解説者のプロフィール

西山利正(にしやま・としまさ)
関西医科大学衛生・公衆衛生学講座教授。医学博士。1982年関西医科大学卒業、1986年奈良県立医科大学大学院博士課程修了。同大学講師、奈良県衛生研究所総務課主幹などを経て、2000年より現職。専門は公衆衛生学、渡航医学、熱帯医学、国際保健学。2007年8月、日本渡航医学会理事長に就任。同年9月に、関西医科大学付属滝井病院に開設された「海外渡航外来」で診療に当たる。
少し寝込んだだけで筋肉が4kg落ちた
私は先日体調をくずし、6kgもやせました。調べてみると、なんとそのうちの4kgは筋肉。毎日8000歩は歩いていたのに、こんなに簡単に筋肉が減るとは思いませんでした。
65歳の私でもこうなったということは、70歳以上の人は、もっと些細なことで筋肉が落ちる可能性があるということです。特に高齢者の筋力低下は、加齢によって心身が衰える「フレイル」や転倒リスクを高めます。
これらの予防には、運動とたんぱく質が豊富な食事の習慣がお勧めです。
私たちは2017年より、日本ハムとの共同研究で、高齢者のフレイル予防プログラムの効果を検証しています。
家にこもりがちな人でも、運動などの予定があれば外出します。そうして仲間たちと運動をした後は、皆で食事を楽しむ。この一連の習慣が、フレイル予防につながらないかと考えたのです。
実験は、健康な65歳以上の男女(平均年齢81.2歳。要支援・要介護)27名の協力を得て、半年間かけて行いました。
前半の3ヵ月は、週に2~3回のデイリハビリセンターでの運動教室とその後の食事会の他、週4回分の食事を補助する加工食品(1日に必要なたんぱく質の平均20g分)を食べてもらいました。後半の3ヵ月は食事の提供を止め、運動だけを続けてもらいました(コロナ禍では食事会を中止)。
運動の内容は、ストレッチや筋トレなど。施設のトレーナーが各自の体力に応じて組んだプログラムを、継続的に行ってもらいます(週合計180分)。
提供した食品は、減塩ハムやヨーグルトなどのたんぱく質が豊富な加工品です。事前に食事指導を行った上で、1日の食事で60g以上のたんぱく質をとるようにお願いしました。
運動とたんぱく質の両方を習慣にしよう
その結果、運動+たんぱく質豊富な食事を続けた前半の3ヵ月で、筋肉量と右手の握力が増加しました。中には、握力が上がり手作業がらくになったという人もいます。
しかし、その後の運動だけを続けた後半の3ヵ月で、筋肉量と握力は元の状態近くまで低下したのです。このことから、フレイルを予防するには、運動習慣とたんぱく質摂取の両方が必要なことが確認できました。
自宅でこれらを習慣化するポイントは、次の通りです。
●運動は、可能であれば知識のある指導員の下で行う。自分で行う場合は、きついと感じるよりもやや手前のレベルの運動量が目安。
●1日の食事で60g以上のたんぱく質摂取を目指す。肉や魚、卵、大豆製品など、好みのもので構わない。
もう一つのポイントとして、皆で楽しく運動し、ご飯を食べることが挙げられます。
フレイルには、体力が低下する「身体的フレイル」の他に、うつや認知機能低下などの「精神・心理的フレイル」、社会的な交流が減り孤立する「社会的フレイル」があります。これらは相互に影響し合っています。
だからこそ、仲間と楽しく運動し、楽しく食事をすることが大切なのです。新型コロナウイルス感染症の影響が続く今はまだ難しいでしょうが、非日常が日常に戻ったときのために、ぜひ覚えておいてください。

楽しい運動&高たんぱくの食事でフレイルを防げ!
[別記事:【70代からの食事術】安くて使いやすい高たんぱく食材ベスト5〈簡単レシピ付き〉→]

この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp