体を酷使し過ぎて定年を待たず退職を決意
私が仕事をリタイアしたのは、60歳になる3ヵ月前でした。
それまで携わっていたのは、電気工事の仕事です。仕事自体、とてもハードなうえに、「誰にも負けたくない」という気性から、私は体を酷使して周囲の人よりも働いてきました。
そのせいで、体はボロボロ。30数年前にひざを痛めてからは毎月の病院通いが欠かせず、歩くスピードは半分程度になってしまいました。
それ以外にも、加齢とともに体のあちこちに不調が出てきてため、3ヵ月後の定年を待たずして退職を申し出たのです。
そして退職後、1年経たないうちに始めたのが、養蜂です。妻の花粉症対策にハチミツが有効だったことから、わが家では常にハチミツを購入していました。それならいっそ、自分で蜂を飼育し、ハチミツを採取してみてはどうか、と思い立ったのです。
独学で得た知識と体験から、巣箱の形や設置する場所なども自分なりに研究し、1年に8〜12kgくらいのハチミツが採取できるようになりました。
ニホンミツバチのハチミツはコクがあり、西洋ミツバチの物と味が全然違います。採取したハチミツは家族や親戚、友人に分けたところ、皆に「おいしい」と喜ばれていました。
ところが、当時住んでいた地域では、毎年8〜9月にかけて、周囲の田んぼにカメムシ駆除の消毒液がまかれるため、蜂が半分くらい死んでしまいます。特におととしは影響が大きく、蜂が全滅してしまいました。
そこで、私は養蜂に適した場所への移住を決意。妻は母親の介護で動けないため、私1人、昨年10月から岩手に拠点を移し、新しい生活を始めました。

養蜂計画を進めている阿部さん
体を動かしているからこそしっかり生きられる
ミツバチは、100m以内に蜜源があれば、そこから蜜をとるため、遠くへは飛んで行かないという習性があります。ですから、移住した地では自らの畑でソバや菜の花を育て、1年を通して蜜源を絶やさないようにして、養蜂を行う計画です。
移住先は敷地が広いものの、いわゆる荒れ地のため、整地するだけでもひと苦労です。最近は雨が多いこともあって、まだまだ片づいていません。
さらに、住み始めた家も古く、大がかりな修繕が必要でした。これまでの仕事の経験を活かし、高く伸びた木の伐採や、水道工事など、できることはすべて自分で行いました。
冒頭で述べたとおり、体は万全ではないので、半日重労働をしたら、もう半日は別の仕事をするといったぐあいに、自分で調整しながら過ごしています。
勤めていたときと大きく違うのは、自分のペースで仕事ができること。いくら不調があるといっても、体を動かさなくなったらおしまいです。万全ではないとはいえ、体を動かしているからこそ、しっかり生きることができると思います。
すぐ近くには、やはりほかの地域から移住してきた家が4軒あり、手伝いに行くこともあります。その際も事情を伝えて、理解してもらい、楽しく交流させていただいています。
地元の人たちもとてもよく面倒を見てくださり、ありがたく感じています。まだ1年も住んでいませんが、畑でとれたリンゴやそれを使ったリンゴジュース、タケノコ、赤飯などをいただきました。ハチミツがとれるようになったら、私もお返ししたいと考えています。
現在は年金生活で、今後、養蜂で収益を得るかどうかなど、具体的なことはまだ考えていません。とにかくその日その日の作業をマイペースで行い、一歩一歩先へ進むのみ。心の負担になるような心配事なども、考えないようにしています。そうすればストレスもたまりません。
先日は試しに巣箱を設置したら、蜂が入っていることが確認できました。近くの山に蜜源があり、そこで蜜を採取しているようです。
移住前に行っていた養蜂は6群ほどでしたが、現在の場所では畑の規模から考えて、最大で20群くらいにできたらいいと思っています。そのために、今後は畑を整地して蜜源を作り、蜂が住みやすい環境を整えていくことが私の仕事です。何年かかるかわかりません。体が動く限り、生涯をかけてがんばるつもりです。

この記事は『壮快』2022年9月号に掲載されています。
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