変形性ひざ関節症によるひざ痛の原因は、厳密にいえば軟骨の消失ではなく、大腿骨と脛骨がぶつかる結果、微小骨折が起こるため痛むのです。ですから、軟骨破壊の機会を減らし、軟骨再生の要因を増やすことで痛みのない歩行が可能になります。【解説】巽一郎(社会医療法人杏嶺会一宮西病院整形外科部長兼人工関節センター長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

巽一郎(たつみ・いちろう)

1960年生まれ。大阪市立大学医学部卒業。米国メイヨー・クリニックフェロー、大阪市立大学医学部助手、英国オックスフォード大学留学、湘南鎌倉総合病院人工関節センター長などを経て、令和2年5月より一宮西病院へ赴任。「筋肉を切らない・傷口の小さい」手術の開発や、体への負担を最小限にする「半置換術」の導入を行うなどで、全国各地から患者が絶えず訪れている。

中期までなら手術なしで痛みを取ることも可能

中高年者の多くが悩む「ひざ痛」。その大部分は加齢に伴う変形性ひざ関節症が原因です。ひざ痛については、治療を受けてもなかなか改善できずに困っている人や、手術を受けるかどうか迷っている人も多いでしょう。

社会医療法人杏嶺会一宮西病院・整形外科部長兼人工関節センター長の巽一郎先生は、ひざ関節の手術を専門とする名医でありながら、「可能な限り切らずに治す」という方針で治療。多くの患者を手術なしで治し、手術が必要な場合は、極力、ひざの動きがよくなる術式を選んでいます。

ひざ痛は、どこまで手術なしで治せるか、手術を受ける際に知っておきたい知識などを、巽先生に伺いました。

[取材・文]医療ジャーナリスト 松崎千佐登

──ひざ痛の原因となる変形性ひざ関節症は、どんな病気ですか。

 太ももの骨である大腿骨とすねの骨である脛骨をつなぐのがひざ関節ですが、その間には、クッション役の「軟骨(関節軟骨)」があります。この軟骨が加齢とともにすり減るのが変形性ひざ関節症で、進行すると痛みが増し、歩行やひざの曲げ伸ばしがつらくなります。

ひざには、平地を歩くだけでも体重の5倍、階段を降りると8倍の力がかかります。そのため、個々人の条件にもよりますが、どうしても加齢とともに軟骨が減って痛みが強くなっていきます。

多くの場合、ひざの軟骨は内側から減っていきます。O脚の人はそもそも変形性ひざ関節症になりやすいのですが、進むにつれて内側の軟骨が減って、ますますO脚になり、内側に力がかかって進行します。ひざ関節のX線撮影をすると、軟骨は写らないので、軟骨の部分は隙間に見えますが、この隙間(軟骨)がどのくらいあるかで進行度が決まります。

内側の軟骨が、外側の半分〜3分の1に減った状態が変形性ひざ関節症の「初期」。内側の軟骨がほぼ完全にすり減り、大腿骨と脛骨が接触するのが「中期」です。接触するだけでなく、その部分はX線画像で白濁して見えます。骨同士がぶつかり合い、微小骨折というごく細かい骨折とカルシウム沈着が交互に起こるからです。

画像: 変形性ひざ関節症の「中期」 内側の軟骨がほぼ完全にすり減り、大腿骨と脛骨が接触している状態が「中期」となる。

変形性ひざ関節症の「中期」
内側の軟骨がほぼ完全にすり減り、大腿骨と脛骨が接触している状態が「中期」となる。

のちほど改めてお話ししますが、この微小骨折こそがひざ痛の原因です。なお、正確なX線検査のためには、寝た状態でなく、立った状態(立位)で撮影することが大事です。寝た状態で隙間があっても、立位だと重力がかかって隙間がなくなることも多いからです。

痛み止めを飲んで無理に歩くと、変形がさらに進んで、軟骨だけではなく骨が削れ、骨欠損を生じます。この状態が「末期」です。

──どの段階までなら、手術なしで痛みを取ることが可能なのでしょうか。

 初期であれば、私はいっさい手術はしません。軟骨が残っていて、やり方次第で軟骨を増やせるからです。整形外科の教科書や医学書には、「軟骨はすり減る一方で、再生しない」とよく書かれていますが、それは誤りです。

