解説者のプロフィール

八田告(はった・つぐる)
1992年、島根大学医学部卒業。近江八幡市民病院内科、京都府立医科大学腎臓高血圧内科などを経て、近江八幡市立総合医療センターの腎臓センターと京都府立医科大学薬理学教室に兼務。2013年、腎臓センター顧問を務めつつ八田内科医院を開院。21年、京都府立医科大学臨床教授。日本透析学会認定医・指導医。日本腎臓学会専門医・指導医。日本循環器学会専門医ほか。医学博士。
尿たんぱくは腎臓の涙!陽性の場合は早めに受診
腎臓病の予防・改善のために最も重要なことは、自分の腎臓が健康的に働いているかどうか、あるいは、どこまで悪くなっているのか、それをできるだけ正確に把握することです。
そのために役立つのが、尿たんぱくと、クレアチニン値・eGFRという検査数値です。
➊尿たんぱく
腎臓の糸球体では、血液中の老廃物や塩分がろ過されます。そのろ過されたものを「原尿」と呼び、これが尿細管という細い管を通って、集合管につながり、尿として体外へ排出されます。この際、通常は尿の中にたんぱくが出ることはありません。たんぱくは私たちの体に必要な物だからです。
「尿たんぱく」は、たんぱくが尿に混ざってしまうということ。これは、糸球体をはじめとする腎臓の機能に、なんらかの異常が起こっているということを示します。
しかも、尿にたんぱくが出始めると、それがさらに腎機能を悪化させる原因となります。というのも、糸球体→尿細管という流れは一本道で、ここにたんぱくが流れ込むと、尿細管が詰まってしまうからです。
すると、先の詰まった糸球体は機能しなくなります。こうして糸球体が1つずつ、つぶれてしまうのです。糸球体は100万個あるとされていますが、糸球体がつぶれ、100万個が60万個、50万個……とだんだんと減っていけば、それに伴い腎機能も低下していきます。
原則的に尿たんぱくは、このあと説明するクレアチニン値や、eGFRが正常値にある段階から出始めます。つまり、尿たんぱくは、腎臓が悪くなり始める予兆といってもいいもの。私は尿たんぱくを「腎臓の涙」と呼んでいます。
ですから、健康診断で尿たんぱくが陽性(1+、2+など)になり、たんぱくが出ていることがわかったら、早めに病院を受診し、原因を突き止めてください。腎臓以外の原因から、たんぱくが出ることもありますが、いずれにしても受診をお勧めします。
そこで腎機能に問題が生じていることがわかり、早めに対策すれば、それだけその後の治療がうまくいく可能性が高まるのです。
❷クレアチニン値とeGFR
クレアチニンは、血液中の老廃物の1つです。通常は腎臓でろ過され、ほとんどが尿中に排出されますが、腎機能が低下してくると尿中に出ず、血液中に蓄積されます。この血液中のクレアチニンの量を「クレアチニン値」といいます。
血液検査でわかるクレアチニン値も、腎機能を見る指標となりますが、私はクレアチニン値と性別、年齢から計算される数値「eGFR」をチェックすることを患者さんにお勧めしています(eGFRの調べ方は下項参照)。
eGFRは推算糸球体ろ過量といって、糸球体が1分間にろ過している血液の量を示します。また、このeGFRの数値によって、腎臓病の5つのステージも分類されます。
eGFRは、60 (ml/分/1.73㎡)未満が続くと慢性腎臓病と診断されます。また、おおまかな目安ですが、eGFRが8~10 (ml/分/1.73㎡未満)になると、透析や腎臓移植などの治療が必要になります。
ここで重要なのはeGFRの数値を単年で見るのではなく、「経年での変化を見る」ということです。
腎機能は、腎臓に何も問題がなく、健康な人でも、加齢によって少しずつ低下していきます。eGFRでいえば、毎年0.5くらいずつ落ちていくのです。横軸に年、縦軸にeGFRの数値を入れてグラフを作ると、健康な人でも、右肩下がりになります。
ところが、腎臓が悪くなってくると、eGFRの値が、ある年に2~5くらいガクンと下がってしまうことがあります。グラフの傾きも急になります。それがすなわち、腎機能が病気として悪化しつつあることを示しているのです。
実は、できるだけ年をさかのぼって、以前からのeGFRの数値を入力してグラフを作っていくと、傾きがハッキリわかり、いつ人工透析が必要となるかも予測できてしまうのです。
こうして、もしも腎機能が悪化しつつあることが判明したら、できるだけ速やかに治療を始める必要があります。それにより、腎機能が改善したり、悪化を食い止められたりできるなら、グラフの傾きも以前より緩やかになってきます。
ひと目でわかる腎機能 (推算糸球体ろ過量=eGFR) 早見表
※日本腎臓学会の「eGFR男女・年齢別早見表」を参考に作成。数値は18歳以上に適用で、クレアチニン値は酵素法で作成したものを用いる。

女性用


男性用


糖尿病の場合は微量アルブミン値に注意
ほかにも参考になる数値があります。
例えばやせ型のかたや、逆に筋肉量が多いかたは、検査で正しいクレアチニン値が出ないことがあります。
eGFRで腎機能低下の兆候があった場合や、特に腎臓が心配なかたは、腎検査を受けて、筋肉量などの影響をあまり受けない「シスタチンC」を測るとよいでしょう。
また、糖尿病のかた、あるいは糖尿病の悪化により腎臓が悪くなりつつあるかたに着目していただきたいのが、尿検査でわかる「微量アルブミン」の数値です。
アルブミンはたんぱく質の1つ。通常は尿中には排出されませんが、糖尿病腎症により腎機能が低下すると、尿中に出てきます。糖尿病のかたで、アルブミン尿の検査をしたことがなく、腎臓が気になるというかたは、ぜひ担当医に相談することをお勧めします。
最後に、腎臓病のいわゆる自覚症状についても触れておきましょう。
初期の段階で見られる症状には、「なかなか消えない尿の泡立ち」「足のむくみ」といった症状がありあます。この2つの症状が気になったら、一度受診することをお勧めします。
ただし、腎臓はとても我慢強い臓器であり、自覚症状が出るころにはかなり腎機能が悪くなっていることがほとんどです。ですから、くれぐれも「自覚症状がないから腎機能に問題はない」などと自己判断はしないでほしいのです。
これまでに挙げた検査数値などをしっかり確認することが、腎臓病の予防・改善のための大原則だと考えてください。
健康診断結果のココをチェック!
●尿たんぱく
陽性(1+~4+)が出ていたらすぐに精密検査を!
●クレアチニン値/eGFR
クレアチニン値の基準値は、男性0.61~1.04、女性0.47~0.79(mg/dl)。
できればeGFRの経年変化を確認し、急激に下がっていないかをチェック。


この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。
www.makino-g.jp