現在では、腎臓病の運動療法に関する研究が進展し、腎臓病の初期のかたから重症化し透析を受けているかたまで、広く運動が推奨されるようになっています。腎臓リハビリの考えに基づき運動を行うことで、身体機能の維持のほかに、腎臓病を悪化させる大きな要因である高血圧、糖尿病の改善も期待できます。ただし、事前に主治医に相談してから始めるようにしてください。【解説】森維久郎(赤羽もり内科・腎臓内科院長)

解説者のプロフィール

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森維久郎(もり・いくろう)

腎臓内科医。三重大学医学部医学科卒業。東京医療センター研修医、千葉東病院腎臓内科・糖尿病内科、東京北医療センター総合内科/腎臓内科、ふくだ内科を経て、2020年5月に「赤羽もり内科・腎臓内科」を開院。人工透析予防や生活習慣病の予防を目指し、診療を行う。WEBサイト「腎臓内科.com」にて、腎臓病の情報を積極的に発信中。

筋量、筋力の低下を防ぎ腎臓の負担も減らせる!

かつては、腎臓病のかたは「安静第一」とされ、運動には制限がかけられていました。しかし現在では、腎臓病の運動療法に関する研究が進展し、腎臓病の初期のかたはもちろん、重症化し透析を受けているかたにまで、広く運動が推奨されるようになっています。

腎臓病のかたには高齢者も多く、もともと加齢によって身体機能が低下していることも少なくありません。また、腎臓病になると、健常な体のかたと比べて、身体機能が3割減少するとされています。これらの要因が組み合わさって、筋量・筋力の低下が起こると、フレイル(心身が虚弱した状態)や、寝たきりになるリスクが増し、腎臓病のさらなる悪化にもつながります。

そのため、私は多くの腎臓病の患者さんに、運動療法を中心にしたプログラム「腎臓リハビリテーション(腎臓リハビリ)」をお勧めしています。

腎臓リハビリの考えに基づき運動を行うことで、身体機能の維持のほかに、腎臓病を悪化させる大きな要因である高血圧、糖尿病の改善も期待できます。また、体の毒素を排出し、腎臓の負担を減らすなど多くのメリットがあります。実際に、運動により腎機能の指標であるeGFRが改善したという研究結果もあります。

私がお勧めしている運動には、3つのタイプあります。
有酸素運動
ストレッチ
軽い筋トレ
やり方や注意点は、下項をご参照ください。

有酸素運動は、軽~中程度の負荷で行うため長時間続けられるのが特長です。代表的な種類はウォーキングやジョギング、水泳などです。

私は特にウォーキングをお勧めしています。1度につき、20分~60分、週に3~5回のペースで続けるのが目安。少しずつ歩数を増やしてください。毎月1000歩ずつ増やしていき、1日8000歩を一つの目標にしましょう。

ストレッチは、筋トレのウォーミングアップと考えてください。体に負荷をかけたときにケガをしないために、ストレッチを行います。ストレッチと筋トレは、週に2~3回行いましょう。ストレッチは、背伸びひざ裏伸ばしなど一般的な内容でOK。

筋トレは、筋力があるかたなら、スクワット片足立ちなどが勧められます。筋力が落ちてきているかたには、壁を使った腕立て伏せがお勧めです。

これらは時間をつくって取り組むというより、例えば「歯を磨きながらひざ裏を伸ばす」など、生活動作に組み込むと、継続しやすくなります

腎臓リハビリは、腎臓病の初期の患者さんはもちろん、透析中のかたにも効果的です。これは一例ですが、透析中にマシンを使って自転車をこぐ運動をすると、4時間の透析中、リンという不要物の除去が5時間分できたという報告もあります。

また、透析を長期間続けていると、寝たきりになるなど身体機能が著しく落ちてしまうかたも少なくありません。腎臓リハビリによって、このような身体機能の低下も防げるのです。

運動を始めて3ヵ月で尿たんぱくが半減した

実際、これらの運動を行うことで、腎機能が改善した例をご紹介しましょう。

74歳の男性は、受診時、尿たんぱくが0.7g/gCr(基準値は、0.15未満。0.5以上は高度たんぱく尿に入る)でした。腎機能値を示すeGFRは、40ml/分/1.73㎡で、ステージG3bに至っていました。

一般に尿たんぱくの数値は、eGFRよりも先に異常値を示します。つまり尿たんぱくは、腎臓のSOSなのです。この男性は、尿たんぱくの数値から、eGFRが今後さらに悪化することが予想されました。

そこですぐに、散歩などの有酸素運動を中心に、運動療法に取り組んでいただきました。すると、3ヵ月ほどで、尿たんぱくの数値を以前の半分以下、0.3g/gCrまで下げることができました。尿たんぱくが減るということは、腎臓への負担も減っているということ。eGFRの悪化も防げますから、大きな成果です。

このように、腎臓病のかたは、そのステージを問わず、運動によって身体機能の維持や腎機能の改善など、さまざまな効果を得られるのです。

ただし、重度の心不全や不整脈のあるかたの場合、運動は勧められません。また、腎臓リハビリは、併発している疾患がなくとも、事前に主治医に相談してから始めるようにしてください

高血圧のかたでも、最大血圧が160mmHg(基準値は最大血圧が140mmHg未満)くらいまでであれば、ウォーキングなどの有酸素運動を行っても大丈夫でしょう。有酸素運動によって、血圧を下げる効果も期待できます。

ただし170mmHg以上になったら、まず投薬や食事療法などで、血圧をしっかり下げてから、運動を始めましょう。

体調が優れない日は、無理をしないようにしましょう。夏場は、適切な水分補給を心がけ、脱水を避けることも重要です。

腎機能を維持・改善する運動療法

1. 有酸素運動

ウォーキングや軽いジョギング、水泳など。お勧めはウォーキング。

画像: 1. 有酸素運動

※ちょっと息が上がるくらいの速さで歩く。
※週3~5回程度、1度に20~60分が目安。ただし、熱中症に注意し、酷暑の日は行わない。
※買い物に行くときに少し遠回りして歩くなど、日常生活に組み込むのがお勧め

2. ストレッチ

内容は、背伸びやひざ裏伸ばしなど、一般的で自分のやりやすいものでOK。

画像: 2. ストレッチ

※イスに座って足の筋肉を伸ばす、バンザイで肩や背中、腕の筋肉を伸ばすなど。

3. 軽い筋トレ

2のストレッチのあとに行う。内容はスクワットなど、一般的でやりやすいものでよい。

●イスを使ったスクワット

画像1: 3. 軽い筋トレ

両足を肩幅に開いて立ち、両手でイスの背につかまる。
背中をできるだけまっすぐにしたまま、ゆっくり腰を下ろす。
①の体勢にゆっくり戻る。
※週2~3回の頻度で、1セット15回程度行う。

●壁を使った腕立て伏せ

画像2: 3. 軽い筋トレ

両足を肩幅に開いて立ち、壁に両手をつく。
腕を曲げて体を前に倒す。
腕を伸ばし、①の体勢に戻る。

画像: この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。

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