日本では40歳以上の20人に1人がなるといわれる、緑内障の主な原因は眼圧の上昇です。あくまでも医療機関での治療がメインとなりますが、ここでは眼圧の上昇を防ぐ方法を含め、緑内障の進行を遅らせる生活習慣10ヵ条を紹介します。【解説】平松類(二本松眼科病院副院長)
解説者のプロフィール

平松類(ひらまつ・るい)
二本松眼科病院副院長。昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、彩の国東大宮メディカルセンターなどでの勤務を経て、2018年より現職。緑内障手術トラベクトーム指導医。テレビ、雑誌、新聞などでの医者任せにしないための医療解説に定評がある。『自分でできる! 人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など、著書多数。Youtube「眼科医平松類チャンネル」にて、目の健康情報を配信中。
[別記事:緑内障ってどんな病気? 自覚症状は? 目の専門医がわかりやすく解説→]
眼圧を上げない
トイレでいきみ過ぎない。息を止めての筋トレもNG

便秘になると、朝の排便時にどうしてもいきみますよね。この「いきみ」が、実は眼圧を上げるんです。
同様に、息を止めての筋トレや重い荷物の持ち上げ、我慢をして歯ぎしりをするなど、いきみに近い行為もNGです。トランペットなどの息を吹き込み続けるような楽器も、緑内障にはあまりよくありません。
いきみは確かに一瞬です。ですから、眼圧が安定している人ならいいのですが、進行している人や末期の人の場合は、注意が必要です。また、金管楽器の奏者に24時間眼圧を測定できるコンタクトレンズを装着してもらったら、9.6%も眼圧が上がることがあったという記録もあります。
いきみ過ぎないよう、便秘にならない生活習慣を心がけましょう。筋トレでは、息は止めずに、少しずつ吐きながら力を入れて行ってください。
眼圧を上げない
週に3回、1回30分くらい歩くこと。運動のし過ぎ、しなさ過ぎを避ける

一般的に、運動は健康維持に役立つといわれます。では、目の健康と運動に関連はあるのでしょうか。
答えは、「ほどほどの運動習慣は目の健康維持にお勧め」。強過ぎず、弱過ぎるわけでもない負荷の運動習慣が、目の健康維持には一番なのです。
緑内障に関しても同じ。男性の場合、激しい運動を続ける人は、そうでない人の6倍も緑内障になりやすいのです。また、運動習慣がない人も緑内障になりやすいと報告されています。
まずは週に3回、各30分程度の散歩を習慣にしましょう。ただ、「ほどほどの運動」は人によって異なるため、これでは物足りない、あるいは疲れてしまうという人もいるはず。それぞれの体力に応じて、息が上がらない程度の負荷の有酸素運動を続けてみてください。
散歩は外の景色を見るため、目に優しい習慣でもあります。
眼圧を上げない
うつむいてスマホを使うのはNG。スマホの総使用時間にも気をつける

便利なスマホですが、使い方を誤ると眼圧が上がることも。
例えば、スマホの画面と目の距離。あまりにも近くでものを見ると、眼圧が上がるという報告があります。例えば、画面の大きなスマホを使う、文字サイズを大きく設定するなどの工夫で、画面と目の距離を30cmくらいまで離しましょう。
画面の高さは、画面の上部が水平~15度下の位置にくるのがベスト。これより下だと目との距離が近くなりますし、うつむき姿勢で頸動脈が圧迫されて目への血流が減り、視神経がダメージを受けます。
長時間使用にも注意。スマホを1回30分以上、または1日4時間以上使用すると眼圧が上昇したという報告があります。
ほかにも、寝転がって、あるいは暗い場所でのスマホ使用で眼圧が上がるというデータも出ているので、なるべく避けましょう。
血流をよくする
ニコチンは血管を強力に収縮させるのでタバコは吸わない

タバコの健康被害は広く知られています。ただ、緑内障に関しては、喫煙習慣によって悪化するという研究報告は今のところありません。
それでも、私を含めた眼科医の多くは、絶対にタバコは勧めめないでしょう。喫煙習慣は血流を悪化させ、目へ悪影響を及ぼすからです。
肺で吸収されたタバコのニコチンは血管を強力に収縮させ、その作用で目の血流が悪くなります。強い眼圧にさらされ続けて弱った視神経に酸素と栄養が十分に行き渡らなければ、視神経にはさらに大きなダメージが加わります。
ただ、どう生きるかはその人次第。悪影響を理解した上で、喫煙をするかどうか、検討くださればと思います。
ちなみに、ネクタイを強く締めたり、きつい服を着たりしても、頸動脈が圧迫されて目の血流は悪くなります。
眼圧を上げない
隙間時間を利用して5分間の瞑想を習慣にする

