解説者のプロフィール

落合壮一郎(おちあい・そういちろう)
1970年生まれ。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師。熱海の熱函病院でリハビリの指導を学んだ後、あさひ鍼灸治療院開院。2002年1月、台湾で中国伝統整復師資格を取得し、永久会員に認可される。中国伝統療法の中国鍼・温灸や整体などを取り入れた、根本的な治療を行う。主な著書に、『痛みと不調がなくなる血流コントロール』(大和書房)などがある。
質のよい睡眠のためには心身のケアが重要
昔から「睡眠に勝る薬はない」といわれるほど、健康において睡眠は重要です。そして、眠りの深い「質のよい睡眠」であることがたいせつです。
質のよい睡眠を取ると、目覚めがスッキリして熟睡感があります。これは睡眠で心身が回復している証といえるでしょう。
一方で、起床後にだるい、寝ても疲れが取れないという人は、質のよくない睡眠になっていると考えられます。
また、ただ長い時間眠ればいいというわけではありません。例えば、寝る直前までテレビやパソコン、スマホを見ていると、脳が刺激を受けたまま眠りに入ります。12時間寝たとしても眠りが浅い、夜中に目が覚めるといった睡眠障害が現れて、心身が回復しないのです。
私の治療院には、睡眠で悩んでいる患者さんがたくさんいらっしゃいます。そのような人たちを施術すると、首や肩がこっていて、背中がガチガチにかたくなっていることが多いものです。悩みや心配事、ストレスがある人も、質のよくない睡眠になりがちでしょう。
こうした人が、いくら枕や布団を変えても、睡眠で体がリセットされません。
もちろん、寝る前にテレビやスマホなどを見るのを避けることは重要です。加えて、質のよい睡眠を得るためには、心身の不調をケアすることが大事だと私は考えています。
そこで下項では、心身の不調を解消して睡眠の質を高める手もみをご紹介しましょう。不調と向き合って行動に移すこと自体が、安心感を得られるたいせつなアプローチです。お悩みのかたはぜひ実践してください。
注意点
・自分の症状に対応するツボを、症状が気になったときや、眠る前に布団の中で押しもむ。
・爪を立てず、皮膚を傷つけないようにしてください。
頭が痛い/首や肩、腕がこっている/寝違えて 眠れない
腕の筋肉がこわばると、血液やリンパの流れが悪くなって、頭痛、首や肩のコリが生じやすくなります。そうした人には、中渚と後谿のツボ刺激がお勧めです。
これらのツボを押しもむと、血液やリンパの流れがよくなります。その結果、首や肩のコリが解消してきます。寝違えているときは、首を回しながら行うといいでしょう。
中渚(ちゅうしょ)
手の甲で、中指と小指のつけ根の間(水かき)の下にあるくぼみ。

後谿(こうけい)
小指の下の、出っ張っているの骨の真下にある、手の側面のくぼみ。

もみ方
❶左手の中渚周辺に、右手の中指と薬指を当てる。押すとジーンとするくぼみを5~10回押しもむ。

❷左手の後谿を、右手の親指でジーンとする力加減で5~10回押しもむ。

❸左右の手を入れ替えて①、②と同様に押しもむ。
腰が痛くて 眠れない
腰腿点をよく刺激すると、腰から背中にかけての筋肉が緩んで、痛みが緩和します。血液の流れがよくなると同時に活力もわくので、腰痛の防止にもつながります。
疲れがたまっている人にもお勧めです。血液循環にかかわる「腎」への負担が大きくなっていて、これが腰痛の原因になるからです。
腰腿点(ようたいてん)
手の甲で、人差し指と中指の骨が交差するところにあるくぼみと、薬指と小指の骨が交差するところにあるくぼみ。

もみ方
❶手を組んで、左手の腰腿点に右手の人差し指と薬指の先を当てる。20~30秒、骨に沿って小刻みに強く押しもむ。痛むほうのツボを特に意識して行う。

❷左右の手を入れ替えて①と同様に押しもむ。
のどが痛い/セキが出るなど、のどのトラブルで 眠れない
寝る前に合谷、魚際を押しておくと、のどが楽になり、セキを抑えて安眠できます。
のどのトラブルを緩和してセキを鎮めることから、カゼの引き始めや予防にも効果があります。のどが弱い人は、常にほぐしておくとよいでしょう。
合谷(ごうこく)
手の甲で、親指と人差しの骨が交差するところのくぼみ。

魚際(ぎょさい)
母指球の真ん中にある、骨の内側の際にあるくぼみ。

もみ方
❶左手の合谷と魚際に右手の親指と人差し指を当て、手を組むように挟む。5~10回、グイグイと強めにもむ。

❷左右の手を入れ替えて、①と同様に押しもむ。
眠りが浅い/ストレスやイライラで 眠れない
神門のツボは、自律神経のバランスを整えて、精神の緊張をほぐします。イライラを鎮めて、浅い眠りを改善してくれます。五臓六腑でいう「心」に作用するツボなので、心臓のある側の左手だけ押しもみます。
不安や心配事を抱えているときには、体温が下がっています。右手で左手を包み込み、温もりを感じながら心臓に流し込むイメージでじっくりと押しましょう。
神門(しんもん)

もみ方
◎左手だけに行う。右手の親指を左手の神門に当てて、残りの指で甲を包む。腹式呼吸をしながら、5~10回、手首からひじ側に向けて押しもむ。やさしく、心が落ち着く力加減で行う。
※呼吸とツボを押すタイミングは合わせなくてもよい。
※夜に行う場合は、寝る30分~1時間前に行う。

倦怠感がある/心配事や気分の落ち込みで 眠れない
労宮のツボは、血流を促進して、筋肉の疲労回復と脳の活性化を促します。「活力のツボ」ともいわれ、元気がないとき、疲れているときに効果を発揮します。
過剰な刺激は、脳が覚醒し過ぎて眠れなくなることがあります。押しもみ過ぎないようにしましょう。また、高血圧の人は控えてください。
労宮(ろうきゅう)
指が手のひらの真ん中に来るように軽く握ったときの、中指と薬指の間にあるくぼみ。

もみ方
❶左手の労宮に右手の親指を当てる。ジーンとするが少し気持ちいい力加減で5秒押さえる。

❷左右の手を入れ替えて、①と同様に押しもむ。

この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。
www.makino-g.jp