近年、慢性痛の痛みの発端に「慢性炎症」が関わっていることがわかってきました。慢性炎症は、免疫のバランスが崩れることによって引き起こされ、免疫と深い関係があるのが、自律神経です。そこでやっていただきたいのが、体の緊張が和らぎ柔軟性が増す、中指の「指ヨガ」です。【解説】長田夏哉(田園調布長田整形外科院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

長田夏哉(おさだ・なつや)

田園調布長田整形外科院長。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会認定スポーツ医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。日本スポーツビジョン協会理事長。1969年山梨県生まれ。日本医科大学卒業後、慶應義塾大学整形外科教室に入局。2005年に田園調布長田整形外科を開院。
 現代医学に基づいた治療の他、「中指回し」「頭皮ほぐし」などのセルフケアも指導している。著書『中指を回すとすべての痛みが消える』、監修『自己肯定感が高まる音楽CDブック』(ともにマキノ出版)など多数。

指を動かすだけで全身に効果がある

ひざの痛みに悩んでいても、「年だから」「太っているから仕方がない」と、諦めている人は多いのではないでしょうか。

そんな方にぜひやっていただきたいのが、「指ヨガ」です。

私が勧めている龍村式指ヨガは、龍村修先生が考案したヨガの手法です。手の指を刺激するだけと手軽に行えますが、その効果は全身のヨガに匹敵します。特に、体の緊張が和らぎ、柔軟性が増す効果には、目をみはるものがあります。

では、なぜ手の指を刺激すると、全身への効果が現れるのでしょうか。

東洋医学には「部分即全体」という考え方があります。これは、手や足という部分の中に、全身の臓器や器官、骨格、関節があるという考え方です。

このことから、体のどこかに不調があるとき、そこに対応する手指のエリアを刺激することで、さまざまな不調を改善できると考えられます。

逆に、手のどこかに痛みや違和感があれば、対応する臓器や器官からの〝SOS〟だととらえることも可能なのです。

痛みの根源には「慢性炎症」があった

さて、近年慢性痛のとらえ方が変わってきて、痛みの発端に「慢性炎症」が関わっていることがわかってきました。

慢性炎症とは、痛みなどのはっきりとした自覚症状はないものの、常に体の中で炎症が起こっている状態を指します。

ひざに慢性炎症があると、その影響が軟骨や滑膜に及び、やがて痛みや変形が出ます。変形性ひざ関節症も、痛みや変形が出る前に、すでに慢性炎症という形で始まっているのです。

痛みの予防と緩和に指ヨガが有効

慢性炎症は、免疫のバランスが崩れることによって引き起こされます。

免疫と深い関係があるのが、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)です。免疫バランスが崩れているときは、たいてい自律神経も乱れています。

そこでやっていただきたいのが、中指の指ヨガです。

指ヨガでは、中指は自律神経が通っている背骨に当たるので、自律神経の調整に最適なのです。自律神経が整えば、免疫のバランスの崩れも改善し、慢性炎症の予防や改善につながります。

画像: 中指は背骨に対応する部位。背骨には自律神経が通っているので、中指を刺激することで、自律神経の調整に役立つ。

中指は背骨に対応する部位。背骨には自律神経が通っているので、中指を刺激することで、自律神経の調整に役立つ。

また、痛みの感じ方には、脳内物質・セロトニンの活性も大きく関わっています。

セロトニンの働きが悪いと、脳にある痛みを抑制するシステムが働かなくなって、痛みを強く感じるようになります。

セロトニンは、リズムのある動きで活性化することがわかっています。指ヨガでは、手の指をリズミカルに刺激するので、セロトニンの活性を高める効果も期待できます。

つまり指ヨガは、痛みの予防と緩和、両方に役立つのです。

中指の指ヨガと合わせて、「ひざに対応する手のポイント」も刺激するといいでしょう。

ひざに対応するエリアは、親指のつけ根(第2関節)です。右ひざは左手、左ひざは右手になりますから、痛いひざの反対側の親指のつけ根付近を押してみて、圧痛や違和感のあるところを中心に刺激します(やり方は下項)。

効果を高めるには、行う際の呼吸も重要です。刺激を加えるときは息を吐き、力をゆるめるときは鼻から息を吸うようにします。

ひざが痛む悪循環を断ち切る

これまで述べてきた通り、体に痛みが出る前に、ひざや体の中では、すでに慢性炎症が起こっています。

痛みが出る前にそれを感じ取り、対処するのが最善の方法で、本来、人間にはそれを感じ取る能力が備わっています。

しかし、社会生活が優先されて、頭でっかちになっている現代人は、脳が体と乖離して、体からの声を聞けなくなっています。それが、さまざまな痛みや不調の原因になっているのです。

