解説者のプロフィール

矢野順子(やの・じゅんこ)
NPO法人生命の貯蓄体操普及会理事長。1976年から鍼灸師として活動。1983年、ワシントン州鍼灸免許取得。シアトル中央コミュニティカレッジ、パシフィック鍼灸カレッジで講師を務める。1988年、生命の貯蓄体操普及会常務理事に就任し、全国の支部で体操を教える講師となる。2011年より生命の貯蓄体操の理事長に就任し、現在に至る。
▼生命の貯蓄体操普及会(公式サイト)
体の要を整えて腰痛やひざ痛を解消
「生命の貯蓄体操」は、私の父・矢野順一が「東洋医学の知恵を活用し、誰もが自分で自分の健康を守れるように」と考案したのが始まりです。
基本は、31の動作から成る「五導術」と5つの動作から成る「要の操法」の計36動作で構成されています。
中でも要の操法は、上半身と下半身とを結ぶ体の「要」である骨盤を中心とした腰部を整えることにとても役立ちます。
この動作は、日常生活で負担がかかりやすい腰部の筋肉を柔軟にして、こりや痛みを解消するとともに、全身の姿勢をよくする効果も非常に高いのです。
取り組むうちに、筋肉をゆるめるコツが身につき、体がしなやかさを取り戻します。その結果、当教室の生徒さんのように、90代や80代でも難なく開脚や前屈をすることができるのです。
筋肉がゆるむことで骨が正しい位置に戻り、体のゆがみも改善されます。その結果として、首や肩のこり、腰痛やひざ痛などが解消したという人は数え切れないほどいます。
また、全身の血流がよくなって、さまざまな臓器の働きも活性化します。そのため、血圧や血糖値の低下などの効果も現れます。「頭痛が起こらなくなった」「めまいや耳鳴りが改善した」「排尿や排便のトラブルが改善した」という声もよく聞かれます。
全国の教室で最年長の生徒の上好さんは、体操歴40年以上で、現在100歳。開脚や前屈もできますし、体も頭もしっかりとされていて、日常の家事はもちろん、庭の草抜き、銀行でのATM操作も自分でなさるそうです。まさに「健康長寿」の鑑といえるような方です。
丹田呼吸をすると活力が湧いてくる
さて、今回は要の操法から、3動作を抜粋して紹介します(やり方は下項参照)。この3つの動作は、腰、背中、おなか、脚部のこりをほぐし、腰部の関節や股関節の動きをよくする効果が特に高いものです。しなやかな体づくりの基本となる動作になります。
普通のストレッチは、筋肉を引っ張って伸ばすことを目的にしています。それに対して、生命の貯蓄体操は、筋肉を「ゆるめる」のがポイントです。体の力を抜き、重力と体の重みを使って動かすことで、体の表面ではなく、深層部にあるインナーマッスルを刺激します。
要の操法の第1動と第3動は、腰と股関節の動きに関わる筋肉をゆるめて伸ばし、関節の可動域を広げます。ひざや腰にかかる負担が減り、姿勢がよくなったり、歩きやすくなったりします。
また、要の操法の第5動は、おなかや胸など体の前面を伸ばします。体の前側の筋肉が硬くて、ネコ背になっている人が多いのですが、姿勢を改善するとともに、呼吸器の働きをよくする効果もあります。
そして、生命の貯蓄体操のもう1つのポイントが「呼吸」です。
動作は全て、丹田呼吸をしながら行います。これは、へそから指幅4本分(人さし指、中指、薬指、小指の指幅)下にある「丹田」を意識して、深く呼吸する呼吸法になります。
東洋医学では、呼吸の目的は単に酸素を取り入れることではありません。私たちが生きていくための根源となるエネルギーである「気」を作る材料として、自然界のエネルギー(天の気)を体内に取り入れることを意味します。
自然界のエネルギーは、鼻から息を吸うことによって体内に入って、丹田で私たちのエネルギーである気へと変化します。「丹」は古代の東洋医学で「不老長寿の薬、エネルギー」を意味しますが、それが育つ場所が「丹田」なのです。
丹田呼吸をすることで、体内で気の量を調整し、隅々まで巡らせることができます。すると、体のみならず、心にも活力が湧いてきます。
また、気の通り道のことを「経絡」といいますが、いくつかある経絡の中で、体の生命活動に深く関わるのが「腎」の経絡です。東洋医学では「腎の衰え=老化」だと考えます。丹田呼吸をすると腎を活性化させることができるので、その結果、老化の防止につながります。
丹田呼吸のコツは言葉で説明するのが難しいのですが、今回の要の操法の3動作は、この呼吸の基本を身につけやすい動作でもあります。最初は難しく感じるかもしれませんが、続けることで硬い体がゆるんでくると、次第に呼吸もうまくできるようになるはずです。
まずはできる範囲からで構いません。気軽に取り組んでみてください。
自宅でできる生命の貯蓄体操
生命の貯蓄体操では、骨盤を中心とした腰部を体の要と捉えて重要視しています。ポイントは、呼吸をしっかり意識しながら行うことです。
※無理な動きは痛みやケガにつながるので、できる範囲で行うこと
股関節伸ばし[要の操法第1動]
ココに効く!
