頭痛がなかなかよくならないというかたや、常用している鎮痛薬を減らしたいと考えているかたは、ぜひ一度漢方薬も試してください。ここでは、頭痛の患者さんによく処方する、代表的な漢方薬を紹介します。日本頭痛学会の慢性頭痛の診療ガイドラインでも推奨されている5つの漢方薬です。西洋医学の鎮痛剤と併用することが可能です。【解説】來村昌紀(らいむらクリニック院長)

解説者のプロフィール

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來村昌紀(らいむら・まさき)

和歌山県出身。和歌山県立医科大学、千葉大学大学院卒業。日本赤十字社和歌山医療センター脳神経外科、和歌山県立医科大学附属紀北分院脳神経外科助教などを経て、2014年、千葉市若葉区にらいむらクリニックを開院。医薬学博士。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本頭痛学会頭痛専門医・指導医。日本東洋医学会漢方専門医、千葉大学臨床教授。著書に『頭痛の本』(あかし出版)がある。

なかなか改善しない頭痛が漢方薬で劇的に解消

私のクリニックの頭痛外来では、西洋医学と、東洋医学(漢方)を併用して治療を行っています。これにより、治りにくい頭痛に対しても、大きな成果を挙げています。

私が頭痛治療を始めたのは20年以上前のこと。当時は西洋医学の標準的な治療を行っていました。毎日頭痛の患者さんを診察するのですが、なかには思ったような改善が見られない患者さんがいることが悩みでした。

そのころ、ある高齢の女性患者さんに出会いました。

彼女は、「雨が降るたび頭痛が起こる」と訴えました。たまたま検査で脳動脈瘤が見つかっていたため(頭痛はそのせいではない)、雨が降り、頭が痛くなるたび、「動脈瘤の破裂では?」と不安がります。さまざまな薬を処方しましたが、いっこうによくなりません。

そこで、ちょうどそのころ参加した勉強会で「雨が降るときに起こる頭痛に効く」と聞いていた、「五苓散」という漢方薬をお勧めしてみました。

すると、これが劇的に効果を発揮しました。雨が降っても、頭痛が起こることは全くなくなったのです。

漢方のすばらしい効能を実感した私は、あらためて東洋医学を本格的に勉強することにしました。以来、東洋医学を診療に生かし、漢方薬も処方するようになったのです。

ここでは、私自身も頭痛の患者さんによく処方する、代表的な漢方薬を紹介しましょう。日本頭痛学会の慢性頭痛の診療ガイドラインでも推奨されている5つの漢方薬です。

葛根湯

【かっこんとう】カゼ薬としてよく知られる葛根湯は、首こり、肩こりによって起こる緊張型頭痛の改善に効果的です。体を温め、筋肉をリラックスさせてコリをほぐし、頭痛を改善します。カゼのひき始めの頭痛にも効果的です。

桂枝人参湯

【けいしにんじんとう】上で紹介した葛根湯は、比較的体力がある人向けの漢方薬です。このため、体力のない人が飲むと、胃もたれしたり、胃腸の負担となったりすることがあります。

体力のない人が、肩や首のコリからくる緊張型頭痛に苦しんでいる場合、葛根湯のかわりにお勧めなのが、桂枝人参湯です。

呉茱萸湯

【ごしゅゆとう】冷え症があり、頭痛がすると同時に吐き気、むかつきなどの症状が出るかたに勧められます。このパターンが多い女性の片頭痛に処方されることも多い薬です。

五苓散

【ごれいさん】体の余計な水分の排出を促す力があり、先の高齢女性の例同様、天候の変動によって起こる頭痛やめまいに有効です。

最近は、スマホのアプリなどで、天候を予想して頭痛に注意すべき日を教えてくれるサービスがあります。こうしたアプリと五苓散を組み合わせて使えば、頭痛の予防にも役立つでしょう。

また五苓散は、二日酔いや、乗り物酔いによって起こる頭痛にもお勧めです。

釣藤散

【ちょうとうさん】胃の調子を整える生薬(漢方薬の原料)と、体を潤して元気づける生薬、クールダウン(解熱鎮痛)する生薬が合わさった漢方薬です。

年を取って口腔内が渇いたり、肌がカサカサと乾燥ぎみだったりするかたや、頭痛以外に、頭重感やのぼせといった症状があるかたにお勧めです。

漢方薬は鎮痛剤との併用も可能

東洋医学による頭痛治療では、頭痛症状以外の情報をたいせつにします。さまざまな診断を通して、患者さんの体質などの情報(「証(しょう)」といいます)を集めるのです。そして、患者さん一人ひとりに合わせた漢方薬を処方します。

また漢方薬は、飲む人の体質によって、効果が異なる場合があります。そのため、先述のように、同じ緊張型頭痛という症状だとしても、体力のある人には葛根湯、体力のない人には桂枝人参湯といったように異なる薬が勧められるのです。

ですから漢方薬は、できれば漢方の知識のある医師や、漢方薬局の薬剤師に相談して選ぶとよいでしょう。漢方薬にも副作用がありますので、飲んだあと体調の悪化がないかどうかも確認してください

漢方薬を飲むタイミングについては、一般的には食間(食事と食事の間)がいいとされていますが、こだわる必要はありません。患者さんご自身の都合に合わせて、飲みやすいときに飲んでください。

葛根湯、呉茱萸湯、五苓散の3つは即効性が高いので、頭痛が始まってから飲んでもOKです。頭痛を楽にする効果が期待できます。また、長期間飲み続ければ予防にも使えます。

一方、桂枝人参湯と釣藤散は、継続して飲んで、じわじわ効いてくる漢方薬です。早いかたなら、飲み始めて2週間で効果が実感できます。できれば2ヵ月くらいは継続服用し、変化を見守るといいでしょう。

漢方薬は、西洋医学の鎮痛剤と併用することが可能です。もしも漢方薬を飲むことで効果が実感できるなら、併用している鎮痛剤を少しずつ減らすことをお勧めします。薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)の予防・改善にもつながります。

頭痛がなかなかよくならないというかたや、常用している鎮痛薬を減らしたいと考えているかたは、ぜひ一度漢方薬も試してください。

画像: 漢方医や漢方薬局に相談するのもお勧め

漢方医や漢方薬局に相談するのもお勧め

画像: この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。

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