日本は欧米と比べて、犬や猫の痛みに気づいて、動物病院を受診する割合が低いということが判明しています。早めの段階で気づけば治る確率もぐっと高くなります。まずは痛みに気づくことがたいせつ。そこで、慢性痛を抱えている犬や猫を見抜くチェック項目を紹介します。【解説】枝村一弥(日本大学生物資源科学部獣医学科教授)
解説者のプロフィール

枝村一弥(えだむら・かずや)
日本大学農獣医学部獣医学科卒業。東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士修了。日本大学生物資源科学部教授。博士(獣医学)。小動物外科専門医。公益財団法人動物臨床医学研究所「動物のいたみ研究会」委員長。動物の痛みを専門とした学術研究が学会で大きな評価を得ているほか、国内外での講演や後進の育成に励んでいる。
犬猫の寿命は昔よりもかなり延びている
2014年の調査によると、犬の平均寿命は13.2歳、猫の平均寿命は11.9歳。これは25年前と比べて、犬は1.5倍、猫は2.3倍の数値です。
この数値は、獣医療の発展とともに、犬猫に対する健康意識の高まりがあったからでしょう。定期検診やワクチン接種も一般に浸透してきました。
ペットもただ長生きするのではなく、人間と同様に健康寿命を延ばすことを考えなくてはなりません。健康長寿のためには、病気になってからの治療だけでなく、病気や不調を未然に防ぐ「予防医学」も重要です。
ここに1つ、興味深い報告があります。アメリカ心臓協会(AHA)の学会誌『サーキュレーション』に掲載された記事によると、欧米に住むおよそ400万人を対象に約40年間の追跡調査を行ったところ、犬を飼っている人のほうが、飼っていない人よりも早死にのリスクが24%も低かったのです。
以前から、孤独や社会からの孤立は、早死にの大きな要因であることがわかっています。犬といっしょの生活が、こうしたリスクを軽減するのではないかと推測されるのです。これは猫にもいえることでしょう。
また犬との散歩は、人間にとってもいい運動になります。しかし、犬が歩けなくなったら、散歩に行かなくなる飼い主が多いのではないでしょうか。
つまり、犬や猫の健康は人間の健康にもつながっているのです。お互いの健康のためにも、病気は早期発見して、悪化を防ぎたいものです。
しかし、ペットの不調に気づかないこともあります。実際に日本は欧米と比べて、犬や猫の痛みに気づいて、動物病院を受診する割合が低いということが判明しています。
元気なうちから関節や筋肉を鍛える習慣を!
犬や猫において、痛みを発して健康寿命に影響を与える代表的な疾患として、変形性関節症・変形性脊椎症が挙げられます。
変形性関節症は、ひじや肩、ひざ、股関節などさまざまな関節に起こります。脊椎(背骨)に変形が起こったものが変形性脊椎症です。これらの病気は、高齢になるほど罹患率が高くなります。
犬の場合、体が大きいほど注意が必要です。10歳を超える大型犬では、実に7割以上が発症しているという調査結果が出ています。
一方、猫の発症率は犬以上に高く、10歳以上の約50%、12歳以上の75%以上が罹患しています。しかし、動物病院を受診しているのはそのうちわずか2%で、犬以上に痛みの徴候に気づけていません。
まずは痛みに気づくことがたいせつです。下の表は、慢性痛を抱えている犬や猫を見抜くチェックシートです。該当項目が多いほど、痛みに苦しんでいる可能性があります。
犬の痛みチェック項目 |
□散歩に行きたがらなくなった |
□元気がなくなったように見える |
□階段を嫌がるようになった |
□飼い主やほかの犬と遊びたがらなくなった |
□あまり動かなくなった |
□尾を下げていることが多くなった |
□高い所への上り下りをしなくなった |
□足を引きずったり、ケンケンするように歩いたりする |
□立ち上がるのがつらそうに見える |
□寝ている時間が長くなった、短くなった |
猫の痛みチェック項目 |
□爪研ぎをしなくなった |
□グルーミングの頻度が減った |
□気性が荒くなった |
□ジャンプをしなくなった |
□じゃれなくなった |
□体を触るといやがったり、うなったりするようになった |
□隠れたり、警戒したり、逃げたりするようになった |
□トイレの外で糞や尿をしてしまうようになった |
犬・猫ともに元気なうちから関節や筋肉を鍛える習慣をつけておくことが、リスクを下げることにつながります。
足腰を鍛えるには、足の関節を曲げたり伸ばしたりする運動が最適です。例えば犬の場合、オスワリやフセをするだけでも簡単なエクササイズとして有効です。
習慣にすることがたいせつなので、いつも散歩に行く公園で、あるいは散歩の前後に、タイミングを決めて行うとよいでしょう。楽しみながら行うのが長く続けるコツです。
また、肥満にも注意しましょう。人間と同じで、関節の症状が出やすくなるだけでなく、さまざまな悪影響があります。運動を欠かさないほか、ふだんの食事にも気を配ることは必要でしょう。
足腰の衰えは、「年のせい」ばかりとはいえず、ほかの病気が悪化していることもあります。早めの段階で気づけば、治る確率もぐっと高くなります。なによりも、病気にならないことが健康寿命を延ばすことにつながるのです。

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。
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