大きな災害が起きると、人間の食糧を確保するのさえ難しくなります。食糧の配給が始まっても、ペットフードまでなかなか手が回らないでしょう。災害時は、ペットの環境も過酷です。食べない子は、どんどん衰弱してしまいます。そのような緊急時に備える意味でも、ふだんから人間の食べる物にある程度慣れておいてほしいのです。【解説】林美彩(chicoどうぶつ診療所代表・獣医師)

解説者のプロフィール

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林美彩(はやし・みさえ)

獣医師。動物病院の娘として生まれ、幼いころから動物と過ごす。大学卒業後は代替療法・西洋医学両方の動物病院や、サプリメント会社での勤務を経て、chicoどうぶつ診療所を開業。毎日食べる物で体がつくられている、日々の過ごす環境や過ごし方が体にも影響を与えているという考えのもと、多くのペットやその飼い主の心のケアに努める。著書に、『獣医師が考案した長生き猫ごはん』(世界文化社)など。

[別記事:市販のペットフードは原材料名に着目! 数種類を順番にあげると食欲減退を防ぐ→

犬猫のアレルギーに気づけていない人が多い

私は犬や猫のためのレシピ本を出すなど、ペットの手作りごはんを推奨しています。

もちろん、健康でいてほしいからというのがいちばんの理由ですが、もう1つ、大きな理由として、日本が災害の多い国であることが挙げられます。

大きな災害が起きると、人間の食糧を確保するのさえ難しくなります。食糧の配給が始まっても、ペットフードまでなかなか手が回らないでしょう。食料や生活必需品が手に入るようになってから、ようやくペットフードという順番になるのではないでしょうか。

そのようなときに、ペットが人間の食べる物に慣れていれば飼い主が受け取った食料でペットのごはんを作ることができます

例えば、食糧の配給でよく使われるのが缶詰めです。サバ缶やツナ缶なら汁を捨て、焼き鳥の缶詰めなら肉を水洗いして粥に混ぜれば、犬や猫のごはんになります。

このような臨時のペットフードを作っても、人間の食料に慣れていない子は受けつけないこともあります。

災害時は、ペットの環境も過酷です。食べない子は、どんどん衰弱してしまいます。そのような緊急時に備える意味でも、ふだんから人間の食べる物にある程度慣れておいてほしいのです。

そしてもう1つ、手作りごはんなら食材をすべて把握できるというメリットがあります。アレルギーがある子でも安心して食べることができるのです。

ご自身が飼っているペットのアレルギーに気づいていない飼い主さんは、案外たくさんいらっしゃいます。皮膚の赤みやかゆみ、湿疹、食べてすぐに吐く、数時間後に下痢をするようなときには、アレルギーの可能性があります。

例えば、鶏肉を入れたごはんを食べてアレルギーの症状が出れば、鶏肉がアレルギーの原因(抗原)とわかりますが、いくつもの材料で作られているペットフードでは、すぐに特定できません。

その点、手作りなら材料を絞って作れるので、症状が出たときに入れた物を単品で与えてみて、反応を見ることによって抗原を突き止めることができます。

ただし、定期的な血液検査は必要です。例えば体や胃に熱がこもっている場合なども、皮膚に赤みや湿疹が出ることがあります。なにかしらの症状が現れたときには、獣医師に相談することをお勧めします。

アレルギーは、体内にたまった抗原が許容量を超えたときに発症するといわれていますから、同じ原料のペットフードを長く食べ続ければ、当然、アレルギーが起こりやすくなります。毎日少しずつでも異なる手作りごはんなら、こうしたことも防げると考えられるのです。

不足しがちな栄養素はおやつやサプリメントで

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市販のフードと組み合わせてもよい

手作りごはんは、ペットにとってメリットが大きいことをお話しすると、ほとんどの飼い主さんは「よしっ、やってみよう」「がんばります!」という反応を見せてくれます。

しかし、残念ながら続かないケースが少なくありません。その原因は「我が子のために」という強い思い入れにあるようです。

栄養バランスを考えて、ペットの体によい物を毎日作るのは、たいへんなことです。前項でも少し述べましたが、手作りごはんのコツはおすそ分けです

調味料を入れる前の飼い主のごはんをおすそ分けするくらいの気持ちでいれば、それほど負担にならず、続けられるのではないでしょうか。

市販のペットフードと組み合わせるという方法もあります。2回のうち1回をペットフードにすれば、ペットに必要な5大栄養素(たんぱく質・炭水化物・脂質・ミネラル・ビタミン)を補いやすくなります。

すべて手作りごはんの場合は、ビタミンAや、カルシウム、亜鉛、鉄などのミネラル、猫の場合はタウリンも不足しがちです。市販のおやつやサプリメントで補ってあげましょう。

次の記事では、お勧め食材とそのポイントを紹介します。独断で作るのではなく、こうしたものを参考にしたり、かかりつけの獣医師に相談したりしながら、手作りごはんにぜひ挑戦してみてください。

画像: この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。

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