軟骨の再生を促すために、お勧めなのが「足振り子体操」です。いすやベッドの縁に座り、少しひざを持ち上げて、ひざから下をブラブラ振るだけの簡単な体操です。

軟骨には血管も神経もなく、関節を包んでいる関節滑膜という膜から関節液が出て、軟骨に水や栄養を補給します。足振り子体操で滑膜を伸び縮みさせると、関節液が軟骨に供給されて軟骨の再生が促されるのです。

軟骨が再生する「足振り子体操」

※朝起きてすぐに30回振るといい。また、テレビを見たりして1時間以上動かなかったとき、立ち上がる前に30回振るのもおすすめ。

リラックスしていすに腰掛け、一方の足を両手で持ち上げる
いすの高さは、両手で持っている足のひざから下をぶらぶらと振ることができればOK。

画像1: 【ひざの痛み】悩んでいる人に伝えたい!軟骨を再生する体操&手術の新常識

持ち上げている足のひざから下をぶらぶらと振る
だらんと下ろしている足をゆっくりと振る。太ももの力を使わず、できるだけ力を抜いて行う。

画像2: 【ひざの痛み】悩んでいる人に伝えたい!軟骨を再生する体操&手術の新常識

特に、朝の起床直後や、長時間座っていて立ち上がるときなどは、軟骨の水分が不足しているので、まず、足振り子体操をやってから立ち上がるようにしましょう。痛みの緩和と軟骨の再生促進の両方に効果的です。少しでも関節軟骨が残る初期では、元に戻ります。内側軟骨が完全になくなった中期では、繊維軟骨(繊維が束になって密に構成された厚い軟骨)が代わりに再生します。

中期になると、整形外科の教科書には「手術でしか治らない」と書いてあります。私も30年前まで、中期の患者さんには「手術しか治療法はありません」と言っていました。しかし、この十数年でよくわかったのですが、中期でも正しい保存療法(手術以外の治療法)を行えば、痛みが取れ、繊維軟骨が再生します。

変形性ひざ関節症によるひざ痛の原因は、厳密にいえば軟骨の消失ではなく、大腿骨と脛骨がぶつかる結果、微小骨折が起こるため痛むのです。ひざ痛には、痛む時期や痛まない時期などの波がありますが、これは日々の生活の中でさまざまな程度の微小骨折が起こったり、それがカルシウムの沈着などで治ったりすることをくり返しているためです。

ですから、軟骨がすり減っても、微小骨折を起こさないようにすれば、痛みを軽減・解消できます。軟骨破壊の機会を減らし、軟骨再生の要因を増やすことで痛みのない歩行が可能になります。そのための保存治療のポイントは3つです。

肥満の人は適正体重にする

ひざには平地を歩くだけで体重の5倍の力がかかるので、たとえば5kgやせれば25kg分の負担軽減になります。

太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛える

いすに座って一方の足を床と平行に伸ばし、その足のつま先を手前にピンと曲げ、太ももの筋肉に力が入っていることを意識しながら5秒静止。左右の足で交互に、それぞれ30回行います。

「たつみ式・内もも歩き」をする

変形性ひざ関節症の人の多くは、外側荷重の歩き方で、内側の軟骨のすり減りや微小骨折を助長しています。そこで、歩くときにかかとから着地した後、足の親指に力を入れ、小指をわずかに浮かせるように意識しましょう。すると、内側の骨同士がぶつかりにくくなり、痛みが緩和されて軟骨の再生も促されます。

手術は可能な限り「半置換」がお勧め 

──それらの保存療法は、どのくらい効くのでしょうか。また、最終的に手術の対象になるのはどんなケースですか。

 私は、中期までの患者さんには、とりあえず3ヵ月、これらの保存療法をやっていただきます。すると、痛くてたまらずに手術を希望して来院された患者さんでも、手術なしで痛みから解放される方が多くおられます。これまでの統計では、中期で来院された患者さんの46%が3ヵ月の保存療法でひざ痛から「卒業」されています。

