解説者のプロフィール

柴田真一(しばた・しんいち)
大清水クリニック院長。医学博士。1981年、大阪医科大学卒業。名古屋市立大学第二内科教室研修医、豊川市民病院神経内科医員、名古屋市立守山市民病院第三内科副部長、菰野厚生病院診療医部長を経て、2000年、大清水クリニックを開院。日本内科学会認定医、日本神経学会専門医・指導医、日本リハビリテーション医学会臨床認定医。名古屋市医師会理事、認知症サポート医。
女性ホルモンのバランスの変化が頭痛を起こす
「これまで頭痛に悩んだことはなかったのに、更年期(女性の場合、閉経の時期をはさんだ前後10年間)になって急に頭痛に苦しむようになった」という女性患者さんは、少なくありません。
また、もともと頭痛持ちのかたが、更年期に頭痛がいっそうひどくなり、とても苦しい思いをする、という場合もあります。なぜ更年期に、頭痛が起こったり、ひどくなったりするのでしょうか。
そもそも、頭痛は圧倒的に女性に多い疾患です。実はその理由は、はっきりとはわかっていません。ただ、女性ホルモンが関係していることは、100%間違いないといわれています。
女性の体では、排卵時と月経期に、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が入れ替わります。その内部環境の変化に体がすぐに適応できず、頭痛が起こると考えられているのです。
ですから、初潮を迎える10歳前後から頭痛に悩まされる女性は少なくありません。実際には、初潮の数年前からホルモンの変動は起こり始めているので、早い人では小学校2年生(8歳)くらいから頭痛が顕著になるケースもあります。
もちろん、排卵・月経以外にも、雨や台風など気候の影響、社会的ストレス、寝不足をはじめとする生活の乱れも、頭痛を誘発します。
人生で考えると、女性は小・中学生のころ、高校・大学の受験時期、就職時、妊娠時、そして更年期のころに頭痛が起こりやすいといえます。
更年期の頭痛にも、やはり女性ホルモンが関係しています。
更年期には、エストロゲンが急激に減少します。すると、脳からは「もっとホルモンを出せ」と指令が出ます。このときの体と脳のアンバランスが自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)を乱し、頭痛や吐き気を引き起こすと考えられます。
このため更年期に急に頭痛に苦しむようになったり、もともとの頭痛の症状がさらにひどくなったりするというわけです。
更年期に起こる頭痛の多くは「片頭痛」です。ズキンズキンと脈打つような痛みが起こり、吐き気・嘔吐などを伴います。
また、更年期の女性の体は、肩こりなども起こりやすくなっています。筋肉や骨にも老化の影響が出るほか、職場や家庭における社会的ストレスも大きいためです。
肩こりがひどくなると、片頭痛に加えて「緊張型頭痛」を混合し、頭痛の症状がさらに悪化する場合もあります。
頭痛を含めた更年期障害は、症状の有無や種類、起こる時期が人によって違うので、一概に「何歳から始まる」とはいえません。しかし、初潮と同じく、閉経の数年前から体の変化は始まっています。
実際には45歳くらいから、生理はあっても排卵がない状態になるともいわれています。このくらいの年齢から、頭痛が悪化したり、ホットフラッシュ(のぼせやほてり)など更年期特有の症状が出てきたりする人が多いのではないでしょうか。
女性ホルモンが関係している頭痛は、閉経したら治まります。つらい場合は頭痛外来を受診し、この時期だけ集中的に治療するのも一つの手です。
寝る前のスマホを控えリラックスして過ごそう

頭痛外来における治療の基本は、頭痛ダイアリーをつけることです。頭痛の起こりやすい状況を予測できるので、それに併せて予防薬を飲み、頭痛の頻度を減らしていくと、かなり楽になります。
重い発作が出たときは、鎮痛剤を飲んで対応します。ただし、飲み過ぎにならないよう、頭痛ダイアリーで薬の量を確認することがたいせつです。
[別記事:頭痛治療の主治医は自分自身!頭痛ダイアリーを活用すれば痛みの軽減も可能→]
また、更年期による体と脳のアンバランスに対しては、頭痛治療と並行して、婦人科でのホルモン療法を行うことも検討するとよいでしょう。
生活面を整えることもたいせつです。私はいつも患者さんに「きちんとした『人間生活』をしましょう」と伝えています。きちんとした人間生活とは、規則正しい生活という意味です。
特に、頭痛を引き起こすリスクが高いのは、寝不足です。寝る前にスマホを見ると、脳が興奮して寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりするといわれているので、要注意です。
興奮したり、ストレスをため込むことも、頭痛の原因になります。自分がリラックスできる方法を見つけて、心穏やかに過ごせるように心がけましょう。
とはいえ、ストレスはどうしようもないこともあります。また、閉経したからといって、頭痛が全く起こらないというわけではありません。年齢とともにあちこちが痛くなるように、今度は老化による頭痛が起こることもあります。
生活に支障をきたすほどの症状があれば、ぜひ我慢せず頭痛外来を受診してください。

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。
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