その「脳と体の乖離」を改善してくれるのが、指ヨガです。

指ヨガを行う際は、自分の体の変化を見つめながら行ってください。そのことにより、脳と体の乖離が改善してくれば、体に起こっている変化にいち早く脳が気づき、自律神経や免疫系を自然に調整して、本来の健康な状態に戻してくれます。

最近は、長引くコロナ禍で、自律神経が乱れやすくなっています。診療で自律神経の働きを調べたところ、比較的多いのが、リラックス時に働く副交感神経が優位になっており、活動時に働く交感神経との切り替えがうまくできなくなっているケースです。

また、外出する機会が減って、日光を浴びることが減り、体を動かす習慣も変わったことで、心を落ち着けるセロトニンの分泌が低下し、ネガティブな感情に支配されやすくなっているケースも多いと感じています。

セロトニンの分泌が低下すると、脳にある痛みを抑えるシステムの働きが低下して、痛みをより強く感じることにもつながります。この悪循環を防ぐために、まずは指ヨガで自律神経系を整えてください。

指ヨガを行う前に、まずは体の状態をチェック

画像1: 指ヨガを行う前に、まずは体の状態をチェック

座ったまま首を左右にねじり、どのくらい後ろが見えるか(壁のどこまで見えたか)をチェック

画像2: 指ヨガを行う前に、まずは体の状態をチェック

座ったまま頭を前後に倒し、どのくらい倒れるかをチェック

画像3: 指ヨガを行う前に、まずは体の状態をチェック

首すじのこり感をチェック

※指ヨガを行った後に、再度同じチェックを行う。首の柔軟性が高まっているのが実感できるはず。

画像4: 指ヨガを行う前に、まずは体の状態をチェック

チェックが終わったら、両手をブラブラ振り、肩と腕の力を抜いて、指ヨガを始めましょう!

指ヨガのやり方

自律神経と関係する「中指」を、リズミカルに刺激していきます。どちらの手に行っても同じ効果があります。片手だけでも両手に行ってもOKです。まずは、利き手で反対側の手を刺激をしてみましょう(ここでは左手への指ヨガの場合で説明します)。1日1セット行いますが、それ以上行っても構いません。

左手の手のひらをおなかに当てる。

画像1: 指ヨガのやり方

手はおなかに当てたまま、中指の爪の両わきを、右手の親指と人さし指でつまむ。口から息を吐きながら、手前に10回ひねる。その後、同様に奥に10回ひねる。

第1関節と第2関節の間、第2関節と第3関節の間も同様にひねる。
※フーッと息を吐きながらひねる。数を数えながら行ってもよい。

画像2: 指ヨガのやり方
画像3: 指ヨガのやり方

手はおなかに当てたまま、中指の先端を右手の親指と人さし指でつまんで立てる。円を描くように大きく10回回す。その際、口から息をフーッと吐きながら、できるだけゆっくり10回転させる。反対回しも同様に行う。

画像4: 指ヨガのやり方

左手を太ももの上にのせ、息を吐きながら、中指を、右手で中指の指先から根元まで、優しくさすると。10往復くり返す。

画像5: 指ヨガのやり方

左手の中指を、右手で根元から握り、ギュッと圧をかける。息を吐きながら、指先側へ引っ張ってスポーンと引き抜く。3回くり返す。

画像6: 指ヨガのやり方
画像7: 指ヨガのやり方

左手のひじを曲げ、中指を右手で手のひら側から握り込み、鼻から息を吸う。息を吐きながら、左ひじを前方に伸ばし、中指を気持ちがいい程度に反らせる。息を吐き切ったら、息を吸いながら初めに戻り、3回くり返す。

画像8: 指ヨガのやり方
画像9: 指ヨガのやり方

ひざに対応するポイントも刺激すると、より効果的

●ポイント
親指のつけ根(右手は左ひざ、左手は右ひざに対応する)。

画像1: ひざに対応するポイントも刺激すると、より効果的

ポイントを反対の手の親指と人さし指でしっかりつまみ、息を吐きながら、ギュッギュッと10回押す。押す位置を少しずつずらしながら、より痛く感じるところを押すとよい。

画像2: ひざに対応するポイントも刺激すると、より効果的
画像: この記事は『安心』2022年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年9月号に掲載されています。

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