解説者のプロフィール

八田告(はった・つぐる)
1992年、島根大学医学部卒業。近江八幡市民病院内科、京都府立医科大学腎臓高血圧内科などを経て、近江八幡市立総合医療センターの腎臓センターと京都府立医科大学薬理学教室に兼務。2013年、腎臓センター顧問を務めつつ八田内科医院を開院。21年、京都府立医科大学臨床教授。日本透析学会認定医・指導医。日本腎臓学会専門医・指導医。日本循環器学会専門医ほか。医学博士。
糖尿病や高血圧とのかかわりが鮮明に
腎臓は、体の背中側に2つある、こぶし大の臓器です。この臓器の働きが悪くなる病気を総称して、「腎臓病」と呼びます。なかでも慢性的に続く腎臓病が、「慢性腎臓病(CKD)」です。
現在、日本の慢性腎臓病患者数は、約1330万人。年々増加傾向にあります。日本の成人の8人に1人が患者ということになり、新たな国民病ともいわれています。
増加の理由は2つあります。
・高齢化が進んでいること
・生活習慣病のかたが増えていること
腎機能は、加齢によって誰でも徐々に低下していくものです。100歳まで生きることが珍しくない時代ですから、我々は100年持つ腎臓とのつきあい方を考えなければなりません。
また、慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧の合併症として現れることの多い病気です。いわゆる生活習慣病の延長線上にあるともいえるのです。
2020年の日本透析医学会の調査によると、人工透析の原因になった疾患の、1位は「糖尿病性腎症」で、その名のとおり、糖尿病の合併症としての腎臓病です。
2位は「腎硬化症」。高血圧から起こる腎臓病です。実はこの腎硬化症は、これ以前の調査では原因疾患の3位でした。それが近年どんどん増えて、ついに2位に。糖尿病と高血圧が原因の腎臓病が1、2位を占めることになり、生活習慣病とのかかわりが鮮明になりました。
このことからも、慢性腎臓病は誰もが患うおそれのある病気だとわかります。
そもそも腎臓はどのような働きをしているのでしょう。
その役割は5つにまとめられます。
①尿を作る
②老廃物をろ過し、体の環境を整える
③血圧を調整する
④血液をつくる働きを助ける
⑤骨の代謝を助ける
腎臓の最も重要な働きは、「体に必要な物を取り入れ、不要な物を尿として体外に出す」ということです。

上の図を見てください。腎動脈から腎臓に血液が送られてきますが、これには体に不要な老廃物が含まれています。これを、腎臓内のネフロンにある糸球体でろ過し、老廃物を取り除きます。きれいになった血液は、腎静脈を通して全身に戻され、老廃物は尿として排出されるのです。
ろ過機能が円滑に働くには、血液の流れが一定に保たれている必要があります。腎臓に血圧を調整する働きがあるのは、そのためです。
同時に、糸球体で体に必要と判断された水分や糖分、ナトリウムなどは再び体に吸収され、血液中に戻されます。その過程で腎臓は、筋肉細胞や神経細胞の働きにかかわったり、骨代謝にたいせつな役割を果たす電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、マグネシウムなど)の量の調整も行うのです。
腎機能が低下すると心疾患のリスクも高まる
このように、腎臓は人の体の維持に重要な役割を果たしています。その腎臓の機能が低下し、本来の働きができなくなれば、さまざまな問題が引き起こされます。
血液中の老廃物が排出できなくなれば、体に毒素がたまり、尿毒症(尿中に排出される老廃物が血液中に残存した状態)という命にもかかわる病気になります。
また、筋力の低下や不整脈にもつながる高カリウム血症なども引き起こされるほか、全身の臓器にも影響が及び、心筋梗塞や心不全など、心疾患のリスクも高まるのです。
ところが腎臓病は、自覚症状が極めて出にくい病気です。気がついたときには、腎臓は機能不全に陥り、人工透析が不可避になっていることも少なくありません。
腎機能は、いったん低下すると、その回復のための抜本的な治療法がないのも事実です。ですから、なるべく症状が軽いうちに腎機能の低下に気づき、症状の進行を抑えることが肝心です。

この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。
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