解説者のプロフィール

伊藤勇矢(いとう・ゆうや)
いとう鍼灸整骨院院長。柔道整復師。鍼灸師。世界最高峰のトレイルランニング大会「ウルトラ・トレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」に日本人初のメディカルトレーナーとして、2017年から3年連続参加。現在、国内外にクライアントを抱えながらも、教育現場や地域の健康セミナーでの指導にも力を入れている。
悪い姿勢の原因は足!まずは浮き指かチェック
脊柱管狭窄症は、下肢に痛みやしびれなどが起こる病気です。根本原因は、背骨の中の脊柱管が狭くなり、その中を通る神経が圧迫されることです。
では、なぜ脊柱管が狭くなるかというと、周辺組織が変形するためです。加齢に加え、姿勢の悪さが骨格のゆがみを招き、組織を変形させます。それが、脊柱管狭窄症のみならず、慢性腰痛や椎間板ヘルニア、股関節痛、ひざ痛など、さまざまな症状を招くのです。
私は、こうした痛みを生じる姿勢の悪さのおおもとは、足の骨格の崩れにあると考えています。そして、その要因となるのが「浮き指」です。
浮き指というのは、足指のうちの何本か、あるいは5本すべてが地面に接していない状態を指します。あなたも浮き指になっていないか、チェックしてみましょう。
コピー用紙より少し厚めの、名刺やハガキ程度の紙を1枚、用意します。一人では正確な結果が得られないので、必ずペアで行ってください。
まず、あなたは両足を腰幅に開いて水平な場所に立ち、顔は正面に向けます。次に、もう1人が、用意した紙を、足指と床の間に差し込みます。その紙が足指の腹で引っかかって止まれば、浮き指ではありません。逆に、指のつけ根までスーッと入るようなら、浮き指です。
そして、浮き指のかたにぜひ実践していただきたいのが「足の甲のばし」です(やり方は下項参照)。
私は、施した治療の効果を持続させるため、ご自宅でのセルフケアを患者さんにお願いしています。皆さん、さまざまな症状を抱えていますが、この足の甲のばしは、すべての患者さんに指導しています。
足の甲を伸ばすと骨や関節、筋肉が整う!
浮き指で痛みなどの不具合が現れるのは、なぜでしょうか。
足指が1本でも浮き指になると、足の前方で力を入れて踏ん張れなくなり、重心がかかと側に偏ります。かかと重心が続くと、骨盤が後ろに傾くので、体は倒れないよう、上半身のバランスを取ろうとします。
すると肩や首、頭を前に出しがちになり、骨格にゆがみが生じます。足を構成する26個の骨の位置もずれてきます。
なかでも問題なのが、足裏の土踏まずを形成しているアーチ(着地時の衝撃を吸収する凸型構造)が崩壊することです。
私たちが歩くとき、足には体重の数倍の衝撃がかかります。アーチが崩れると、この力を吸収・分散できません。足はもちろんのこと、ひざや股関節、腰、背骨、首など、足から上に強い衝撃が伝わります。長期にわたれば、どこかに不具合が生じるのは当然でしょう。
周辺の靭帯や筋肉もかたくなり、足もとのバランス調整能力が落ちます。体は、どこかで無理をしてバランスを取ろうとするので、これもまた、不具合が出る一因になります。
これらの不具合の原因となる浮き指の解消、それに伴う足裏のアーチの修復に有効なのが、足の甲のばしです。
私は延べ12万人の足を治療してきました。その過程で、ふだん使わない足の甲を伸ばすだけで、足の甲がほぐれ、足指や足全体の骨、関節、筋肉の配列のすべてが整うことを突き止めたのです。
足の甲のばしは多くの患者さんが継続して取り組んでおり、脊柱管狭窄症だけでなく、冒頭で述べたようなさまざまな疾患の痛みなどの症状に効果を現しています。お悩みのかたは、ぜひ実践してみてください。
足の甲のばしのやり方
※1日に何回行ってもよい。
※準備体操として、足指を1本1本回してから始めると、より痛みなく、スムーズに行える。
※入浴後に行うと、効果をより感じやすい。
※つま先に痛みを感じる場合は、床にタオルなどを敷くとよい。
基本的なやり方
❶イスに浅めに座り、左足の足指を床に立てて着ける。左足の甲を正面に向けて10秒間、グーッと前方へ押し出す。
❷左ひざを少し外側に開きながら、足の甲を小指(第5趾)側に10秒間、グーッと押し出す。①〜②を、逆側の足も同様に行う。

痛みを感じる場合のやり方
左足を右ひざの上に乗せる。少し前かがみの姿勢になり、右腕のひじや二の腕などを左足の指に引っかけて10秒間伸ばす。難しい場合は、手で引っ張ってもよい(写真下)。逆側の足も同様に行う。



この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。
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