解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。内科医、東洋医学会漢方専門医。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。2006年みらいクリニック開院。息育、口呼吸問題の第一人者として、全国を講演で回る日々。あいうべ体操、ゆびのば体操の考案者でもある。『自律神経を整えて病気を治す!口の体操「あいうべ」』『1日4分でやせる!ゆるHIIT』(共にマキノ出版)など、著書多数。
熟睡感がないのは「口呼吸」のせいかも?
イビキや無呼吸、夜間頻尿、口の渇きなどの睡眠時のトラブル。その原因は、もしかしたら寝ている間の「口呼吸」にあるのかもしれません。
口をポカンと開けたまま、あおむけに寝ると、舌や下あごが下がって、空気の通り道である気道が狭くなります。イビキや睡眠時無呼吸症候群(閉塞性)は、この気道の狭まりが原因で起こります。
「年を取ってイビキをかくようになった」という人は、加齢により舌や口周りの筋力が低下し、口を閉じづらくなっていると考えられます。
気道の狭まりで呼吸が妨げられると、眠りも浅くなります。すると、夜中の目覚めやトイレの回数が増加し、日中は眠気が出て、集中力が低下します。そんな状態が長い間続くと、血圧は上がり、循環器・呼吸器系の病気のリスクも高まります。
それだけではありません。認知症の危険性も上がる可能性があります。
認知症には、脳内の老廃物・βアミロイドが関わっています。βアミロイドなどの脳の老廃物は、睡眠時に排泄されます。睡眠が浅いと、この排泄が滞るのです。
口呼吸では口も乾燥します。すると口内環境が酸性になりやすく、虫歯や歯肉炎、口内炎なども起こりやすくなります。

睡眠時の正常な舌の位置
舌の位置が保たれ、気道が確保されている

口呼吸で寝ると…
舌がのど方向に落ち込みやすく、気道が狭くなり、イビキをかきやすい
日中は鼻呼吸ができているのに、睡眠時だけ口呼吸になる人もいます。これは、意識のない睡眠時は口周辺の筋肉がゆるんで、口が開きやすくなっているからです。
飲酒や睡眠薬の服用でも、口周辺の筋肉はゆるみがち。「十分に寝ているはずなのに、熟睡感がない」という人は、寝ている間に口呼吸になっているのかもしれません。
口周りの筋肉を鍛えて口呼吸を改善
睡眠時の口呼吸の改善にとても効果的なのが、「あいうべ体操」と「口テープ」です。
イビキや睡眠時無呼吸症候群に対して、舌や口周りの筋力トレーニングが有効という研究は、世界中で数多く報告されています。
トレーニングの内容は、食事の際によくかむ、歌う習慣、口を「い」と「う」の形に動かす体操など、さまざまです。
あいうべ体操も、舌と口周りの筋肉を鍛えるため、イビキや睡眠時無呼吸症候群などの改善が期待できます。
あいうべ体操は朝昼晩の1日3度、10回ずつ行います。3週間続ければ、睡眠時の舌の位置が上がり、気道が塞がれにくくなるはずです。
特に、夜はぜひ寝る直前に行ってください。口に意識が向いて、口呼吸を防ぎやすくなります。
あいうべ体操のやり方
ポイント
・声を出して行う。
・大げさなくらい、口を大きく動かす。
・1回を4秒前後かけてゆっくり行う。
・できれば朝昼晩の1日3度、10回ずつ行う。
・特に、寝る前に行うと、寝ている間の口呼吸を防ぐ効果が高くなる。
・口を大きく開けるとあごが痛む人は、「いー」「うー」だけを行う。

❶「あー」と、口を大きく開く。

❷「いー」と、口を大きく横に広げる。

❸「うー」と、口を前に突き出す。

❹「べー」と、舌を突き出して 下に伸ばす。
※①~④を1回として、1日30回を目安に行う。
口テープのやり方
より早急に効果を得たい場合は、あいうべ体操に加え、就寝時の口テープをお勧めします。
くちびると舌の筋肉は連動しています。くちびるが閉じていると、舌はくちびるの方へ移動し、くちびるが開いていると気道へ落ち込みます。
口テープでくちびるを閉じて寝れば、舌の位置が上がります。気道が狭まらないため、イビキや無呼吸はすぐに改善します。
用意するもの
薬局などで売られている医療用テープ。(サージカルテープやばんそうこう)
幅は12mm前後がお勧め。

注意点
・はるのが怖い人は、無理せずに、起きているときにはって過ごして、問題ないか試してみる。
・5歳未満のお子さんには、口テープをはってはいけない。
・肌が荒れやすい人は、はる位置を日々変えるとよい。

やり方
テープを5cmほどに切る。くちびるの中央に縦にはり、そのまま眠る。

縦1本だと空気が横から漏れる人は、くちびるの中央を開けて、左右に2本はる。

くちびるの上に×印を描くようにはる。明らかに口が開いている人に。
無呼吸の回数が半分以下に減った
私は以前、睡眠時無呼吸症候群の患者さん10名の協力を得て、口テープの効果を確認しました。このときは、平均約30回だった無呼吸の回数が、口テープをはった1晩で約12回に減っています。
患者さんの中には、口テープとあいうべ体操を続けて、半年でCPAP(睡眠時無呼吸症候群の治療器具)が不要になった方もいます。
また、「夜間頻尿が減った」「安眠できるようになった」という方も多くみられます。実際の症例をご紹介しましょう。
●Aさん(72歳・女性)
Aさんは、20年来の後鼻漏(鼻汁がのどの方へ流れ落ちる症状)で、夜間は鼻がつまって眠りが浅くなっていました。1晩に2~3回は目が覚めてトイレへ行き、日中は眠気がひどくて、何もする気になれなかったそうです。
口テープとあいうべ体操を続けたところ、すぐに眠りが改善。夜間頻尿は1ヵ月で消えました。熟睡できるため、意欲も湧くようになったそうです。1ヵ月半後には、鼻づまりや鼻水などの症状も改善しました。
鼻腔にポリープなどのない、アレルギー性鼻炎などによる鼻づまりであれば、口テープとあいうべ体操を続けて、日中に鼻呼吸を心がけることで、7割近くは改善します。夜間の鼻づまりで睡眠が妨げられている人は、ぜひお試しください。
●Bさん(女性・48歳)
1週間前に来院されたBさんは、睡眠薬を服用しても30分~1時間は眠れず、また、夜中に何度も目が覚めていました。睡眠中に体がこわばるせいか、腰痛や肩こりが強く、体のだるさやのどの痛み、セキ、めまいなどの不調もありました。
Bさんは口テープをはって寝た晩から、床に着いて30分もたたずに眠れるようになったそうです。今は夜中の目覚めがほぼなくなり、めまいや体のこわばり、セキも軽減しました。Bさんはあいうべ体操も続けています。

熟睡できて、日中の意欲がアップ!
コロナ禍の今は、口呼吸になる人が増えているようです。その理由は、マスク着用時の息苦しさだけでなく、対話の機会の減少や食事の簡素化、運動不足などによって口周りの筋力が低下しているためでしょう。
「最近、気持ちよく眠れていないな……」と感じたら、まずはあいうべ体操と口テープを、ぜひ試してみてください。

この記事は『安心』2022年9月号に掲載されています。
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