①目を閉じて、静かに呼吸する。
②鼻からゆっくり吸って鼻から吐く。吸うのも吐くのも4秒間ずつ。
③呼吸だけを意識し、ほかのことは気にしないようにする。
④目から力が抜け、眼圧が下がっていくというイメージを持つ。
⑤おなかが膨らんだり凹んだりするのを感じる。
⑥5分経過したら、全身の力を抜いて終了する。
眼圧抑制効果が一番高いと思われる生活習慣は、瞑想(マインドフルネス)です。
アメリカの緑内障専門誌で発表された報告では、45分の瞑想習慣で眼圧の低下を確認。ストレスで増えるホルモン・コルチゾールの減少や、神経細胞の成長再生を促す物質・BDNFの増加なども確認されています。
この変化は、自律神経のうちの副交感神経が優位になったためでしょう。副交感神経が優位になれば血流もよくなります。
瞑想はリラックスできる姿勢で腹式呼吸をゆっくりとくり返すだけ。息は、鼻から吸って鼻から吐くのがベストです。
15分以上続けるのが理想ですが、最初は1~3分でOK。私も自分で検証しましたが、5分の瞑想で眼圧は下がりました。
緑内障では数種類の目薬を間隔を空けて使用するのが一般的です。この時間を利用して瞑想を習慣にしてみませんか。
眼圧を上げない
暑くてもジョッキのビールを一気飲みしない。水やジュースも同じ

暑い日はジョッキのビールを一気飲み。この爽快感は夏の楽しみの1つですよね。でも、緑内障の人は、絶対にやらないでください。
実は、500ml以上の水分を5分で飲むと、眼圧が上がるという報告があるんです。
目の内部はほとんどが水分。そのため、短時間で多くの水分をとると、目の中の水分の量も一気に増えて、眼圧が上がってしまうというわけです。
ジュースや水などを一気飲みする人は少ないでしょうが、暑いときに飲むビールやカクテル類などは、あっという間に飲み干してしまいがち。しかも、アルコールには利尿作用があるため、時間がたつと体内の水分が減って血流が悪くなり、視神経にダメージを与えるというマイナス面もあります。
肝臓だけでなく目の健康のためにも、お酒はゆっくりと味わって飲みましょう。
ストレスを減らす
蒸しタオルで目を温め、リラックス効果を得る。目の疲れも取れる

目を酷使したら、蒸しタオルなどで目元を温めると気持ちがいいですよね。目元を温めたときの心地よさは、自律神経のうちの副交感神経を優位にして、血液の流れをよくします。目の血流がよくなれば新鮮な酸素と栄養が行き渡るため、視神経のダメージが和らぎます。
目元を温めると、まぶたの血流もよくなります。
まぶたは、体の他の部分の皮膚と同じように、油を分泌しています。この油は眼球を覆って目を保護します。目元を温めてまぶたの血流がよくなれば、目を保護する油の分泌も増えるというわけです。
緑内障の患者さんのように、目薬を普段よく使う人は、目の表面がザラザラに荒れてしまいがち。その結果、ものが見えづらくなることもあります。
目薬の副作用から目を守るためにも、目元の温めはお勧めです。
眼圧を上げない
寝るときは枕を低くし過ぎない。また、うつぶせ寝は避ける

目の位置が体より低いと、頭に血が上って眼圧は上がります。寝る姿勢はあおむけ寝がお勧め。あおむけ寝で頭を床から30度ほど上げると眼圧が下がるという報告があります。
ただ、実際に30度の角度をつけようとすると、かなり高い枕になってしまいますよね。だから、角度はあまり気にせず、気持ちよく眠れる範囲で、高めの枕を使うのがお勧めです。
横向き寝は、下になった方の目の緑内障が悪化するという報告も。これは、重力で房水の流れが悪くなるのと、枕で眼球が圧迫されることで眼圧が上がるからでしょう。
うつぶせ寝は、重力で水晶体が下がって房水の出口のある隅角が狭くなり、眼圧が上がります。同じ理由で、昼寝の際に机に突っ伏すのもNG。マッサージなどでうつぶせ寝が避けられない場合は、休憩を挟み、短時間にとどめましょう。
ストレスを減らす
温かいお茶、できれば玉露を飲み、リラックスする

ストレス過多の状態が続くと、交感神経の働きが優位になって血管が収縮し、血液の流れが悪くなります。緑内障の弱った視神経にとって、この状態はあまりよくありません。
血流をよくして視神経に十分な酸素と栄養を送るには、速やかなストレス解消が必要です。
お勧めは温かいお茶。お茶を飲んで落ち着いた気分になるのは、テアニンという成分によります。テアニンはリラックス効果が高く、ストレスの軽減や睡眠の質の向上に役立ちます。
テアニンは玉露に多く含まれます。ストレスを感じたら、玉露で一服してみましょう。
活性酸素を減らす
緑黄色野菜をとる。特にホウレンソウ、ブロッコリー、ゴーヤがいい

緑内障の悪化を防ぐには、緑黄色野菜のホウレンソウ、ブロッコリー、ゴーヤがお勧め。
紫外線を浴びたりストレスにさらされたりすると、体内で活性酸素が発生し、病気や老化につながる酸化が起こります。視神経でこれが起これば、緑内障は悪化しかねません。
緑黄色野菜は、活性酸素の害を除去する抗酸化物質が豊富。抗酸化物質の中でも、特に目にいいのはルテインとβ-カロテンで、緑黄色野菜の多くに含まれています。
他にも、ビタミンAとCが緑内障の悪化を防ぐという報告があります。

この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。
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