どうすればペットを失った悲しみを和らげられるのか?ヒントを求めて話を聞いたのが、看取り士の柴田久美子さんです。柴田さんは看取りのプロとして、旅立つ人、見送る人を支える活動を続けています。「死は、命のバトンをつなぐ幸せに満ちた場面」だという柴田さん。フリーライターの磯しまこさんを聞き手に、喪失感から立ち直る秘訣を伺いました。【解説】柴田久美子(看取り士)

解説者のプロフィール

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柴田久美子(しばた・くみこ)

一般社団法人日本看取り士会会長。介護支援専門員。2002年、看取りの家を設立。「幸(高)齢者様1人に対して介護者3人の体制で寄り添う介護」と、「自然死で抱きしめて看取る」ことの実践を重ねる。2014年、岡山県に拠点を移す。地域の無償ボランティア「エンゼルチーム」を組織し、看取り士とともに、慣れ親しんだ自宅での旅立ちを支える体制を実現。講演活動を通して「抱きしめて看取ること」「命のバトンを受け取る死の文化」を国内外を問わず世代を超えて伝えている。著書に『私は、看取り士。わがままな最期を支えます』など。

[別記事:【ペットロスを癒やす方法】幸せな猫の看取り方・マンガ「モモちゃんを看取って」→

後悔のない送り方が気持ちをらくにする

──前の記事の漫画にもありますが、ペットが亡くなった後、混乱状態でした。老猫なので随分前から心構えはしていたけど、実際に亡くなるとものすごく動揺して、頭と心がバラバラというか。皆さん最初はそうなるものでしょうか?

柴田 現状はそういう方が多いです。なので、私たちのような専門家がいるんですね。

死生観をきちんと持っていればそんなに揺れはしないけど、残念ながら日本は死生観をなくしたので、大半の方が動揺されます。死とはなんだと学ぶところが、今の日本では本当に少ないです。死生観を確立していくと、悲観は減っていきます。

──看取り士の皆さんは、どんなことをなさるんですか?

柴田 親しい人を見送るには、忍耐力がいります。見送る人たちには支えが必要です。その支えとなるのが、私たち看取り士です。

具体的には、臨終の場に立ち会って、旅立たれるご本人とご家族とのコミュニケーション──声をかけたり体に触れたり──を促します。旅立たれた後は、亡くなった方とぬくもりを共有しながら、たくさん話しかけていただきます。

私たちはいつも「楽しかったことを教えていただけますか?」と聞くんですけど、私たちが尋ねなくても、皆さんお話ししてくださって、「ありがとう」という言葉をたくさんそこで言ってくださいます。なので、すごく温かい現場なんですね。愛情が全部そこに集まってくるような感じがあります。

──悔いのない送り方をすることで、残された人たちの気持ちがらくになるんでしょうか?

柴田 そうです。悔いが残ってしまうと、心に大きな石を持って暮らさないといけなくなりますから。あとは、旅立たれた方の思い出をたくさん語っていただくことで、故人が自分の中にしっかりと生き続けるんですね。

私たちには独特な死生観があるのですが、人は生まれた時に「体」と「よい心」と「魂」をもらってきて、魂にエネルギーを蓄えながら生きている。そして旅立つときに、よい心と魂のエネルギーを愛する人に渡すのだと考えます。それが、いわゆる看取りという期間です。

死は「エネルギーのバトンタッチ」なんですね。私たちは、そういったプラスの死生観を持っていますので、現場に行っても揺れることはありません。

──人間だけでなく、ペットの看取りもされていると聞きました。

柴田 はい。魂を持つものとして動物も人間と同じ。ですから、看取り方も一緒です。私自身、飼っていた猫や犬、ウサギを見送った経験があるのですが、看取りをしながら、これは人間と一緒だと痛感しました。

──ペットの場合は、どんなふうにお見送りを?

柴田 ひっそりと抱いたり、なでたり、肌を寄せて看取ります。人間と一緒なのですが、私は「ひとつになってください」と言うんです。「呼吸もできるだけ合わせてあげてください」とお願いします。 そうやって人生の完成のときを一緒に迎える。ペットのエネルギーが最高になるときですね。もう肉体にとらわれないペットの有り様を見てあげる。

そのように看取ると、ペットとひとつになる達成感や満足感を、皆さん持たれると思います。

看取り士とは?

旅立つ人、見送る人が幸せな最期を迎えられるようにサポートを行う。2022年6月現在、全国39の看取りステーションを拠点に1876人の看取り士が活動している。看取り士の仕事は主に3つ。

相談業務▶︎「自宅で最期を迎えたい」という願いを実現するため、かかりつけ医や訪問看護を探したり、お墓探しを手伝ったりなど、内容は多岐に渡る。

臨終の立ち会い▶︎臨終間際に呼吸が変わったとき、穏やかにお送りできるよう「呼吸合わせ」という方法を使ってサポートをする。

看取りの作法の伝授▶︎旅立った後に、看取りの作法をお伝えして、ゆっくりお別れをしていただく。

ペットの写真に「ありがとう」と声をかける

柴田 磯さんは、とっても幸せな看取りをされましたね。モモちゃんの側から見たら、磯さんに感謝しかないです。

──ありがとうございます……。感謝しかない。そういうものでしょうか。

柴田 ペットは言葉を話しません。全て受容して旅立っていくんです。ペットも人間も、最後は「ありがとう」という感謝しかありません。それは、看取りの現場に長年関わってきた私の実感です。

