解説者のプロフィール

浅野健一郎(あさの・けんいちろう)
倉敷中央病院腎臓内科主任部長・人工透析センターセンター長。公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院腎臓内科主任部長。日本内科学会認定内科医、日本腎臓学会腎臓専門医・腎臓指導医、日本透析医学会透析専門医・透析指導医。日本高血圧学会、日本病態栄養学会、米国腎臓学会、日本腎臓リハビリテーション学会会員。
まずは塩分制限!無理なく減らすコツ
私たちの体は、食べた物から栄養を吸収し、不要な物を排泄しています。吸収されなかった不要物は大腸を通って便として排泄されます。一方、吸収された物から老廃物をろ過し、尿として排泄するのが腎臓の役割です。そのため、食事の内容によって、腎臓への負担の量は大きく変わるのです。
ここでは、ふだん私が栄養士さんとともに患者さんに指導している、腎臓にやさしい食事のポイントをお話ししましょう。
塩分
腎臓のためになによりも重要なのは、塩分(ナトリウム)をとり過ぎないことです。
体の排泄能力を超えて塩分をとると、余分な塩分をろ過し、尿として排出しようとして、腎臓が過度に働いてしまいます。
また、塩分のとり過ぎは、高血圧の原因になります。それにより、腎臓や心臓を傷めたり、動脈硬化を引き起こしたりもするのです。
腎臓病のステージG1、G2のかたや、高血圧を指摘されているかた、また現在、腎臓病ではなくても、腎機能の低下を防ぎたいというかたは、まずは1日の摂取量10g未満を目安にするとよいでしょう。
少し緩い制限と思われるかもしれませんが、急にひと桁台を目指すのは現実的ではありません。10gが達成できたら、そこからさらに少しずつ減らしていくとよいでしょう。
ステージG3以降のかたは、少し厳しく、1日6g未満を目指しましょう。1日6g未満まで塩分を減らすのは、決して簡単ではありません。食習慣を見直しながら、8g、7gと、段階的に減らす努力をしましょう。
例えば、塩分の染み込みやすい煮物よりも、和え物や炒め物のほうが、塩分は減らせます。煮物をよく作るかたは、煮物の回数を減らし、炒め物に変えてはいかがでしょうか。
また、あとから調味料をかける料理(刺し身や天ぷらなど)も、塩分を調節しやすいでしょう。お寿司や炊き込みご飯を食べる機会が多い人は、頻度を減らすだけでも塩分対策になります。
汁物は具だくさんにして、塩分の溶け込んだ汁は少なめにしましょう。薄味で何杯も飲むより、おいしいと感じる味つけで汁の量を少なめにし、1日1杯程度にするのがお勧めです。
水分
水分は、塩分と密接に関係しています。塩分をとって血中ナトリウム濃度が高くなると、体はそれを薄めようと水を欲します。例えば、すき焼きを食べたあとは、のどが渇いて水をゴクゴク飲みたくなりますよね。
通常、水だけをゴクゴク飲んだときは、すぐにトイレに行きたくなり、尿として排泄されます。ところが、塩分を薄めるために飲んだ水は、すぐには排泄されません。そして体にたまったこの塩水が、むくみや高血圧の原因になるのです。
つまり、水分量よりも、まずは塩分を控えることが第一。そのうえで、腎臓病のかたに推奨される1日の水分量の目安は、下記のとおりです。ただし、体格やその日の体調によっても違いがあるので、自分の体の状態に合わせて調節してください。
1日の水分摂取量の目安
夏…2000ml 冬…1000ml 春・秋…1500ml
真夏以外は無理してたくさん飲む必要はありません。逆に5〜9月の暑い時期は、脱水予防のため意識して水分をとるべきです。特に高齢者はのどの渇きを感じにくくなるので、ご自身でも意識して飲みましょう。
ただし腎機能低下でむくみが強いかたや、心不全のかたは、厳重な飲水制限が必要です。
カリウム制限による野菜・果物不足も問題
カリウム
カリウムも本来、体に必要な物ですが、腎機能の低下によりカリウムの排出ができず、血中濃度が高くなると、心臓で不整脈が起こります。そのため、これまでは腎機能が低下している人には、カリウム制限が指導されることが一般的でした。
しかし、カリウムは野菜や果物に多く含まれるため、あまり制限し過ぎると、今度は体に必要なビタミン、ミネラル、食物繊維まで不足してしまいます。
野菜不足から便秘になると、不要な物がさらに体にたまります。また、カリウムにはナトリウムの排出を促し、血圧を下げる作用もあります。
そのため、私は慢性腎臓病のステージG1、G2のかたであれば、基本的にはカリウム制限は必要ないと考えています。
ただし、ステージG3以降のかたは、ある程度厳格なカリウム制限が必要です。
特に気をつけていただきたいのは、バナナやナッツ類、青汁など、皆さんが体にいいと思って毎日のようにとっている物です。インスタントコーヒーやサツマイモにも、カリウムが多く含まれています。
カリウムの過剰摂取を防ぐには、食事から野菜を減らすのではなく、まずはこうした嗜好品を、毎日習慣的にとることを控えるほうがよいでしょう。
また、ステージにかかわらず注意が必要なのは、心臓や腎臓を保護する薬を服用しているかたです。これらの薬には血中カリウム濃度を上げる作用がある場合が多いので、医師に確認し、食事でのカリウムのとり過ぎに気をつけましょう。
たんぱく質
これまで、たんぱく質のとり過ぎは腎臓によくないとして、腎機能が低下した人に、たんぱく制限が行われてきました。
けれども、最近は透析となる人の平均年齢が高くなっており、たんぱく制限による筋力の低下が懸念されています。そのため、近年ではステージを問わず、今までより多めのたんぱく質摂取が推奨されています。
要は「制限」というより、「過剰摂取を防ぐ」という意識がたいせつなのです。
具体的に推奨される1日のたんぱく質摂取量は、標準体重1kg当たり1〜1.2gです。標準体重が60kgのかたなら、約60~72g。それを3食に分けて摂取します。これを基準に、自分の体重に合わせて、増減してください。
下に、おおまかな目安として70gのたんぱく質の量がわかる写真を掲載します。厳密にはパンや米飯にも少量のたんぱく質が含まれますが、たんぱく質が主体となる食品の1日量の目安にしてください。
たんぱく質70gの目安

