北京市にある日中友好病院に勤務していたときです。睡眠障害に陥り、友人である東洋医学教授のT先生に相談し、「舌診」を受けました。そのとき、未病を治すための養生法として教えてくれたのが、気功と太極拳、そして私の体質に合った、不眠を改善する食事です。【解説】酒谷薫(医療法人社団醫光会理事長)

解説者のプロフィール

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酒谷薫(さかたに・かおる)

医療法人社団醫光会理事長。医学博士、工学博士、東京大学大学院新領域創成科学研究科共同研究員(前特任教授)、日本中医薬学会理事長。81年、大阪医科大学医学部医学科卒業。87年、同大学院医学研究科修了(医学博士)。脳神経医学の第一人者として活躍する一方、北京日中友好病院への赴任中に東洋医学と出合って以降、専門の脳神経外科とともに東洋医学の研究も行う。最新刊『自分でできる! 熟睡脳のコツ』(ビジネス社)が発売中。

朝4時に目が覚めてその後は眠れない

人間を含め、自然界にある全てのものが「気」というエネルギーによって生まれ、動かされ、そして密接に関係し合っている……。このような自然哲学に基づく東洋医学(中医学)に出合ったのは、40代の頃でした。

私は脳神経外科が専門で、30代はアメリカのニューヨーク大学医学部の脳神経外科やイェール大学医学部の神経内科で西洋医学を研究してきました。

転機が訪れたのは、1995~2000年に、国際協力事業団(JICA、現・国際協力機構)から派遣され、中国北京市にある日中友好病院に勤務していたときです。脳神経外科の指導医として働いていたところ、睡眠障害に陥りました。

まだ薄暗い午前4時くらいにバチッと目が覚め、眠ろうとしても眠れません。当時は、これがストレスによる睡眠障害だとは気づいていませんでした。

そんな生活を続けるうちに、ニキビができました。朝、ひげをそると、ニキビに刃が当たって出血しました。続いて、頭痛とめまい、肩こりに悩まされるようになりました。これらの症状は、典型的な筋緊張性頭痛で、原因はストレスです。

さらに、物忘れが増えました。鍵や財布を、どこに置いたのかがわかりません。夜中には、みぞおちが締め付けられるように痛むようになりました。

勤務していた病院で検査を受けましたが、異常は見つからず、ストレスによる不眠症と胃けいれんと診断されました。

気功や食事で不眠症から抜け出せた

このときに、友人である東洋医学教授のT先生に相談しようと思いました。北京に来てから東洋医学を教わる機会があり、興味を持つようになっていたからです。また、T先生は日本にも留学したことがあるので、日本語がとても流ちょうでした。

私はT先生にこれまでの経過や症状を説明し、その後、「舌診」を受けました。東洋医学では、舌は体質や体調を映し出すバロメーターのようなものだと考えられています。健康な人の舌はピンク色で、白く薄い舌苔があります。

ところが、私の舌は全体的に暗い紫色でした。さらに、舌苔は黄色っぽく、厚くベッタリとついていました。舌診を終えて、T先生は私の体を次のように診断しました。

「黒い紫色の舌は、『瘀血(おけつ:「気・血・水」の血が滞ること)』を示しています。また、黄色っぽく厚い舌苔があるので、体に熱がこもっています。これは、ストレスによる『肝鬱化火(かんうつかか)』が進行し、さらに胃腸障害が出てきた『痰熱擾心(たんねつじょうしん)』の状態ですね。

あなたの不眠症や腹痛などのストレスによる症状は、『未病』の大切なサインです。未病とは、病気になる前段階のことですから、早めに治しましょう」

不眠のタイプには、肝鬱化火と痰熱擾心、そして気血不足(きけつぶそく)と陰虚火旺(いんきょかおう)の4つがあります。

私はT先生の診断を受けて、「医者の不養生」だったことに気づかされました。その結果が、不眠症だったのです。そしてT先生は、未病を治すための養生法も教えてくれました。

それが、気功太極拳です。「気功や太極拳はちょっとした時間を使ってできるので、忙しい酒谷先生にもできると思いますよ。朝早く目が覚めてしまうのであれば、公園に行って太極拳をしませんか?」と、T先生が勧めてくれました。

画像: 酒谷医師も生活に取り入れて気持ちが穏やかになったという

酒谷医師も生活に取り入れて気持ちが穏やかになったという

テレビのニュース番組などで見たことがある人も多いと思いますが、北京の公園では、早朝に近所の人が集まって太極拳を行っています。

太極拳については、もともとは伝統的な中国武術なのですが、健康体操としても広く親しまれていて、気功の一種といえます。

気功を日常生活に取り入れたことで、慌ただしく落ち着かない気持ちが次第に穏やかになっていきました。

また、T先生は私の体質に合った、不眠を改善する食事も教えてくれました。

「酒谷先生は肉が好きだそうですが、もっと野菜をとってください。特に、苦味のある野菜などには、熱を取る作用があります。例えばセロリ、セリ、ミント、ニガウリなどがよいでしょう。また、緑茶も飲んでみてください」

このようにT先生から教わった養生法を実践したところ、なんとか不眠症から抜け出すことができました。

厚生労働省のデータでは、日本人の5人に1人が不眠症で苦しんでいます。ですから、私の経験を参考に、養生法を試していただければと心から思っています。

画像: この記事は『安心』2022年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年9月号に掲載されています。

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