解説者のプロフィール

渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)
日本歯科大学附属病院内科医師・臨床教授/聖光ヶ丘病院顧問。1978年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。84年同大学院博士課程修了。医学博士。元東京女子医科大学東医療センター内科教授、元愛知医科大学客員教授、元早稲田大学教授。専門は高血圧を中心とした循環器病。87年8月から連続携帯型血圧計を装着し、以来365日24時間血圧を測定。現在も継続記録更新中。近著に『血圧を下げる最強の方法』(アスコム)がある。
10mも歩けず電車では立っていられなかった
医師の私が、自らの脊柱管狭窄症を、2つのテニスボールで劇的に改善させたといったら驚かれるでしょうか。
私は循環器専門の内科医ですが、20代のころから腰痛に悩まされてきました。年に一度はギックリ腰になり、椎間板ヘルニアも発症していました。
脊柱管狭窄症と診断を受けたのは、13年ほど前。足に痛みやしびれが現れるようになったのは、それからさらに数年してからです。
脊柱管狭窄症の典型的な症状である「間欠性跛行」も発症しました。ひどいときは、10mも歩くことができません。重い荷物が持てないのでキャリーバッグを引いて通勤していました。電車内では、痛みで立っていられないほどです。診療にも支障が出て、「このままでは医師生命も危うい」と思うほどになりました。
もちろん、その間にも整形外科を受診しました。MRI (磁気共鳴画像法)検査により、私の脊柱管は首で2ヵ所、腰の近くで3ヵ所が狭くなっていると判明。医師からは、狭窄部分を広げる手術を勧められました。
けれども私は、手術自体が成功しても症状が残ることがあると知っていたので、不安がぬぐいきれず手術を見送りました。それからは、痛みをこらえて生活する日々でした。
3回の手術で取れないしびれが解消し歩けた!
そんな私に、ある患者さんがテニスボールによる指圧を勧めてくれました(やり方は下項参照)。半信半疑で試したところ、翌日、調子がよかったのを覚えています。
1週間続けたら前の週よりも長く歩けるようになり、1ヵ月も経つと、状態が改善しているのが明らかにわかりました。最初は痛く感じましたが、続けるうちに「痛気持ちいい」感覚になります。
1年が経ったころには、症状が驚くほど改善。通勤のキャリーバッグは不要になり、急いでいるときは駅まで走れるほど劇的によくなったのです。
思うに、私自身もそうでしたが、脊柱管狭窄症の人は腰周辺の筋肉がガチガチにこっています。同じように狭窄があっても症状が出る人と出ない人がいることを考えると、周辺部位のこり固まった筋肉が、症状の一因ではないかと思います。
加えて、私の専門は循環器系ですが、腰痛が原因で血圧が上がる症例も多く診てきました。テニスボール指圧は腰から背中の筋肉をほぐし、血流を改善します。降圧効果も望めるので、脊柱管狭窄症と高血圧の両方で悩むかたには特にお勧めです。
私は、自分の症状がテニスボール指圧でよくなったのを確信して以降、脊柱管狭窄症や慢性腰痛で悩む患者さんに、このセルフケアを勧めています。
60代の男性は、脊柱管狭窄症で手術を3回も受けたにもかかわらず、足がしびれると話していたので、テニスボール指圧を紹介しました。実践したら、しびれが取れて歩けるようになったと感激されていました。
あるときは、テレビ番組でごいっしょした俳優さんが脊柱管狭窄症だったので指圧を施術したところ、右足のしびれが治まりました。そのかたにも、テニスボール指圧を勧めました。
たった2個のテニスボールであなたも脊柱管狭窄症の症状がよくなるかもしれません。かつての私のように手術を迷っているのなら、「ものは試し」と、今日から取り組んではいかがでしょうか。
テニスボール指圧のやり方
❶硬式テニスボールを2個用意し、くっつけた状態でガムテープや包帯を使ってぐるぐる巻きにする。ずれたり動いたりしないようしっかりと固定する。

❷あおむけになり、テニスボールを腰骨の上辺りに当てる。ちょうど2個のテニスボールが、背骨に沿って両わきを走る脊柱起立筋を指圧するようにテニスボールに体重をかける。


❸テニスボールの位置を徐々に上にずらしながら、肩甲骨の下辺りまで指圧する。目安は計3分程度。朝晩1回ずつ行う。


この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。
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