ほかの病気なら、検査の数値や画像診断で、本人以上に正確に医師が病気の実態を把握することができます。ところが頭痛の場合、痛みの状況がわかるのは患者さん本人だけです。ですから、よりよい治療のためには、患者さん自らが積極的に治療に参加することが重要なのです。そのための有益な手段が「頭痛ダイアリー」です。【解説】來村昌紀(らいむらクリニック院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

來村昌紀(らいむら・まさき)

和歌山県出身。和歌山県立医科大学、千葉大学大学院卒業。日本赤十字社和歌山医療センター脳神経外科、和歌山県立医科大学附属紀北分院脳神経外科助教などを経て、2014年、千葉市若葉区にらいむらクリニックを開院。医薬学博士。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本頭痛学会頭痛専門医・指導医。日本東洋医学会漢方専門医、千葉大学臨床教授。著書に『頭痛の本』(あかし出版)がある。

痛みの状況がわかるのは患者さん本人だけ

ときどき、「私の頭痛は体質ですから、治りません」とあきらめている患者さんにお会いすることがあります。また、診察の際受け身の態勢で、治療方針は医師任せ、というかたもいらっしゃいます。

しかし、残念ながらこのような考えでは、頭痛治療はうまくいきません。ほかの病気なら、さまざまな検査の数値や画像診断で、本人以上に正確に、医師が病気の実態を把握することができます。

ところが頭痛は、それができません。痛みの状況がわかるのは、患者さん本人だけです

ですから、よりよい治療を受け、頭痛を改善するためには、患者さん自らが、積極的に治療に参加することが重要なのです。

そして、そのための有益な手段が「頭痛ダイアリー」です。

慢性的な頭痛には、緊張型頭痛と片頭痛、群発頭痛があり、どのタイプの頭痛かによって、治療方針は大きく異なります。頭痛ダイアリーをつけ、痛みの内容や頻度を把握できれば、自分の頭痛のタイプを見極めることができます。 

また、頭痛ダイアリーによって、頭痛を引き起こす要因も見えてきます。ふだんの生活を丹念に見直すと、患者さん本人のなにげない行動が、頭痛を引き起こしているとわかることがあるのです。

例えば生活習慣の面からいえば、睡眠不足、食事の偏り、運動不足のほか、仕事のストレスなどが頭痛に影響する場合があります。

パソコンやスマホの操作でずっと同じ姿勢を取ることで、首や肩にコリが生じ、頭痛につながるというかたも多くいます。

さらに、環境面の影響も多大です。降雨や気圧の変化が頭痛に影響する場合があります。また、片頭痛の場合、光や音、においなどの環境因子が刺激となって、痛みが生じることもあります。

頭痛ダイアリーをつけると、自分の頭痛と生活習慣や環境との関連が把握しやすくなるのです。

どんな痛みだったかをメモ帳に書くだけでいい

頭痛ダイアリーは、最も一般的なものが、「日本頭痛学会」のホームページからダウンロードできます。また、頭痛外来のある病院でも入手できます。手に入らなくても、同じ内容をメモ帳に書くだけでOKです。

頭痛ダイアリー
(出典:日本頭痛学会ホームページ。一部抜粋)

画像1: どんな痛みだったかをメモ帳に書くだけでいい

記入例

画像2: どんな痛みだったかをメモ帳に書くだけでいい

基本的な書き方は上の図を参照ください。簡単にポイントを説明します。

「頭痛の程度」欄

午前、午後、夜に分けて、頭痛の程度を3段階で記載します。自分の感じたつらさを記録しておくのです。

この欄には服用した薬と効果を記録します。バファリン®1錠ならバ1、効いたなら〇印、効かないときは△で囲むなど簡単な表記でけっこうです。

1ヵ月にどれくらい頭痛薬を飲んでいるか、どの薬が効いているか、いろいろな情報を得ることができます。薬剤の使用過多による頭痛を防ぐ意味でもたいせつな情報です。

「MEMO」欄

頭痛学会のダイアリーでは、痛みの種類を、脈打つ痛み=◯脈、重い痛み=◯重、吐き気=◯は、嘔吐=◯吐のように記入することを勧めています。

また、外出などその日の行動や睡眠時間、天候なども書き入れましょう。「仕事が忙しかった」、「訪問先のクーラーがきつくて肩がこった」など、気になったことも書いておきます。

女性は生理と関連した「月経関連片頭痛」が起こる場合も多いので、生理期間も忘れずに記入してください。

頭痛がひどいときは、その日に記入できないこともあるでしょう。そんなときは、翌日に回復してから書けば大丈夫です。

ダイアリーを医師と共有すれば治療に生かせる

こうして日々頭痛の記録をつけていくと、「自分は仕事のピークが過ぎたころに頭痛が起こるタイプだ」、「やっぱり、寝不足も関係するようだ」など、いろいろな気づきが生まれるのです。

わかった事実に基づいてライフスタイルを変えたり、予防薬を活用したりすれば、頻発する頭痛の回数を減らすことが可能です。

また、この頭痛ダイアリーを医師と共有すれば、よりよい治療を受けることができます。医師は患者さんの頭痛について詳しいデータが得られますから、より的確な診断ができ、具体的なアドバイスもできるのです。

私のクリニックでは、1ヵ月に6日以上頭痛薬を飲んでいるかたには、頭痛ダイアリーの記入をお勧めします。月に一度ダイアリーを持参してもらい、内容を確認しながら治療の方針を決めています。

私は日ごろ、患者さんに「自分のいちばんの主治医はご自身です」とお話ししています。自分が治療の主役となり、つらい頭痛をうまくコントロールしていきましょう。

頭痛ダイアリーはそのための助けになってくれるでしょう。

画像: この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年10月号に掲載されています。

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