を注ぐというのも間違いではありません。
ただし、その子の健康を損ねてしまうことには気をつけてほしいと思います。

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。
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