痛みが取れない場合、患者さんにやる気があれば、保存療法の期間を3ヵ月延長します。すると、さらに「卒業生」が出ますが、そこまでやってもよくならない場合は、手術を検討します。結果的に手術を行う場合でも、保存療法を十分に行えば、術後の経過がよくなります

患者さんによっては、最初から保存療法にあまり関心がなく、「痛いからとにかく手術してほしい」という方もおられますが、その場合も、保存療法の説明は丁寧にします。ここに述べた保存療法は、どの段階であっても、変形性ひざ関節症の原因療法(症状でなく原因に対する治療法)として重要だからです。

結果的に、保存療法を3〜6ヵ月行っても痛みが取れない中期の患者さん、もしくは手術を強く希望される中期の患者さん、および末期の患者さんは手術適応(手術の対象と認められる)となります。

──手術にはどんな種類がありますか。また、どのように選ぶのでしょうか。

 変形性ひざ関節症の手術は、ひざ関節を人工関節に換えます。これには、大きく分けて「全置換術」と「半置換術」があります。

全置換とは、ひざ関節全体を人工関節に換える方法です。半置換は、文字通り半分だけ換える方法で、症状の強い内側だけを人工関節に換えます。

画像: ひざ関節全体を人工関節に換えるのが「全置換」(左)。症状の強い内側だけを人工関節に換えるのが「半置換」(右)。

ひざ関節全体を人工関節に換えるのが「全置換」(左)。症状の強い内側だけを人工関節に換えるのが「半置換」(右)。

半置換術にはいくつかのメリットがあり、1つは術後の関節の動きが全置換よりよいことです。

全置換では、痛みなくひざの曲げ伸ばしができるようにはなりますが、ひねりや回転、横への動き、ひざを深く曲げるなどの動きは制限されます。半置換なら、多くの場合、これらの動きが可能になります。

もう1つ、ひざのすべての靭帯を残せるのも半置換術の大きなメリットです。

ひざ関節には、内側の側副靱帯、外側の側副靱帯、中央前側の前十字靱帯、中央後ろ側の後十字靱帯など4本の靱帯があります。全置換術では、内側と外側の側副靱帯は残しますが、前後の十字靱帯は切ります。半置換術では、十字靱帯も残すことができるのです。

画像: ひざ関節まわりの構造 ひざ関節には上図のように4本の靱帯がある。

ひざ関節まわりの構造
ひざ関節には上図のように4本の靱帯がある。

十字靱帯は、ひざの傾きや位置などを脳に伝える役目もあるので、これを残すことで、術前と同じように脳へのフィードバックが行われ、より自然な動きと感覚が維持できます。可能な限り半置換術を受ける方が、術後の生活の質を高く保つことができるでしょう。

これまで私が半置換術を行った患者さんたちは、術前と同じく深くひざを曲げることや、複雑な動きもできるようになっており、中には術前からの趣味であったスキーや卓球を楽しむことができた高齢者もいます。

現在、ひざ関節の半置換術を行うことができる日本の病院は1割程度で、9割では全置換術しか行いません。希望される場合は、事前に半置換術が可能かどうかを問い合わせてみてください。

なお、全置換か半置換かを問わず、「低侵襲手術(MIS)」という方法もあります。医学的な処置によって人体にかかる負担のことを侵襲と呼びますが、それが少ない手術という意味です。

ひざ関節の置換手術におけるMISのポイントには、「手術時間が短い」「手術が正確」「筋肉を切らない」などがありますが、とりわけ重要なのが「筋肉を切らない」ことです。

ひざは筋肉に覆われているので、それを切らずによけて手術すると、非常に見えにくくなります。私は、事前にコンピューターを使った綿密な手術のシミュレーションを行うことで、見えない部分をカバーして、半置換・全置換ともにMISを行っています。

その手間をかけてでも、MISを行うことには大きなメリットがあります。筋肉は、いったん切ると、後で縫い合わせても、その部分が繊維組織に変わり、硬くなってしまいます。切らずによけて手術をすれば、そのときは腫れますが、しばらくすると元通りの弾力性を取り戻します。その分、術後のひざの動きがよい状態に保たれやすいのです。

MISついても、病院へ事前に問い合わせるとよいでしょう。

画像: この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。

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