太ももの内側や股関節の周り、お尻の外側など、筋肉や靭帯を大きく伸ばす動作で、足腰が衰えるのを防ぎます。股関節が開いて動くことで、自然に上半身も前に倒れるようになります。
改善する症状
▶︎腰痛・ひざ痛・座骨神経痛
❶床に座り、体の真正面で両足の裏(できる人は両足外側の側面)を合わせ、両かかとと体の間にこぶし二つ分のスペースを作る。体が硬い人は、両かかとと体が離れていても構わない。
![画像1: 股関節伸ばし[要の操法第1動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/c8f0ceb2a7c99c239cdaa6593a9cf597a31f2ae9.jpg)
❷両手の手のひらを、前方に滑らせながら上体を5秒ほどかけてゆっくりと倒す。上体の重みを利用するのがコツ。無理に反動をつけない。
![画像2: 股関節伸ばし[要の操法第1動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/de1ee5d6521edf78126d4846ec194051f716cd33.jpg)
口からハーッと息を吐きながら行う。丹田からゆっくりと吐き出すイメージを持つことが大切。
![画像3: 股関節伸ばし[要の操法第1動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/77c3f49fcc0d8a967aeebfd5360f864c3f11a2b0.jpg)
❸鼻から息を吸いながら、①の姿勢に戻る。息を吸う際も、丹田に送りこむイメージで吸い込む。②~③を20回くり返す。
![画像4: 股関節伸ばし[要の操法第1動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/e352bd4dd9bd9df46c784472a19219b6052b2dd8.jpg)
ベタ開脚[要の操法第3動]
ココに効く!
日常生活では使う機会が少ない、太ももの内側の筋肉をゆるめて伸ばす動作です。ここを柔軟にすると、股関節の可動域が広がり、ひざや腰の負担が減ります。
改善する症状
▶︎便秘・頻尿・生理不順
❶床に座り、無理のない範囲で開脚する。両手を肩幅に開き、床に軽く触れる。
![画像1: ベタ開脚[要の操法第3動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/ab167ff54d8d8b88627018a21516ed40c20117bc.jpg)
❷上体の重みを利用して、5秒ほどかけてゆっくりと前に倒す。
![画像2: ベタ開脚[要の操法第3動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/1d5e2d3841b48fd0d21da2cc0b1271ad3c4ffa1e.jpg)
口からハーッと息を吐きながら行う。丹田からゆっくりと吐き出すイメージを持つことが大切。無理のない範囲で、上体を倒れるところまで倒す。
![画像3: ベタ開脚[要の操法第3動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/bd56c815fb26adb55c4bb0e97d31fdea6ce2f90d.jpg)
❸鼻から息を吸いながら①の姿勢に戻る。息を吸う際も、丹田に送りこむイメージで吸い込む。②~③を20回くり返す。
![画像4: ベタ開脚[要の操法第3動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/439f964c6b0fce77ef40cc87917d66f076cb2742.jpg)
背そらし[要の操法第5動]
ココに効く!
おなか、胸、のどを伸ばす動作です。体の前面の筋肉が硬くなることで起こるネコ背を解消します。ネコ背は横隔膜や肋間筋といった呼吸筋を弱らせますが、ネコ背そのものが解消することで、呼吸器の不調も改善するでしょう。
改善する症状
▶︎ネコ背・頻尿・呼吸器の不調
❶座布団を1枚折り曲げて、足の付け根に当てて、その上にうつぶせになる。座布団の折り目は頭側と足側のどちらでもOK。
・両手を肩幅に開き、指先を正面に向ける。両足の親指を合わせ、かかとを外に開く(Vの字型)。
・両手を伸ばして、上体を持ち上げ、斜め上を見るように顔を上向きにする。
※もし、座布団が1枚だと足の付け根が座布団に乗らなければ枚数を増やして調整する
![画像1: 背そらし[要の操法第5動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/8c9c865451fafa54f2f2a07ffeb27022ba6f7ed4.jpg)
❷大きく口を開けて、短めにハーッと息を吐きながら、首の力をゆるめたまま頭を素早く後方に倒す。丹田から吐き出すイメージを持つのが大切。ポイントは、おなか、胸、のどが気持ちよく伸びるのを感じること。
![画像2: 背そらし[要の操法第5動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/699e910c5839037e64db4dcc6dc34062d479f423.jpg)
❸鼻から息を吸いながら、①の姿勢に戻る。息を吸う際も、丹田に送りこむイメージで吸い込む。②~③を20回くり返す。
![画像3: 背そらし[要の操法第5動]](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783536/rc/2022/08/30/fcaed71bb1d9ebfa9455ee6ba152a51669db1d1e.jpg)

この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp