解説者のプロフィール

船水隆広(ふなみず・たかひろ)
学校法人呉竹学園臨床教育研究センターマネージャー。はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師として20年の臨床経験を持ち、欧米やアジア各国など国内外で鍼灸の指導に当たる。特にストレスケア、心の病気に対する経絡治療や刺さない鍼治療(さざなみ鍉鍼)を得意とする。心身健康科学修士、経絡治療学会評議員、日本伝統鍼灸学会理事、日本更年期と加齢のヘルスケア学会幹事、多文化間精神医学会会員。著書に『深い疲れをとる自律神経トリートメント』(主婦の友社)がある。
耳が硬いのは目の老化の現れ
あなたの耳は、柔軟でしょうか? 皆さんも、自分の耳を根元から前にたたんだり、上下に半分に折ったりしてください。折り曲げにくかったり、痛みを感じたりしたら要注意。耳が硬くなっています。これはズバリ、老化の現れです。
子どもの耳はフニャフニャですが、加齢に伴い、徐々に硬くなっていきます。どこかに不調がある人ほど、耳がガチガチで押すと痛かったり、耳の皮膚がカサついたりします。
硬くなった耳をほぐしてあげると、老化防止や全身のさまざまな症状の緩和に有効です。緑内障など、目の老化に伴って起こる病気も例外ではありません。
その改善のためにお勧めのセルフケアが「耳ひっぱり」です(やり方は下項参照)。
なぜ、耳を刺激すると全身に効果が及ぶのでしょうか。実は、耳には全身の臓器や部位と対応する「反射区」があります。耳の反射区は、子宮内にいる胎児の体に対応していると考えられています。
東洋医学では、古くから耳に多くのツボがあることが知られていました。それに着目し、西洋医学的な見地から系統立てたのが、フランスの神経科医ポール・ノジェです。耳の反射区は欧米で注目され、米軍でも採用されているほどです。現在では逆輸入のような形で中国でも盛んに鍼治療に使われています。

耳の反射区は胎児の体の形に対応していて、耳たぶ周辺が目に関する位置

耳ツボは米国で広く普及しており、英語表記の模型も作られている
私も、耳への鍼治療をひんぱんに行いますが、手軽に行える上に治療効果も高いものです。
東洋医学では、耳は「腎」と深いつながりがあるとされます。腎は、腎臓だけでなく、生殖器や泌尿器を含めた概念で、体の水分代謝の要です。また、腎は生命エネルギー(気)をためる場所でもあり、体内で最も大事だと捉えられています。
腎は例えるなら、生命エネルギーをためた水風船のようなもの。腎にエネルギーが満ちていれば、それが耳や外見にも現れます。細胞に潤いとハリが生まれるともに、姿勢もピンと伸びてシャキッとします。
しかし何もしなければ、加齢とともに腎は少しずつ弱り、生命エネルギーが減ってしまうのです。この状態を、「腎虚」といいます。腎虚になると、耳はカサついて、しぼんでしまい、劣化したゴム風船のように硬くなります。それに、体を内側から支える柱が縮んで、腰も曲がってしまうのです。
さらには、水分の代謝異常が起こり、体のむくみや、頻尿・尿もれなどの排尿トラブルに直結します。余分な水分が体にたまりやすくなることから、緑内障を引き起こす眼圧の上昇、さらには、めまいや難聴などの症状を招く恐れもあります。
耳をひっぱって緑内障の再発を防げた
耳ひっぱりは、さまざまな点で効果が期待できます。
①目の反射区
耳たぶは、反射区では頭部と目に当たります。耳たぶをつまんで下にひっぱることで、目を刺激することにつながります。
②耳神門のツボ
耳の上側には自律神経の働きを整えるのに効果的なツボ「耳神門」があります。耳神門の位置に指を当て、上にひっぱると、自律神経が整い、精神的に安定し、ストレスに強くなります。緑内障の悪化要因の一つとされるストレス対策になるわけです。
③耳全体をほぐす
耳の穴の少し手前(耳甲介腔)に指を当て、耳を前後に回します。耳全体を柔らかくほぐすのに有効で、血行がとてもよくなります。
実践例を紹介しましょう。60代の女性Aさんは、視界が白くぼやけたり、目に痛みを感じたりしたため、眼科を受診しました。すると、眼圧が高くなっており、緑内障と診断されたのです。手術でよくなったものの、再発を避けたいとの思いで、耳ひっぱりに取り組まれました。
続けていたところ、手術から5年、視野検査も異常なく、眼圧も正常で再発の心配はないだろうとのこと。
とにかく簡単ですから、眼圧が気になる方はぜひ耳ひっぱりをやってみてください。
目の不調に効く「耳ひっぱり」のやり方
ひっぱるところ

❶耳たぶ(目の反射区)
両耳の耳たぶをつまみ、3秒下にひっぱる。その間、口から息をゆっくりと吐き続ける。3回くり返す。

❷耳神門のツボ
両耳の耳神門(位置は上図❷を参照)に親指を当てて耳をつまみ、3秒ひっぱり上げる。その間、口から息をゆっくりと吐き続ける。3回くり返す。

❸耳甲介腔耳(全体をほぐす)
両耳の穴の手前のくぼみ(位置は上図❸を参照)に人さし指を当てて耳をつまむ。ぐるぐると3回転させる。回転の方向は、前回し、後ろ回しのどちらでもやりやすい方でよい。


この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。
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