慢性腎臓病のうち、透析導入に至る患者数の多い代表的な疾患には、糖尿病性腎症・腎硬化症・慢性糸球体腎炎の3つが挙げられます。治療の基本は、これらの原因疾患の治療ですが、ふだんの生活ではどんな点に気を配ればよいでしょうか。まずは、一にも二にも、血圧管理が重要です。【解説】八田告(八田内科医院院長)

解説者のプロフィール

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八田告(はった・つぐる)

1992年、島根大学医学部卒業。近江八幡市民病院内科、京都府立医科大学腎臓高血圧内科などを経て、近江八幡市立総合医療センターの腎臓センターと京都府立医科大学薬理学教室に兼務。2013年、腎臓センター顧問を務めつつ八田内科医院を開院。21年、京都府立医科大学臨床教授。日本透析学会認定医・指導医。日本腎臓学会専門医・指導医。日本循環器学会専門医ほか。医学博士。

透析の原因疾患の40%が糖尿病による合併症

慢性腎臓病には、いろいろな病気が含まれています。このうち重症化し、透析導入に至る患者数の多い代表的な疾患には次の3つが挙げられます。

糖尿病性腎症

糖尿病の合併症の1つ。高血糖によって糸球体が障害され、腎機能が低下する病気です。日本透析医学会の2020年の調査では、人工透析を受けている患者さんの原因疾患の約4割を占めています。

腎硬化症

高血圧が原因で腎臓の血管に動脈硬化が起こり、糸球体が障害され、腎機能が低下する病気です。国民病ともいわれる高血圧の増加に伴い、近年患者数が増えていることが問題になっています。

慢性糸球体腎炎

免疫異常や遺伝性疾患によって、糸球体が障害され発症するさまざまな病気の総称です。なかでも患者数の多いのが、IgA腎症(糸球体にIgAというたんぱくが沈着する病気)です。

この3つのほかにも、遺伝性の多発性嚢胞腎、尿路感染症を原因とする慢性腎盂腎炎など、さまざまな疾患があります。

画像: 透析導入患者の原因疾患 出典:日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」(2020年12月31日現在)

透析導入患者の原因疾患
出典:日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」(2020年12月31日現在)

これら慢性腎臓病の治療のためには、どんなことが求められるでしょうか。

基本は、原因疾患の治療です。糖尿病性腎症や腎硬化症は、生活習慣病である糖尿病や高血圧が大もと。原因である生活習慣病の改善が前提となることはいうまでもありません。

また、IgA腎症ならば、原因となっている異常なIgAに対する治療(扁摘パルス療法)が有効とされています。

こうした原因疾患に対する治療とともに、私たちはふだんの生活でどんな点に気を配ればよいでしょうか。

塩分を控え野菜を多くとる人は長生き

血圧をコントロールする

結論からいえば、腎機能の維持のためには、一にも二にも、血圧管理が重要です。先ほど触れたように、高血圧は、腎硬化症という慢性腎臓病の原因となります。

また、すでに慢性腎臓病を発症している場合、高血圧が腎臓病を悪化させることもわかっています。高血圧によって、糸球体に圧がかかり、糸球体が障害されるからです。

また慢性腎臓病は、高血圧の原因にもなり、血圧が高めの人の血圧をより悪化させてしまいます。このように、高血圧と慢性腎臓病は、悪循環を引き起こし、互いを悪化させていく関係にあります。

残念なことに、医療の現場では、高血圧の患者さんはなかなか減らない、という状態が続いています。現在、高血圧の患者さんは日本に4300万人。成人の2人に1人は高血圧なのです。

また、高血圧の患者さんのうち、きちんと目標の血圧まで下げられているのは、わずか4分の1しかいないこともわかっています。

「血圧をコントロールする」という大きな目標のために、慢性腎臓病の患者さんは、生活全般を整えていくことが求められます。例えば、食事の塩分管理や運動についても、すべて血圧を下げるという目標実現のために行われるものといっていいのです。

できれば、週に1度でいいので、自宅でも血圧を測り、ご自分の血圧を把握することをお勧めします。

画像: 血圧管理がなによりも重要!

血圧管理がなによりも重要!

思い込みによる食事療法をやめる

よく、根拠のあいまいな情報をもとに、特定の食品を過度に控えるかたがいます。これは場合によって、弊害のほうが大きくなるので、注意が必要です。

例えば、腎機能がさほど悪くないのに、「カリウムを控えています」というかたがよくいらっしゃいます。しかしこれは正しい対処法ではありません。

腎臓病が悪くなって、カリウム制限が必要になるのは、腎臓病のステージでいえば、G3b以降。

カリウムは、ナトリウムの排出を促し、血圧を下げる働きがあります。腎機能がそれほど悪くないのに、カリウムを制限し、生野菜などを食べることを控えてしまうと、その結果として血圧が上昇し、腎機能を悪化させるおそれがあります。つまり、腎機能がそこまで低下していない人の場合、カリウム制限はかえって腎臓の負担を増やしてしまうのです。

一方、ステージがG3b以降のかたは、カリウムをとると害になりますから、制限が必要です。このように、ご自分の腎機能のステージや、eGFRの値により、カリウムをとるべきか控えるか、判断していくことが大事なのです。

ナト/カリ比」という値があります。これは尿中のナトリウムとカリウムの比率で、近年重要な数値として着目されています。塩分の多い食事をとり、カリウムの豊富な野菜をあまり食べていない人は、このナト/カリ比が高くなります。

これに対して、塩分を少なくし、カリウムを多くとっている人は、ナト/カリ比が低くなります。このナト/カリ比が低い人のほうが長生きすることがわかっています。

このことは、カリウム制限のかかる以前の慢性腎臓病の患者さんにも当てはまります。塩分管理はしっかり行いつつ、生野菜などもちゃんととって、カリウムの力を生かしたほうがいいのです。

このほか、たんぱく質の摂取についても、同じように控え過ぎるという問題が起きています。インターネットなどに流布されている、エビデンスに基づかない情報に惑わされないようにしましょう。

自分自身の腎機能の状態や体調をしっかりと確認しつつ、かかりつけの医師や、栄養士さんに相談をし、適切な食事療法を行ってください。

運動で筋肉をつければ血圧の変動も減らせる

適度な運動をする

もちろん、適度な運動も大事です。運動をすると、血圧が下がることがわかっています。加えて、運動して筋肉をつけることによって、血圧の変動が少なくなります。

筋肉が少ないかたというのは、血圧の変動が非常に大きいのです。そうしたかたが筋肉をつけていくことで、腎臓の負担を少しでも減らすことにつながります。運動強度としては、翌日に疲れが残らない程度の運動を目安にしてください。

市販薬に注意する

市販薬を飲むときは、注意が必要です。特に痛み止めは、継続使用することによって、腎臓が悪くなるリスクがあるとされています。医師に、薬やサプリを継続的に飲んでも大丈夫なのか、確認してから飲むようにしてください。

画像: 鎮痛剤やサプリにも注意

鎮痛剤やサプリにも注意

糸球体などの腎臓の組織は、完全に壊れてしまうと元に戻すことはできません。しかし、腎機能の低下に早期に気づき、日常生活で腎臓の負担を減らすことを心がければ、機能を維持、改善することは可能です

腎臓は、人生100年時代の大事なパートナー。ぜひご自身の腎臓をたいせつにする習慣を身につけてほしいと思います。

画像: この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。

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