これらの合計が、たんぱく質70gに当たる。
ちなみに、腎臓病になると、たんぱく質食品に多く含まれるリンの制限が必須だと考えているかたもいらっしゃいます。しかし、リンの制限が必要なのは、ステージG3以降で、特に透析を行っているかたです。
ただ、透析を行っていても必要以上にリンを制限して、たんぱく質が足りなくなることのほうが問題だと私は思います。
カルシウム
骨粗鬆症の治療薬としてビタミンDを飲んでいるかたは、カルシウムをとり過ぎると、高カルシウム血症になり、腎機能が低下することがあります。
薬に加えて、乳製品や小魚などを毎日とっている、となると、カルシウムのとり過ぎになるおそれがあります。
薬を飲んでいるかたは、かかりつけの病院の医師や栄養士に相談することをお勧めします。
自分の体に必要なカロリーを把握しよう
最後に、摂取カロリー(エネルギー)についてです。食事療法というとカロリーを抑えることが重視されがちですが、必ずしもそうとは限りません。
カロリー不足になると、体はその組織を燃焼させ、エネルギーを作り出そうとします。その際、発生する老廃物が、腎臓に負担をかけてしまいます。
また、検査で尿素窒素(体内でたんぱく質が利用されたあとにできる老廃物)やリンの値が高く、たんぱく質制限が必要なかたの場合は、摂取カロリーを増やす必要があります。自分に合った摂取カロリーは、ご自身の病状をよく知る医師や栄養士に相談するとよいでしょう。
食事療法は、一度にパーフェクトにできることではありません。習い事といっしょで、専門家の指導を受けながら、地道に根気よく身につけていくものです。医師や栄養士はもちろん、家族や身近な人の意見も聞きながら、取り組んでください。

この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。
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