食生活には、その人の人生が反映されます。例えば、過去の記憶や経験から特定の食材にこだわる人の場合、その食材を主体に、栄養バランスを整えることが重要になってきます。3度の食事が楽しみになれば日々が豊かになり、心身ともに健やかに過ごせるようになります。【解説】塩野﨑淳子(在宅栄養専門管理栄養士、介護支援専門員)

解説者のプロフィール

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塩野﨑淳子(しおのざき・じゅんこ)

管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)。2001年女子栄養大学栄養学部を卒業。長期療養型病院勤務を経て、2001年から訪問看護ステーションのケアマネジャーとして在宅療養者の支援を行う。現在は宮城県仙台市の機能強化型認定栄養ケア・ステーション訪問栄養サポートセンター仙台(医療法人豊生会むらた日帰り外科手術クリニック内)で、在宅訪問管理栄養士として活動している。著書『70歳からは超シンプル調理で「栄養がとれる」食事に変える』(すばる舎)が好評発売中。

[別記事:「たんぱく源+野菜+主食」の黄金方程式を守ればお金もかけず十分な栄養がとれる→

1杯の茶わん蒸しが低栄養改善のきっかけに

食事は栄養バランスだけでなく、おいしさも重要です。3度の食事が楽しみになれば日々が豊かになり、心身ともに健やかに過ごせるようになります。

認知症の奥さんを1人で介護していたAさん(80代男性)。料理はできないとのことで、栄養不足を注意されると思ったのでしょう。当初は、私の訪問に乗り気ではありませんでした。

そんなAさんでしたが、お話を伺うと、とあるおすし屋さんの茶わん蒸しが大好物とのこと。「妻が元気だった頃は、それをまねた茶わん蒸しをよく作ってくれた」と、懐かしそうに話していました。

そこで提案したのが、「即席茶わん蒸し」です(作り方は後述)。

これを一緒に作って試食してもらったところ、「これはうまい!」と気に入ってくれました。Aさんはそれ以降、作り方が書かれた紙を冷蔵庫にはり、何度もこの茶わん蒸しを作るようになったのです。

懐かしい味だからか、奥さんもはしが進むとのこと。Aさんはこの茶わん蒸しを2人分作り、自分は晩酌をしながら、楽しんで食べていました。

たった1品ですが、大好物の茶わん蒸しを自分で作れるようになったことで、Aさんの調理への苦手意識は軽減されたようです。それからは、さまざまなメニューに挑戦するようになり、奥さんの摂取栄養量が増え低栄養が改善しました。

現在も、2人は元気に過ごしています。

即席茶わん蒸しの作り方

画像1: 即席茶わん蒸しの作り方

材料(1人分)
松茸の味 お吸いもの……1袋
ぬるま湯……150ml
卵……1個

画像2: 即席茶わん蒸しの作り方

「松茸の味 お吸いもの」をぬるま湯で溶かし、ほぐした卵を入れる。
①を耐熱容器に注ぎ、底の深い鍋に入れる。卵液と同じくらいの高さまで鍋に水を入れてふたをし、弱火で20分ほど蒸す。
※100円ショップで売られている「ステンレス製蒸し器」を使えば、より簡単に蒸せる。
※電子レンジを使う場合は200Wに設定し、4分30秒加熱する。

自分の好みや食生活を無理に変える必要はない

食生活には、その人の人生が反映されます。例えば、過去の記憶や経験から特定の食材にこだわる人の場合、その食材を主体に、栄養バランスを整えることが重要になってきます。

Bさん(80代女性)は、床ずれ(寝たきりなどが原因で皮膚が圧迫されて壊死する疾患)がなかなか治りませんでした。

床ずれは、低栄養が一因ともいわれています。実際Bさんは、とにかく野菜が大好きで、肉や魚を出しても、あまり口をつけませんでした。

ご家族に話を伺うと、かつては夫婦で青果店を経営していたそう。そのため、野菜に相当な思い入れがあると考えました。

「野菜主体のメニューにひき肉などを加えて、自然にたんぱく源をとれるようにしましょう」とアドバイスしたところ、Bさんの栄養状態はよくなり、床ずれも治りました。

栄養指導と聞くと、「今までの食生活にダメ出しをされるのでは?」と身構える人も多いと思います。しかし、その人の好みやこれまでの生活スタイルを聞き取って、無理なく栄養をとる方法を提案することこそが、私たち管理栄養士の仕事です。

自分に合った方法で、確実かつ簡単に栄養をとりたい人は、病院の管理栄養士などにも相談して、自分なりの「バランス栄養ご飯」を作ってみてください。

※個人情報保護の観点から、記事中の事例は一部内容に変更あり。

画像: この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。

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