薬物乱用頭痛とは、鎮痛剤の飲み過ぎが原因で起こる頭痛のこと。片頭痛の人が病院を受診する割合は、全体の3割程度。多くの人は市販の鎮痛剤を飲み、しのいでいるのが現状です。しかし、鎮痛剤ばかり飲んでいると、頭痛を起こす神経が興奮しやすくなります。その結果、痛みを抑える機能が作動しにくくなって、頭痛がさらに悪化するのです。【解説】勝木将人(糸魚川総合病院脳神経外科医長)

解説者のプロフィール

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勝木将人(かつき・まさひと)

糸魚川総合病院脳神経外科医長。新潟高校、東北大学医学部医学科卒業。諏訪赤十字病院、東北大学病院、広南病院等勤務を経て、2021年より現職。日本の経済復興のため、頭痛啓発運動や頭痛診療に役立つAI開発などを行う。またプライベートではシンガーソングライターとして楽曲配信・楽曲提供も行っている。所属学会は日本頭痛学会、日本脳神経外科学会、日本メディカルAI学会、日本脳卒中学会など。

鎮痛剤の乱用により頭痛が悪化している

皆さんは、「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」をご存じですか。

これはその名のとおり、鎮痛剤の飲み過ぎが原因で起こる頭痛のこと。2日に1回以上頭痛があり、月に10日以上鎮痛剤を飲んでいるかたは、もともとの頭痛に薬物乱用頭痛が加わり、痛みが強まっている可能性が高いといえます。

日本では約840万人が片頭痛に悩んでおり、そのうち7割の人が、日常生活が著しく損なわれると訴えています。一方で、片頭痛の人が病院を受診する割合は、3割程度。多くの人は市販の鎮痛剤を飲み、しのいでいるのが現状です。

しかし、安易に鎮痛剤ばかり飲んでいると、頭痛を起こす神経が興奮しやすくなります。その結果、痛みを抑える機能が作動しにくくなって、頭痛がさらに悪化するのです。

私たちは昨年、薬物乱用頭痛の実態を調べようと、新潟県糸魚川市の15〜64歳の市民を対象に、アンケート調査を行いました。すると、有効回答5865人中、2.3%に当たる136人が、薬物乱用頭痛になっていることが明らかになりました。

しかも、薬物乱用頭痛の人のうち、吐き気や嘔吐、光・音・におい過敏などを伴う中等度〜重度の片頭痛のかたの割合は20%でした。

残りの80%は、軽度〜中等度の頭痛(片頭痛のほか緊張型頭痛なども含む)であるにもかかわらず、鎮痛剤を多用しているということです。

薬物乱用頭痛のかたのうち、67%は市販薬の乱用が原因でした。一方、医療機関で頭痛治療を受けているにもかかわらず、薬物乱用頭痛になっている人も7%いました。

頭痛専門医でなければ、医師も頭痛を軽視しがちです。重篤な脳の病気でないことだけ確認し、鎮痛剤を処方して診察は終了。適切な治療が行われず、患者さんは自己判断で薬を飲むしかない……という状況が生まれていると考えられます。

薬物乱用頭痛とは?
鎮痛剤の飲み過ぎが原因で起こる頭痛のこと。「2日に1回以上頭痛が起こり、月に10日以上鎮痛剤を飲む」人は、該当する可能性が高い。

※鎮痛剤が効きにくくなっているという自覚症状があるかた、週2回以上鎮痛剤を飲むかたは予備軍の可能性もあるので注意が必要。

画像: 【薬物乱用頭痛とは】月に10日以上鎮痛剤を飲んでいる人は要注意!飲み過ぎを避ける3つの工夫

「痛くなりそうだから」と鎮痛剤を飲むのはNG!

薬物乱用頭痛にならないためには、どうすればよいのでしょう。私は、次の3点に取り組むことをお勧めしています。

頭痛ダイアリーをつける

患者さんのなかには、自分が毎月鎮痛剤を何錠飲んでいるか、はっきりとわからないかたが少なからずいます。まずは自分がどれだけ鎮痛剤を飲んでいるか、把握しましょう。

頭痛ダイアリーには、頭痛が起こる頻度やその程度、薬を飲んだ回数を記録します。どんなときに頭痛が起こるか、自分の傾向が把握できれば、生活習慣の見直しなどの予防策も取りやすくなり、鎮痛剤の飲み過ぎも防げます。

痛くないのに予防的に鎮痛剤を飲むことは避ける

「なんとなく頭痛になりそうだから」といった理由で、予防的に鎮痛剤を飲むことは避けてください。量がいたずらに増える原因になります。

頭痛の程度によって薬を使い分ける

病院で片頭痛に処方されるトリプタンなどの薬は、特につらい頭痛のときだけ飲むようにしてください。また、市販薬にも注意が必要です。多くの市販の鎮痛剤は2~3種類以上の成分が入った混合鎮痛薬ですが、これは意外に強力です。

痛みがさほど強くないなら、ときには薬を我慢したり、漢方薬を活用したりといった工夫をしてください。漢方薬は、薬物乱用頭痛を引き起こすことはありません。
 

一方、すでに薬物乱用頭痛になっている場合は、頭痛専門医に相談のうえ、一度断薬する必要があります

その間は頭痛に耐えなければなりませんが、1〜2週間もすれば、薬の成分が体から抜け、薬物乱用頭痛からは解放されます。その後は、予防薬や、頭痛が起こったときのみ鎮痛剤を使いながら、治療を行います。

私は、今は薬物乱用頭痛でなくとも、月2回以上片頭痛があり、生活に支障があるなど日常的に頭痛に悩んでいるかたには、ぜひ一度頭痛専門医や、脳神経内科・外科にかかることをお勧めします。

皆さん、あまり意識することはないかもしれませんが、頭痛は進行性の疾患です。適切に治療しないとどんどん悪化してしまいます。場合によっては学校や仕事にも行けなくなるなど、より深刻な状況にもなりかねません。

「頭痛は鎮痛剤を飲んで我慢するもの」と軽視せず、ぜひ治療に取り組んでください。

画像: この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。

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