──自分でも後悔のない送り方ができたなと思いました。ただ、やっぱり悲しみや喪失感が拭えなくて、どうしていいかわからなかったです。

柴田 そういう場合は供養ですね。ペットが亡くなってから7日間(初七日)は、生前と同じ暮らしをしてください。お水やご飯をあげたり、声をかけたり、思い出話をしたり、声に出して伝えてあげる。そういう暮らしをなさると、亡くなったペットが、あたかもいるかのように感じられてくるんです。

──実は私、最初の頃は写真に話しかけていたんですが、モモちゃんの存在を全然感じなかったんです。そのうち話しかけなくなったんですが、1週間くらい前に話しかけを再開したら、急に私の中のモモちゃんがムクムクと立体的になったんです。

柴田 まぁ。

──温かみと質量が増して、「あ、モモちゃんいるな」と思いました。うれしくなって毎日話しかけるようにしたら、喜んでくれているのもわかるようになって。ただ喜んでいるってことだけが、直感的にわかるんです。魂とかはよくわからないですが、「ああ、帰ってきてくれたな」って感じました。

柴田 人間も同じですが、亡くなってもエネルギーとして皆そばにいるんです。見えないだけで、実際はエネルギーとしてそばにいてくださる。

モモちゃんはずっとそばにいたんです。呼ばれるので、温かい感覚としてわかるようにしてくれたんですね。

初七日の後、四十九日までは魂が身近にいますので、できるだけ声をかけてあげてください。名前を呼んで「ありがとう」と言ってあげると、とっても喜びます。

そうすると飼い主さんにいいことがいっぱい起こりますよ。亡くなった方の応援ってすごく大きいんです。幸運が続いている人というのは、 亡くなった方々の応援がどれほど大きいか。

画像: 亡くなったペットに声をかけてあげる。それがペットには1番喜ばしいこと。写真や人形があると「行ってきます」「ただいま」などと声をかけやすい。写真提供/磯しまこ

亡くなったペットに声をかけてあげる。それがペットには1番喜ばしいこと。写真や人形があると「行ってきます」「ただいま」などと声をかけやすい。写真提供/磯しまこ

──そうなんですか。いいことを聞きました(笑)。

柴田 応援を得るためには、亡くなった方の供養をきちんとすること。特別なことではなくて、思い出して「ありがとう」と声に出すことです。

私は亡くなった犬とそっくりの人形を置いていつも声をかけていますし、亡くなった両親にもいつも話しかけています。あたかも生きているかのように。そうすると、「ここぞ」というときに助けてくれる。九死に一生とか、虫の知らせは、全部そういうエネルギーの力です。

──私、実は最近いいことがあったんですが、それがモモちゃんのおかげだったら余計にうれしいです。逆に、これはやめた方がいいという行動はありますか?

柴田 無理に忘れようとなさることです。それは解決につながりません。忘れるために忙し過ぎる毎日を送られると、もっともっと重荷を背負うことになってしまいます。

忙しい日々の中では、見えないものは見えず、感じることもできません。ちょっと手を止めてみると、忙しい日常では感じられないことが、そこに見えてきます。 見えないものと一緒に生活をしている、そのことに気づきやすくなる。プラス応援もしてもらえて、本当に幸せになれます。

看取れなかった人は初七日をやり直して

──ペットの臨終に立ち会えず、お見送りができなかったという人も多いと思います。

柴田 その後悔がきっかけで、ペットロスになる人も少なくないですね。その場合も、初七日の供養をやり直してください。 お水や餌をあげて、話しかけて、ペットとの暮らしをもう1回取り戻すと、ほとんどの方は3日目、4日目くらいで立ち直っていきます。

重い石を持ったまま、暮らされているんですね。それを1回砕く時間が必要です。それがペットと過ごした暮らしを取り戻すことなんです。すると、磯さんのように「ぬくもりを感じるようになった」とか「なんとなく声が聞こえるようになった」とおっしゃる方もいます。

「目には見えなくなったけど存在はしている」ということに気づくと、気持ちが明るい方に向かっていきます。

──ペットを亡くした方の中には、「悲しくてもう飼えない」という人もいますが、そういう人も?

柴田 はい。初七日をもう1回していただいて、亡くなった子が確かにいるという感覚をつかまれたら、もう1人の家族を迎えることが可能になりますので。新しいペットを迎えることに罪悪感を感じる人もいますが、その必要は全くありません。亡くなった子を愛しむ気持ちと新しい子をかわいいと思う気持ちは、それぞれ別ものです。

──私も、新しい猫を飼うのをちゅうちょしていた時期があったんですが、モモちゃんの存在を確かに感じるようになって、それは違うなと思いました。コンタはモモちゃんの代わりじゃない。うちは人間4人、猫2匹の6人家族になったんだ。2匹ともかわいがるぞって。でも、モモちゃんのことを思うと、今もたまに泣いてしまうんです。

柴田 故人を思って涙を流すことは、とてもよいことです。涙は心のぬくもりに代わります。心の中にモモちゃんを育てる方法ですから、大丈夫。涙を止める必要はありませんよ。

画像: 新しいペットを迎えることに罪悪感を感じる必要は全くない。写真提供/磯しまこ

新しいペットを迎えることに罪悪感を感じる必要は全くない。写真提供/磯しまこ

画像: この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。

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