解説者のプロフィール

高林孝光(たかばやし・たかみつ)
アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。1978年、東京都生まれ。東京柔道整復専門学校、中央医療学園専門学校卒業。2016年、車いすソフトボール日本代表チーフトレーナー。上肢のケガが最も多い球技スポーツであるバレーボールの同一大会で、異なるチームに帯同して全国2連覇した、日本初のスポーツトレーナー。
あまり知られていないもう1つの「ひざ関節」
ひざ痛を訴えて私のところに来る患者さんのほとんどは、整形外科で「変形性ひざ関節症」と診断されています。
変形性ひざ関節症とは、ひざ関節の軟骨がすり減ることによって、痛みや腫れが起こる病気のことです。ひざ痛の原因の9割が、変形性ひざ関節症といわれています。
さて、ひざ関節について1つお話ししたいトピックがあります。一般的に、「ひざ関節」とは、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の末端が結合する部分を指します。
実は、ひざには他にも関節があります。それは、大腿骨とひざのお皿をつなぐ「膝蓋大腿関節」です。
この膝蓋大腿関節が、ひざ痛を解消するカギになります。まずは、「膝蓋大腿関節」のつくりから簡単に解説しましょう。

ひざのお皿の上部は、大腿四頭筋の腱、そして下部は、膝蓋靭帯を通して脛骨とつながっています。
ひざのお皿は、中間地点で滑車のような働きをして、大腿四頭筋の動きを脛骨に伝えています。こうしたつくりが、ひざを円滑に動かしているのです。
私は、このひざの構造に着目して、画期的なひざ痛のセルフケアを考案しました。それが「ひざのお皿浮かし」です。
その成果は、予想をはるかに上回るものがありました。ひざのお皿浮かしを指導した患者さんたちが、次々とひざ痛から解放されていったのです。
骨への圧迫を取れば痛みは引いていく
セルフケアの効果を解説する前に、ひざのお皿に注目するようになったきっかけをお話ししましょう。
あるとき私は、治療院に来るひざ痛持ちの患者さんたちの共通点に気づきました。ひざ痛の治療であおむけになってもらうと、ほぼ全員の痛い方のひざの裏が、ベッドから浮いているのです。
なぜこのようになっているかを考えた結果、「痛くてひざが伸び切らないので、ひざの裏が浮いている」という答えにたどり着きました。
ひざの裏がベッドにつけられない状態だと、ひざの表側の腱や筋肉が引き伸ばされます。この状態では、ひざのお皿を支点として、2つの力が発生します。

1つめの力は、大腿四頭筋にかかる、足のつけ根方向への力(上図のA)です。2つめが、膝蓋靭帯にかかる足首方向への力(上図のB)です。
少々難しい話ですが、2つの力が一点に加わったときに、力の合成が起こり、3つめの力が生まれます。この別の力を「合力」といいます。
これを、ひざ痛によって伸ばし切れていないひざに当てはめてみましょう。
AとBの2つの力が加わり、合力Cが発生。合力Cによって、ひざのお皿が大腿骨を圧迫します。これが、膝蓋大腿関節の炎症とひざ痛を引き起こします。また、大腿骨はひざ関節の構成にも関わっている骨なので、ひざ関節にも悪影響を及ぼすと考えられます。
要は、ひざの痛みを解消するには、この大腿骨の圧迫を取り除くことが大切なのです。それが、ひざ痛の解消には最も効果が高く、結果的には近道になるはずです。
こうした考えから誕生したのが、「ひざのお皿浮かし」です。ひざのお皿をつまんで軽く浮かせて、40秒間、揺らすだけの簡単なセルフケアです。
文字通り、ひざのお皿を浮かせて動かすことで、大腿骨の圧迫が解消されて、膝蓋大腿関節とひざ関節にかかる負担を減らすことができます。すると当然、ひざの痛みや腫れも改善していきます。
今回は、ひざのお皿浮かしとあわせて行うことで、より効果的な「骨盤起こし」のやり方も紹介しているので、ご活用いただきたいと思います。
ひざのお皿浮かしのやり方
※1日に1~2度行いましょう。

❶床に座って、両足を前に伸ばす。片方の足のひざのお皿の左右を、両手の親指と人さし指で挟む。

❷ひざのお皿を軽く持ち上げて、浮かせる。左右交互に10秒間揺らしたら、上下も交互に10秒間揺らす。
※①の姿勢にならないと、ひざのお皿を持ち上げる感覚がわかりにくい。いすに座りながらなど、①と異なる姿勢は避ける。

❸片方のひざのお皿の左下と右上を、両手の親指と人さし指で写真のように挟む。斜め方向に10秒間揺らす。

挟む位置を替えて、逆の斜め方向にも10秒間揺らす。②~③を反対の足でも同様に行う。
骨盤起こしのやり方
※ひざのお皿を浮かせる効果がある体操です。時間があるときは、ひざのお皿浮かしに追加して、骨盤起こしも1日に1~2度行いましょう。

❶足を肩幅に開き、いすに浅く腰かける。かかとは床につける。

❷上体を前に倒して、おなかと太ももをくっつける。両手を太ももの裏で交差させてロックする。くっつかない人は、できる範囲で構わない。

❸いすからお尻を浮かせて、太ももの裏側を伸ばして10秒キープする。

この記事は『安心』2022年9月号に掲載されています。
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